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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第三部成人期 第十四章 平穏な日々と予感

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13:決意


本日5/28、2話目の投稿です。

区切りの都合で短め。ついでに申し添えておきますが、本作品はハッピーエンド確定です。



 行きと同じだけの距離を歩いたはずなのに、よく覚えていない。

 気づいたらお屋敷のいつもの部屋に戻っていた。私1人で、誰もいない。

 ……ああそうだった、さっきまでグレンがいたが、1人になりたいからと外してもらったんだった。


 決めなければ、何を選んで何を捨てるかを。


 考えて、考えて。考えすぎて吐いてしまったけど、まだ考えて。



 出した結論は、魔界を去る――だった。







 ひとの気持ちなんて、アテにならない。

 グレンは今は私を大事にしてくれるけど、それは人間が物珍しいだけかもしれない。何年かしたら飽きて投げ捨てるかもしれないでしょ。

 魔族は寿命がとても長いから、若い時期も長い。反対に私は今は若いけど、あっという間におばさんになって、おばあちゃんになる。

 前世で30を超えるまで生きて体の衰えを実感していたから、これから年を取っていくのは当たり前のことだと理解してる。

 私がしわしわの老婆になっても、彼が今のように大事にしてくれるとは思えない。

 前世アラサーの頃に20歳の女の子を見たら、「若いなぁ、可愛いなあ」と思ったもんね。若さはそれだけで価値がある。魔族のグレンはその辺を分かってない。


 それと、ずっと気になっていることがある。最初に殺し合いをしたせいで、彼は私に一目惚れしたと言っていたけど。

 それは単なる吊り橋効果ではないだろうか。生き死にの恐怖を恋愛的なドキドキと勘違いしてしまう、あれ。

 そして私も実はもう頭がおかしくなっていて、ストックホルム症候群になっていて、恋だと思ったのはただの心の防衛反応なのかもしれない。

 つまり2人とも、ただの思い違いをしていたんだ。


 そんなふうに思ったら、……すごく悲しかった。

 もうこの場所に居たくない。家に帰りたい。吊り橋効果が冷めて捨てられる前に、逃げ出したい。

 そう思ったら、あっさり心が折れた。笑える。今までけっこう頑張ってきたつもりだったのに、台無しだ。







 自嘲したって事態は変わらない。思考を切り替える。

 逃げ出す決心をした以上、問題は今すぐには帰してもらえそうにない点かな。

 仮に「帰りたい。グレンはどうせ、人間の私のことなんてすぐ飽きるよ」と言ったところで、素直に帰してくれるだろうか?

 ……難しそうだ。さんざん引き止められたし、彼は思い込みが強いから。

 吊り橋効果込みの初恋を、真実だの永遠だのと思い込んでそう。アホかよ。アホだわ。変態の上にアホとか、困った人だね。


 境界への道は分かった。装置の起動はグレンの魔力が必要なことも分かった。

 私は今、彼と魔力回路が繋がっているから、これを上手く利用できないだろうか。魔力を受け取って貯めておくとか? 現地でもっと試してみればよかったな。

 とにかく考えられる限りの手段を準備して、もう一度境界に向かおう。

 なるべく早くに。多少強引でもやり遂げよう。

 年単位で機を伺うのは、さすがに自信がない。もしもっと彼を好きになってしまったら、みじめな苦しみが増すだけだ。


 そしてそのためには、もう一度グレンを騙そう。彼だけじゃない、アンジュくんもシャンファさんも、カイも。リス太郎も。みんな良くしてくれたから、心が苦しいけど。でも、仕方がないんだ。

 明日になったら笑顔を作って部屋を出て、嘘をつこう。


「決心がついた。魔界に残ってグレンのそばにいるよ」


 と。


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