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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第三部成人期 第十三章 少しずつの変化

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06:魔力色


 食事が終わったので、グレンの北棟に行く。シャンファさんは食器洗いを済ませてからとのことで、彼女を抜かした4人――アンジュくん、グレン、カイ、私のメンバーである。


「より精度の高い魔力回路の使い方だったね」


 北棟の応接室で皆にソファに腰掛けてから、アンジュくんが言った。


「じゃあまず、ゼニスちゃんの魔力色を教えてね」


「白だよ」


 なんで魔力色? と思いつつ答えると、すかさずグレンが横から割り込んだ。


「透明だろう」


「どっち?」


 アンジュくんが首をコテンとかしげた。中学生みたいな外見だから、ちょっと子供っぽい仕草も似合ってる。


「白で間違いないって。人界の魔力石で何度も見たもの」


「つながった魔力回路から、いつも透明の魔力を感じている。見間違えるはずがない」


 と不毛なやり取りをした末に、もう一度確認しようとなった。


「これを使ってくれ」


 グレンが執務机の引き出しから、透明な水晶の欠片みたいな鉱石を持ってきた。小さいけれど六角柱になっていて、キラキラときれいだ。


「これは何?」


「魔晶石。魔力に触れると光るんだ。生物の魔力色は、これで確認する」


「へえ、魔界にもそういうのがあるんだね。人界にもあったよ」


 などと言いながら、私は左手の指先に魔力を集めて魔晶石を触った。

 魔晶石が光る。


 その色は――無色。光そのものとしか言えない輝きが、魔晶石からあふれていた。


「ほら、透明だった。だから言っただろう、ゼニスはダイアモンドのような輝きだと」


 グレンは無駄に得意顔である。


「えぇー?」


 ダイア云々の言い方、ちゃんと現実に即した喩えだったのか。魔界のダイアが白いのかと思ってたわ。


「おかしいなぁ。人界の魔力石の時は白かったのに」


 私がまだ納得できずに首をひねっていると、グレンが言う。


「その魔力石というのは、どういうもの?」


「白っぽい石で、北西山脈――人界の大きな山脈ね。そこに鉱床があるの。で、この魔晶石と同じように魔力に触れると光る」


「ふむ、白い石か。それなら透明に光っても白く見えるね」


「あ」


 そういうことか!

 魔力持ちが魔力石に触れると、必ず何かしらの色の光になっていたから、その発想はなかった。


「透明の色はとても珍しいよ。少なくとも魔族では、聞いたことがない」


 アンジュくんが興味深そうに言った。


「人間だと、よくある色なの?」


「いや、人界でも透明、というか白は珍しかったよ。200人近く調査したけど、私の他には2人だけだった」


「1.5パーセント程度だね。しかも本当に白い人もいたかもしれないと考えると、割合はさらに低い。

 人間の魔力色は、他にどんなのがあったの?」


「私が調査したのは、ざっと180人程度。それで一番多かったのは茶系だったよ。薄茶やオレンジもこれね。

 次は水色。空色みたいのからちょっと緑入ったのとか。

 あとはぐっと減って、ピンクと薄緑、黄色。あとはもう白並みに珍しくて、金色とか」


 薄オレンジはオクタヴィー師匠とドルシスさんの色。水色はミリィ。

 金色はシリウスで、私の知る限り彼だけの色だった。妹のカペラも魔力持ちだけど、ベージュっぽい茶系だったから。

 なお、魔力色の調査は私が10歳くらいの時から、教師権限で行っていた。ちゃんと毎年新入生の記録を取って、一覧にした冊子を研究室に置いてある。すぐに何かの役に立つわけでもないが、気になったのである。


「空色やピンクかぁ。全体的に薄い色?」


「うん。はっきりした原色の人はいなかったよ」


「ちなみに、色が見えるくらいの魔力の持ち主は、どのくらいの割合?」


「30人に1人くらい。約3.3パーセント」


 これも毎年の調査の結果だ。

 特に奨学金制度が始まってからは、広く平民相手に魔力を確認していた。延べ人数で1000人以上やったと思う。だから、それなりに信頼できる数字のはず。


「ふむぅ。前にシャンファから聞いたんだけど、2000年前の人間で魔力色が確認できたのは、2パーセント切ってたんだよね。

 神聖語、詠唱の魔法が使えるようになってた件といい、人間の魔力がちょっと強くなってるのかな?」


 アンジュくんは思案顔だ。


「わたくしがどうかしましたか?」


 するとちょうどいいタイミングで、シャンファさんがやって来た。アンジュくんがこれまでのいきさつを説明している。


「成る程……。確かに2000年前当時は、魔力色があると言える人間は1.9パーセント程度でした。3.3パーセントですか。かなりの増加具合ですね」


 2倍とまではいかないが、大きい違いだと思う。

 何故だろう? 見当もつかないが、何か理由があるのだろうか。







「俺も一つ聞きたい」


 アンジュくんたちと一緒にうんうん唸っていたら、カイが口を開いた。


「人界の魔力に反応する石は、白いと言っていたな。しかも大鉱床になっていると」


「うん。山脈の地下に大鉱脈があって、今は採掘を進めているところ」


 13歳の時に発見した、狼の巣穴になっていた地下洞窟を思い出す。


「それは、東の境界から見てどちらの方角だ?」


「東の境界?」


「私たちが出会ったあの場所だよ。魔界には何か所か境界があって、あれは東のと呼ばれている」


 と、グレン。なるほど。


「あそこから見たら南西になるね」


「やはり……。(あるじ)よ、これは例の件と関係があるのでは」


「む」


 カイに言われて、グレンは眉を寄せた。


「例の件って?」


 私が口を挟むと、グレンが答えてくれた。


「7年前に人界から強い魔力反応が観測されたんだ。その時の魔力は白色。そんなことは今までなかったから、驚いたよ。

 ただ、反応は一過性でほとんど一瞬。その後は何もなかったから、現場の確認だけで特に対処はしていない」


 7年前。それは、私が魔力石の大鉱脈を発見した年だ。


「ゼニスは何か心当たりがある?」


「あー、うん。ある」


 別に隠す必要もないと思ったので、私は13歳の時の冒険を話して聞かせた。北西山脈に魔力石を探しに行って、結果、鉱脈を発見した一連の話だ。

 狼の群れに襲われて死にかけたくだりを話したら、グレンが泣きそうな顔で肩を抱いてきたので、さりげなく避けてみた。


「最後に目くらましのつもりで思いっきり鉱脈に魔力を流したら、ものすごい光ったよ。地下だったのに、地上にいた人も光が見えたと言っていたくらい」


「あれはゼニスの魔力だったのか! どうりで美しく鮮烈で、しかも清らかな光だと思ったんだ」


 おいそれ、本当かよ。今付け足したんじゃないのか。いや、それよりも。


「魔界にまで届いてたの?」


 びっくりである。カイがうなずいた。


「届いていた。魔界では、あの辺りは竜の棲家になっている。

 竜は魔獣の中でも感覚が鋭く、魔力に敏感に反応する種族だ。異変がないか見回りに行った際は、特に何もないようだったが」


「竜!?」


 私は今度こそ心底驚いて大声を出した。急に声を張り上げたせいで、魔族たちは目を丸くしている。


「竜って、でっかいトカゲみたいので空を飛んで、火を吹くあの竜!?」



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