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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第三部成人期 第十三章 少しずつの変化

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04:大きいモフモフ


 休憩タイムに香茶を飲んだら、気分が切り替わった。

 せっかくみんなが親切にしてくれるのだ。遠慮なく甘えてしまうのも、一つのやり方だろう。

 そこで私は狼のカイを見て言った。


「お願いがあるの。狼に変身する魔法を見せて欲しい」


「構わんぞ」


 彼はうなずいて、再び中庭に行く。私たちも後をついていった。

 中庭の真ん中まで来ると、カイは振り向いた。

 私たちに相対するように立って、軽く息を吐く。

 すると見る見るうちに彼の体の輪郭が盛り上がり、形を変えていく。頭部の形が変わり、あちこちから黒い毛がまとわりつくように伸びてくる。背中が丸まって、両手が地面につけられる。真っ黒な毛が全身を覆う。最後にブルッと身を震わせれば、人間の姿は跡形もない。黒くて大きな狼が四肢で立っていた。肉厚の耳をピンと立て、ふさふさの尻尾が揺れている。この間約10秒。


「おお~!」


 私は歓声を上げた。モフモフだ。でっけぇモフモフがいる、それも犬系!

 以前あの境界で初遭遇した時は赤い目が不気味だと思ったが、もう見慣れたので平気である。


「肉体変化の様子が見えるよう、いつもよりも時間を掛けて魔法を使った」


 大きな狼が大きな口をモゴモゴさせて、言葉を喋った。狼の口は喋りにくいのか、ちょっとくぐもった声だった。かわええな。


「ありがとう! もふもふ!」


「もふ……?」


 噛み合ってるようなそうでもないような返事をして、私は手を伸ばした。狼の首を撫でる。

 頭を撫でたかったのだが、四本脚で立ち上がった状態のカイは、頭のてっぺんが2メートル以上の場所にある。手が届かない。

 黒い毛はごわごわで硬かった。そういえば兵士の剣を弾くような強度だった。抱きついて頬ずりしたら痛そうだ。

 しかし私のモフモフ愛(特に犬系)はそのくらいでへこたれない。


 毛を触りながら前足の太さを確かめる。前足が太い子は将来大きく育つのだ。

 側面を歩いて肋骨をぽんぽんと軽く叩いた。肋骨を触るのは、肥満具合を確かめるのにいい。骨が触れないくらいお肉がついていたらダイエット。反対にあばらが浮いているようであれば、ごはんを追加する。

 この辺、犬飼いの基本事項だよ。


 さらに後ろに回り込んで尻尾の揺れ具合をたっぷり堪能した。

 その後、お腹の下に入ってみようとした所で、グレンからストップがかかった。


「やめなさい。犬扱いしすぎて忘れているかもしれないが、それはカイだよ」


「おっと、そうだった」


 大きなモフモフに興奮してつい。犬のお腹は急所だし、お尻の方を向けば普通におちんちんとかタマタマとか見えるからね! 本物のわんこのなら全然平気だけどね!

 前世も今生も犬は大好きで、お尻含めて全身洗ったり何ならお尻の肛門腺を絞ったりしていたので、うっかりそのノリでやらかすところだった。


 肛門腺が詰まると病気になってしまうため、月イチくらいで絞るのが大事なんだよ。

 肛門腺は臭腺とも呼ばれていて、犬にとって大事なコミュニケーションの道具であるお尻の匂いを出す。散歩に行くと、犬同士でお尻を嗅ぎ合うよね。でも、犬にとっては大事でも人間にとってはクサイもの。だから衛生状態アップと臭いスッキリのために絞るのだ。うむ、今は関係ない話である。


 見ればカイは尻尾をだらんと下げ、耳はぺたんと伏せてイカ耳状態になっている。犬の典型的な緊張とか警戒のサインだ。ご、ごめん……。


「もういいか?」


 再び大きな口がモゴモゴと言った。もう勘弁してくれ、と顔に書いてあった。

 ふと横を見ると、アンジュくんとシャンファさんが呆れている。

 うん……ちょっとはしゃぎ過ぎた。いたたまれない。


「カイ、ありがとう。戻っていいよ」


 すると彼は先程の変身を逆再生するようにして、人間に戻った。疲れた顔でため息を吐いている。

 服は破れたわけでもなく、ちゃんと元のを着ていた。あれはどうなってるんだろう?

 アンジュくんがグレンに近づいていって何か言っている。


「グレン様、ゼニスちゃんがだいぶスキンシップしてたけど、いいんですか?」


「明らかに人扱いしていなかったからね。許容範囲かな」


 失礼な! 犬扱いしたからってカイを軽く扱ったわけではないよ。むしろ全力でモフる所存よ?

 と、口に出したらややこしくなりそうなので、不本意ながら黙っていた。私は空気の読める大人の女である。


 でも必ず、あの剛毛を心ゆくまでモフってやろうと心に決めた。







 その後はカイに肉体変化魔法の仕組みを聞いてみた。


「体内魔力と神界からの魔力を融合させ、擬似的に肉と骨、毛皮を生成している。魔力の肉をまとう形だ」


 なるほど、それで服が破けないのか。言ってしまえば大きい狼の着ぐるみを着ている感じかしら。


「狼への変化魔法は、我ら魔狼族の固有魔法だ。血に刻まれた魔狼の魔力が、狼形の生成を可能にしている」


「へぇー。じゃあ、魔狼族以外のひとは変化できないと」


「できないよー。ボクは魔人族だから、特に固有魔法を持ってないんだよね」


 アンジュくんが言った。


「変化魔法はいくつかあって、魔虎族と魔鳥族が有名だったね」


「ああ。どちらももう生き残りは少ないがな」


 虎と鳥かぁ。どっちもかわいいだろうな。もふもふ、ふさふさ。


「詠唱式呪文でも、変化は無理かな?」


 思いついて言ってみる。グレンが答えた。


「難しいと思うけど、神聖語――詠唱式呪文か。それがどこまで固有魔法に対応しているか、私たちは全く知らないから。試してみる価値はあるよ」


 おぉ。もしかしたら私もモフモフになれるかもしれん。テンション上がるわ。

 魔力回路の訓練と並行して開発してみようか。あぁでも、神界についてもっと学びたいな。他にも試したい魔法や知りたい分野がたくさんあって、時間が足りない。贅沢な悩みである。


 少し前に悩んでいた気持ちは、上がったテンションがどこかに吹き飛ばしてしまった。何も解決していないのは承知してるけど、悩むばかりじゃどうにもならないし。ある意味で腹が決まったよ。


 さあ、何から手を付けようかなー!


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