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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
【成人期】第十八章 東の動乱

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06:前夜の会議


「第一王子が聖櫃(せいひつ)を持ち出した? 何故そんなことを?」


 副団長が言ってラスが答える。


「アル兄上は、シモンの過度な信仰心を以前から心配していました。あるいは予感があったのかもしれません。

 それで殺される前に、聖櫃を持ち出して隠した……」


「しかし第一王子は既に死んでしまった。シモンは当然、聖櫃を必死に探しただろう。それでも未だ見つからないということは、発見は絶望的では?」


「いいえ」


 ラスは首を振った。


「……心当たりがあります。恐らくあそこで間違いない」


 静かだけど、確信に満ちた口調だった。


「じゃあ、聖櫃の件は心配しなくていい?」


 私が言うと、ラスはうなずいた。


「はい。まずはシモンを討ちましょう。それ以外のことは全て終わった後で構いません」







 その後は軍議となって、王都での対籠城戦を議論した。

 王都の城壁は堅牢だが、エルシャダイの国民が穏健派と過激派、それに中立派で割れていたこともあり、新たな堀や柵などはほとんど作られていないとのこと。

 ユピテル軍の攻城兵器は分解した状態でここまで運んできた。組み立ては半日もあれば可能。

 エルシャダイ王都までの距離はあと2日程度だ。脱走兵たちと合流の上、王都間近まで進軍して兵器を準備することになった。


「王都の市民たちの蜂起は期待できないですか?」


 私が聞くが、ヨハネさんは首を横に振った。


「難しいでしょう。市民たちの多くは中立派ですが、身内の中で穏健派と過激派に分かれている者が少なくない。

 しがらみや板挟みの中で、ろくな武装もない市民たちの蜂起を前提に考えるのは、さすがに無理がある」


「説得や工作もしたのですが、手応えはあまり……」


 シャダイ教の司祭も苦しい表情だ。


「しかしそうなれば、攻城戦の後に市街戦になる」


 副団長が言う。


「ランティブロス殿下の前であまり言いたくはないが、市街戦は悲惨なものだ。敵兵が市民を盾にするケースも想定できる。

 同盟国の都市ゆえ、我が軍に略奪と殺戮禁止を厳命するが、敵兵……特に民兵と市民の区別がつかない場合は当然あるだろう」


「…………」


 ラスは拳を握り締めた。今は敵でも同じエルシャダイ市民、シャダイ信徒の人たちだ。王子である彼の心がどれだけ苦しいか、伝わってくる。


「……ぎりぎりまでシャダイの民に犠牲を出さずに済む方法を探ります。けれど、他に方法がない場合は――」


 それでもラスは言った。


「市街戦となった時は、僕が先陣を切ります。副団長とユピテル軍団兵は、その後に続いて下さい」


「確かに承った。そうならないよう願っている」


 副団長はそう言ったが、市街戦が避けられないのはほとんど明らかだ。


 何か私に出来ることはないか。

 ホウキで飛んで城壁を越えるのはどうだろう。

 でも、ホウキでは一度にたくさんの兵士を運ぶのは無理だ。となると私1人やせいぜい数人の精鋭を送り込むだけになる。

 それで何とかなるか? 相手は4000人以上の敵兵である。


 あまりいい手ではない気がしたが、一応聞いてみた。


「シモンの暗殺は狙えませんか。私の飛行魔導具で私自身と精鋭を何人か城内に運んで」


「さすがに無茶です。シモンがどこにいるかも分かりませんし、護衛は当然ついていますよ」


 と、ヨハネさん。副団長も腕を組んで言った。


「死兵であれば効果はあるかもな。だが、フェリクスの氷雷の魔女殿をそのような死地に送り込むわけにはいかん。諦めてくれ」


 確かに、自爆テロみたいなやり方であれば混乱を与えられるだろう。でもそれじゃあ駄目だ。私はそう簡単に死ぬわけにはいかない。


「それに、暗殺ではいけません。可能な限り捕縛して、シャダイ聖典とユピテル法に則った裁きを下したい。それが出来ずとも戦場で討ち取ったと示さなければならない。そうでなければシャダイの民たちは納得しないでしょう」


 ラスが言った。彼の瞳が『勝手なことは絶対にやめて下さい!』と言っている気がして、私は目を逸らした。


 最終的に、市街戦を視野に入れながら相手の出方を伺うという結論になった。







 本当のところを言うと、高威力の魔法を城門や城壁に撃ち込んでやればいいのだと思う。爆発でも落雷でもいい、この世界の兵器の威力を大きく超えた魔法を。

 けれどそれでは城門を抜くまでの被害と時間は減らせても、その後の市街戦にプラスにはならない。


 そして、城門に向けて魔法を使えば守備兵を必ず巻き込む。高威力の魔法に巻き込まれれば、人間の肉体などひとたまりもない。

 この前のように殺さず手加減したり、誰もいない崖を崩すのとは訳が違う。

 それを知った上で、私に実行出来るか?

 城門を抜けた先に市街戦というさらなる地獄が待っていると分かった上で、出来るのか?


 ――やるしかない、と思う。いよいよ戦端が開かれて、攻城兵器が引き出される段階になったらやる以外の選択肢がない。

 そうでなければ戦が長引いて、やがてアルシャク朝が出てくるだろう。そうなれば今の兵力では勝ち目がない。

 ラスは良くて敗走の後、ユピテル元老院から責任を追求されて処罰。戦場で戦死や捕虜になった上で処刑の可能性も高い。


 でも、その時まではまだ少しの時間がある。

 もう一度状況を見直して、現地をこの目で見て。何とかして正面衝突以外の可能性を探さなければ。




 エルシャダイ王都到着まであと3日。タイムリミットは迫っている。



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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[良い点] グレン「タイムリミットは迫っている」 近い将来強化外骨格とか作って追っかけてきそうw
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