10.カタツムリの旅
「一緒に、旅?」
「え~っと……俺はさっきも言った通り転生者で、この世界の人間じゃない。生まれは別の世界なんだ」
「うん……」
言われた言葉に短い相槌と頷きを一つ。
転生者とは不思議な存在だと改めて思う。カナタは見た目はだいたい同い年くらいに見えるけれど、とにかく知識量が凄い。たまによくわからない単語も出てくるし。
「で、俺は向こうの世界で死んだ記憶が一切ない。気付けばここにいた。普通の転生だったら向こうで死んで、神様に拾われるとかなんとかがセオリーだと思うんだけど、そんな記憶もないし……。転んだら痛いわ、腹は減るわ、眠くもなるわ、疲れるわだから、壮大な夢ってこともないと思う」
転生にセオリーなんてものがあるのかと問いたいが、カナタは真剣だ。もしかしたらカナタの世界では転生は珍しいことではないのかもしれない。
また一つ、きちんと聞いているアピールをするために頷いて先を促した。
「もし、俺が死んだわけじゃなくこの世界にいるのであれば、転移ってやつだと思う。そうだとしたら、元の世界に戻れるんじゃないかと思ってさ」
「戻るって、どうやって?」
「戻れる確証はないんだけどさ。このゲームには季節恒例イベントってのがあるんだ。その中に『次元の狭間を塞ぐ』っていうのがあるんだ。詳しくは省くんだけど、もしかしたらそこから戻ることができるかもしれない。というより、そこ以外に可能性がありそうな場所がない」
「次元の狭間……いかにもなんか別世界に行けそうな感じではあるね。えーとじゃあ、塞がずにそこに飛び込んでみよう、みたいな? すごく危険そうだけど」
よくわからないけれど、なんだか壮大な響きだ。
更に言えば危険も壮大な気がする。
「あぁ、凄く危険だと思う。でもそれでダメなら諦めもつくかなって。ただ、そのイベントに参加するのが結構大変でさ。俺のジョブ見えたよな? ギャンブラーってハウジンガーよりも更に大器晩成型なんだよ」
「そうなんだ……。私、ギャンブラーってずっとハズレジョブだと思ってた。ゴメン」
ギャンブラーと聞くとどうしてもズークの顔が思い浮かぶ。今になって冷静に考えれば、彼のどこが好きだったのか全く・一切・さっぱりわからない。というか、一方的に面倒をみてばかりだったし、恋人というよりは近所のお節介おばさんポジションだったような気さえする。だって恋人らしくデートをしたこともなかったし。
もしかしたら自分はズークの面倒をみて自尊心を満たしていたのかもしれない。彼よりはまだ働けているだけマシだ、と。自分の卑しい本音がチラリと見えてしまい、ずーんと落ち込む。
「いやそこまで深刻にならなくても! 実際きちんと育てないとギャンブラーが弱いってのは事実だし」
イエナが自己嫌悪している様子に慌てるカナタ。考えていたのはズークに対する自分の姿勢なのだが、それをギャンブラーへの偏見の反省として捉えたようだ。実際は違うのだが、確かにギャンブラーに偏見を持っていたことは事実。ちょっと後ろめたいので曖昧に微笑んでおいた。
「俺はそれぞれのジョブの最適な育て方はだいたい頭に入ってるから、その辺は大丈夫。ただ、最初は成長スピード遅くて迷惑かけるとは思うんだけど、その分イエナが成長できるようにできる限りのアドバイスはする」
「それはとっても魅力的なお誘いなんだけど……」
イエナが調べられる範囲では、ハウジンガーは成長の仕方どころかジョブそのもののことがわからなかった。これから先どこを旅したとしても最適な成長の仕方はわからないだろう。
「ハウジンガーが成長できるってわかっただけでもプラスだと思うんだよね。あと、別に最強になりたいとか思ってるわけでもないし…。それと単純に、答えだけ教えて貰うのってなんかズルくないかな?」
今までイエナは自分なりに試行錯誤してきた。ひとかどの職人であれば誰でもしていることだとは思う。
カナタの提案を聞けば、その努力を軽々と飛び越えられるかもしれない。けどそれは酷く卑怯なことをしているように思えた。
「んー、そっか。そういう気持ちになるってんなら、余計なことは極力言わない。でも、そうだな……。ポイントを使う際のアドバイザーだと思って貰えればいい。聞かれたら答える、くらいの」
「相談出来るのは確かに心強そう。いやでも待って。それだけじゃなくて! カナタはその『次元の狭間』とやらに行くまでパーティを組みたいって話でしょ? それはちょっと……危険そうというか、尻込みしちゃうよ。勿論このルームを教えて貰った分、恩返ししたい気持ちあるけどさ」
軽く話を聞いただけだが、恐らく冒険者として危険区域に行くことになるのだろう。ルームがあればその危険区域であっても安全に休憩ができるというのはわかった。とはいえ、いくら無敵の殻でもずっと籠っているわけにはいくまい。そして、一歩外に出れば現れる魔物の強さはこの辺りの比ではないはずだ。
カナタの説明でハウジンガーは戦闘向きジョブではないというのが明らかになっている。つまりハウジンガーであるイエナは外に出たが最後、殻をなくしたカタツムリのような存在に成り果ててしまうということだ。
(殻のないカタツムリって…アレはさすがに嫌だな…じゃなくて!)
確かに、ちょっと旅をしてみたい。知らない世界と知らない素材を見てみたいという気持ちに嘘はない。だが、危険区域にわざわざ足を踏み入れたいとまでは思っていないのだ。
「うん、危険だからヤダっていう気持ちめっちゃわかる。俺みたいなワケのわからないヤツのせいで危険に巻き込まれるなんて真っ平ゴメンだって俺でも思うよ。だから、もう無理だって思ったらさっさとパーティ解消してくれて構わない。パーティのリーダーの権限そっちに渡すから。ただ、もう少しだけ付き合って欲しい。俺のレベルがあとちょっと上がったら、イエナの役に立てるスキルが使えるようになるんだ」
「スキル……?」
カナタは神妙な顔で頷いた。
「イエナ、世界樹の葉とか欲しいと思ったことないか?」
「へ? なにいきなり……」
突拍子もない質問に戸惑うが、モノづくりをする者として、答えは決まっている。
「そりゃあ欲しいよ。伝説の素材じゃない。染料にほんの少し使うだけで魔法防御が上がるとか色々噂は聞くもの。でも、そもそも伝説でしょ?」
「まぁ確かにハードルちょっと高いか。じゃあ、マンティコアの尾とか、グリフィンの風切り羽とか。魔物素材じゃないならそうだな……ミスリルとか、妖精綿とかは?」
カナタが次々に挙げるのは世界樹の葉ほどではないが、かなりの高額素材だ。ごく稀に市場に出ることもある、と聞いたことはある、というレベルのもの。お目にかかったことはもちろんない。
都の高級店に行けばそれらを素材としたものも置いているらしい、くらいの。
「どれも超高級素材じゃない。魔物素材の方はかなり強い冒険者パーティが挑むようなやつだし、そうじゃないのは秘境でしか採れないって噂でしょ」
「良かった! 知識としては知ってんだな。あ、いやバカにしてるわけじゃないぞ? 俺がこっちの世界の常識知らないからどうかと思って」
「うん、まぁ…常識はないよね。で、その素材がどうしたの?」
「俺と一緒にパーティを組んでくれれば、多分、ほぼ確実に出合える」
カナタは自信満々に言い切った。
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