94.後方支援
できることがあるのであれば頑張りたい、そんな思いから製作を申し出た。だがシャルルはゆるゆると首を振った。
「今から作るのではおそらく間に合いません。ですから、今ある在庫を全てお願いします」
「え、そんなに切羽詰まってるんですか!? じゃあ急いだほうが……」
「えぇ、今すぐにでも運び出したいのです」
ならばやはり一刻も早く、多く作った方がいいと思うのだがシャルルは頑なに在庫を出してくれという。まぁ在庫を出す分には構わないのだが。
と、インベントリを探ろうとしたところでカナタが何かに気付いたようにイエナに向かって声をかけた。
「イエナ、見せた方が早いのかもしれない。1個分の材料なら手持ちにあるんじゃないか?」
「え? あ、そっかわかった。すみません、失礼します」
言うが早いか、イエナはお高そうなカーペットの上にドンと製薬道具と素材を出す。自覚はないが、自分の製作スピードは早いらしい。一般的な薬師がどのくらい量産できるのかは知らないけれど、シャルルは製作にはそれなりの日数を要すると思っているのだろう。だから、急ぎなので在庫だけで構わない、と言っているのだ。
しかし、自分の製作スピードなら今から作っても間に合う、はず。何しろ彼の父親のお墨付きである。それを彼の目の前で実演するのだ。
「あ、あの……?」
シャルルが困惑した声を出す。が、それに構わずイエナは素材を調合しはじめた。もともと下処理を終えていたものも多く、作業はかなりスムーズだ。
5分もしないうちにポーションを作り終える。
あとからカナタに聞いたのだが、その短い間でシャルルが百面相をしていたらしい。いぶかしげな表情から目を見開き、最後は驚愕していたのだとか。ちょっと見たかった。
「完成です。いかがでしょう?」
「あ、はい。……えぇ?」
差し出されたものを困惑しながら見つめるシャルル。平常心ではなさそうだが、しっかりとルーペをかざして品質を確認する姿は流石にプロだった。
なお、イエナもしっかりツムリ旅のプロとして、会心作一歩手前の品質で作っている。
「父の手紙には『想像を絶するクラフター』としたためられておりましたが、まさかこれほどとは……。先ほどは大変失礼いたしました」
「いえ、こちらも言葉が足りなかったみたいですみません。とりあえず手持ちを全て置いておきますね。品質は今のと同じくらいだと思います」
そう言って持ってきた在庫をドンとテーブルの上に置く、というか積む。カナタに言われて備えていたため、テーブルを埋め尽くす量だ。
「在庫もこれだけお持ちだったのですね……」
「それと、冒険者の支援もできるんじゃないかって考えてます。討伐を失敗しているということは装備が壊れてしまった人もいるのでは?」
「それらは店の在庫で対応しておりますが、まさか武器や防具も……?」
「なんでも、は無理ですが、材料があればできる限り頑張ります!」
魔物は街の北側に出ているらしい。イエナたちは正直戦いの場に出て行っても、あまり役には立たないはずだ。何せこの2人と2匹のモフモフたちだけで完結するような戦いに向けて、武器もフォーメーションも調整している。大勢で戦う場には全く向いていないのだ。
だが、後方支援であればそれなりに役に立てる自信がある。
「ただ、イエナがあまり目立つのは避けたいので、そちらの方でいい感じに処理していただければ、と思います」
「……顧客の秘密はきちんとお守りいたします」
一瞬何か言いたげだったシャルルだったが、言葉を飲み込んで頷いてくれた。
(やっぱり商人としては「名前売ってなんぼ」って感じなのかなぁ。でも隠密カタツムリ旅がいいんだものー!)
実はロウヤからシャルルへ宛てた手紙の中で、この2人の活躍をできる限り世間から隠すように、という指示があったのだ。シャルルは当初その意味がわからなかったのだが、目の前で爆速と言っていい速度でポーションを作り、また装備品も任せろと胸を叩くイエナを見て父の言うことに従うことにしたのである。
「あ、あと冒険者へ炊き出しをしているところってありますか? 手持ちの料理であれば振舞えますし、俺料理が趣味なんでそういった支援であればお手伝いできるんですが」
カナタがそんなことを言い出したのでピンと来た。恐らくカナタはバフ効果つきの料理を振舞うつもりなのだ。戦う前に食べれば冒険者たちのパワーアップが期待できる。
「そのような支援をしているところもあったはずですので参加できるよう手配しておきます。また、必要物資も同様に調べておきましょう」
「ありがとうございます」
「少しお時間をいただきたいので、よろしければ宿でお待ちいただけますでしょうか?」
ということで、2人は一旦宿に戻ることにした。シャルルの対応からすると、どうやらポーションの量は在庫分でひとまず何とかなるようだ。
来客に注意しつつ、時間が許す限りルーム内でいい子にしていたモフモフたちを構い倒す。
「もっふぃー、私たち頑張ってくるからね。後方支援だけど」
「めぇ~~~~~」
「メェッメェッ」
癒しのペットのモフモフを堪能、もとい、ブラッシングしながら経緯を説明する。可愛い上に賢い彼らは相槌のように鳴き声を発してくれていた。たぶん、ちゃんとわかってくれているのだ。カワイイ。
「後方支援だって立派な仕事だしな。とはいえ、シャルルさんがあそこまで協力的になってくれるとは思わなかったよ。結構無理言った自覚あったからさ」
「ロウヤさんが何か書いてくれたんだろうね。私も職人として頑張るわ」
魔物が存在する間は、イエナたちも銀世界に向かうことができない。そんなデカイ牛型魔物が出没するかもしれない場所をビクビクしながら通るのはごめんだ。
そうじゃなくとも、今は街の北側に冒険者が集まっているはず。冒険者の中にはカナタのように気配察知などのスキルを持っている人だっているだろう。この件が片付かなければいつ何時ルームの秘密を知られるかわからない。
「俺も差し入れ係として潜り込めそうだし、頑張るよ。無事に倒してほしいもんだな。……にしても、どうやらこの地域限定の魔物『ストラグルブル』で間違いなさそうだなぁ」
「誰かが野営してコーンサラダを50個も作ったってことになるわよね。……偶然にそんなことって起こるかしら?」
「……もし余裕があれば、実物をちょっと見てくるよ」
「そんな、危ないわよ!」
「いや、マジで見るだけ。ステータスで名前だけなら遠目でも確認できるだろうし。……まだ一応ソイツで確定したわけじゃないしさ。なんか餌食いすぎたそこら辺の牛型魔物のせいもなくはないし」
「餌食べすぎたせいでそんだけ巨大化して強くなってるとしたら、そっちの方が問題な気がするんだけど」
もしカナタの仮説があたっていたら、そこらの魔物が何かのきっかけで巨大化&凶暴化してしまうということだ。そっちはそっちで大変恐ろしい事態である。
2人でブラッシングをしながら考えられる仮説を挙げていく。けれど、やはり仮説は仮説に過ぎず、これといった答えにはたどり着けない。
そのうちに来客を告げるベルが鳴り響き、2人はそれぞれの戦場へと旅立っていく。
「いってくるね、もっふぃー、ゲンちゃん」
「いいこにしててくれよ」
「めぇ~~~めぇ~~~」
「メェッ!!」
見送る2匹の鳴き声は、イエナには激励に聞こえた。
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