表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第二部少女期 第七章 北西山脈

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/277

03:記述式呪文



 シリウスと私は、学院長とオクタヴィー師匠に魔法文字の件を報告した。

 学院長室に集まって、シリウスと私でそれぞれ説明をする。


「なんですって!?魔法の発動に、詠唱が必要ない?」


 師匠がひどく驚いている。学院長に至っては、ぽかんと口を開けたままだ。

 さもありなん、今までの魔法の常識を覆す発見だもの!


「今のところ試した範囲では、『光』でロウソクやランプの代わりの明かりになると思います。『熱』で加熱、『冷』で冷却も使えそうです」

「すごいじゃない!きみのドライアイスの魔法がなくても、冷凍ができる?」

「ドライアイスほどの低温ではないですね。冷蔵を効率的にするくらいでしょうか」


 すぐ実践に目が行くあたり、師匠らしい。


「何にせよ、褒めてあげるわ、ゼニス。それにシリウス」

「ふん。やっと僕の優秀さが分かったか」

「こらっ、シリウス!こういう時は「光栄です」とか言うの!」

「シリウス、口を慎みなさい」


 私と学院長のダブルツッコミが入った。

 師匠はいつもは彼の無礼な態度を嫌っているが、今日は大きな成果を目の前にして機嫌がいい。あまり気にしていないようだ。


「魔法文字に関することだから、この研究をシリウスの担当にするわ。ゼニスは副担当でサポートしてあげなさい。予算も付けるわよ」


 フェリクスはもともと相当な資産家だが、最近は冷蔵運輸で収入がすごいことになっている。景気が良いね!

 で、私が副担当か。じゃあついでに、前から気になってたことを言ってみよう。


「私がサポートするのはいいんですけど、いつまでもというわけにはいきません。この際、シリウスにマネージャーをつけませんか?彼、研究に専念した方が能力を活かせますから」

「そうですな。シリウスは魔法以外はからっきしですから、面倒を見る人間が必要です」


 学院長も同意した。


「マネージャーねえ。まあ確かに、ゼニスにシリウスのサポートばかりさせるわけにも行かないわね。ゼニスだって我がフェリクスが誇る氷の魔女なんだから」


 と、師匠。氷の魔女呼びは何年経ってもすたれなくて参っている。


「僕はゼニスがいい!他の奴はどうせ、僕のことを分かってくれない」


 シリウスが怯えたように言って私の隣に来る。

 私はにっこり微笑んでみせた。


「大丈夫だよ。シリウスの取扱説明書、作るから。それがあれば、他の人だって分かってくれる」

「僕の説明書?」


 彼は首をひねっている。

 取説というか、彼という人の大まかな傾向を書いて注意点をまとめておけば、けっこう何とかなると思う。難儀な奴だが根は素直なので。


「マネージャーも今日明日で見つかるわけじゃないし、おいおいね。それまでは今まで通り、私が手伝うよ」

「そ、そうか……。安心した」

「だから当面は、二人でバリバリ研究しよう!」

「ああ、そのつもりだ!」






 こういう経緯があって、私はここ何ヶ月か、記述式の呪文を研究している。

『実行』と組み合わせて効果を発揮する文字も、だいたいルールが見えてきた。

 文字を刻んだ白魔粘土だけで完結する動作の動詞であれば、発動するようだ。

 例えば『戻る』だとどこに戻るのか?という問題が出るため、効果なし。なかなか限定的だ。

 ただしそれ以外でも、『笑う』とか『泳ぐ』といった白魔粘土で再現不可能な動詞だと駄目である。


 これらのルール確定と並行して、色んな素材に魔法文字を書き込むテストもやってみた。

 鉱物や木材、動物や魚の骨や皮、貝殻、後はレンガやセメントなどの人工物も。

 すると、鉱物は北西山脈産が。木材は北部森林産のものが弱いながらも効果を発揮した。

 白魔粘土の材料、魔力石も北西山脈が産出地。北の方が魔力が強い土地なのだろうか……?


 また、魔力の反応があった素材を粘土化できないか試してみたが、こちらは空振りに終わった。

 こう見ると魔力石と白魔粘土の有効さが際立っている。


「記述式の呪文、参考になるものが少なすぎるのが問題だよね」


 シリウスの研究室で素材の山を前に、私はため息をついた。ここ何ヶ月かでやれることはやったと思う。

 つまり、行き詰まり気味なのだ。


「そうだな……。『実行』に関しては、これ以上の発見はなさそうだ。それ以外の記述ルールが欲しいところだが」


 シリウスが『光』の白魔粘土を仕込んだガラス玉を触りながら言う。

 これは私たちの発明品の一つで、魔法のライトだ。ガラス玉のレンズ効果で光が反射し、より明るくなっている。

 魔力がないと扱えないのがネックだが、松明やろうそくと違って火を使わないので重宝している。臭いも煙も出ないし、安全。


 今の季節は夏の終わり。そろそろ陽も短くなってきて、ライトのありがたみが沁みる。


「ブリタニカに行ってみるか……」


 彼はぽつりと言った。

 ブリタニカははるか北西の場所にある、ノルド人たちの土地だ。シリウスや学院長のご先祖様の出身地でもある。


「この『実行』が書かれた石版も、元はブリタニカの発掘品らしい。残りの破片が見つかるかもしれない。そうでなくとも、あちらは遺跡や出土品が多いから、何かの参考になるかも」

「ブリタニカは、遠いよね?」

「ああ。僕はまだ行ったことがないが、伯父さんの話だと片道二ヶ月はかかると。移動だけで往復四ヶ月、滞在も含めたら最低でも半年程度は必要になる」


 ブリタニカに行くには、北西山脈を越えないといけない。隊商や旅人の登山ルートはあるが、厳しい道程だ。

 そして一度旅立ってしまえば、連絡手段もない。前世のように電話やメールでいつでも話せるわけじゃないのだ。

 それに苦労して旅をしても、必ず成果があるとは限らない。何も得られず終わるかもしれない。


「どうするか……」


 シリウスが悩んでいる。私としても判断が難しい。


「仮に行くとしたら僕が行く。ブリタニカ行きは、検討する価値はあると思っている」

「シリウスが自分で?」


 運動クソ音痴なのに大丈夫か?山越えできるのか?


「向こうには、アルヴァルディの血族がいるから。僕が行けば協力してもらえるはずだ」


 ひいおじいさんのフェイリムは、ブリタニカでも名の通った魔法使いだった。その名声はまだ生きている。

 反対に下手によそ者が行けば排斥されてしまうそうだ。


「もう少し考えてみようよ。北西山脈越えは、決して安全な道じゃないし」

「ああ。ただ、行くとしたら季節を選ばないとな。冬に山脈越えは無茶だから」


 とりあえず、その話はここで終わった。




 ところが、思わぬ所で別の問題が浮かび上がってきたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~

コミカライズ配信サイト・アプリ
>>コロナEX
>>ピッコマ


>>転生大魔女 書籍情報

転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
ロゼッタストーンが発掘されると良いですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ