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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第三部成人期 第十章 森の奥の遺跡

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02:プログラミングから読み解く魔法


 記述式魔法の読み解きが進んだおかげで、魔法についての考察も深まった。

 今は仮説として、プログラミング的な側面から魔法を考えている。


 JA○Aでも何でもそうだが、プログラミングは特定のプログラミング言語を使ってソースコードを書く。

 でも、人間が書いたソースコードのままではコンピュータを動かせない。

 コンピュータ用に最適化されたファイルに変換する必要がある。これをコンパイルという。


 あるプログラムをコンピュータ上で動作させる手順は、以下の通り。


1.ソースファイルにソースコードを書く。(いわゆるプログラミング文)

2.コンパイルを行い、ソースファイルをクラスファイルに変換する。

※クラスファイルの中身は0と1とで構成されたバイトコード。

3.バイトコードをさらにマシンコードに変換し、同時にCPUへ実行依頼を送る。(この作業をインタプリタという)

4.コンピュータ上でプログラムが動作する。


 プログラマは基本、ソースコードを書くだけだけど、プログラムが実際に動作するまでは色んな変換作業が行われている。

 コンパイルとインタプリタは専用のソフトが行う。

 当然だがそれらが使える環境を構築しないと、プログラム開発はできない。ソースコードだけ用意しても駄目なのだ。


 魔法でも同じことが言えないだろうか?


 魔法語は特殊な言語だけれど、それそのものが魔力を帯びているわけではない。

 つまり魔法語の呪文(詠唱も記述も)はあくまでソースコードであって、それを受け取った何らかの機構が実際に魔法の発動までに必要な手順を行っているのではないか。


 実際、詠唱式の魔法を発動させると、最後の一語の終了と同時に魔力が引き出される感じがして、魔法が発動する。

 記述式であれば魔力を流してやる。

 で、魔法を使った当の本人は、「魔力が引き出される感じ」しか感じない。

 呪文を詠唱する際にイメージはするが、魔法の発動に際して何がどうなって効果が出てくるのか、さっぱり分からないのだ。


 呪文に対応した魔法の効果の発現処理を、『何らかの機構』が術者に代わって行っていると考えれば説明はつく。

 魔法使いの呪文はあくまで指示であって、処理ではない。


 水の魔法で「手のひらから一定量の水を出せ」と命令すると、それを受け取った『何らかの機構』が複雑な処理を行った上で「一定量の水」という結果を返してくる。

 魔法使い自身はその水がどこから来たのか、どういう組成なのかなど何も分からない。ただ、命令した通りの効果が発動するだけだ。


 そもそも、魔法の効果に対して対価の魔力が少なすぎると思う。

 雷や爆発などの大技はもちろん、水だって発火だって人間一人の肉体に内包されている魔力程度で、ほいほい行えていい処理ではない。

 効果と対価が釣り合っていない。


 ということは、効果と対価の調整も『何らかの機構』が担っているのか……?

 ううむ、分からない。







 分からないついでに、仮説をもう一つ。


『何らかの機構』はライブラリの機能も持っていると思う。


 ライブラリとはプログラミング用語の一つ。

 よく使われる機能を部品化して予め登録しておくことで、簡単な記述でソースコードに組み込める。

 そういった部品を多数格納しているものをライブラリと呼ぶ。オブジェクト指向だから、J○VAのクラスライブラリなんかが有名だ。


 複雑に組み合わせる記述式呪文に比べ、詠唱式呪文は単純なものが多い。

 このシンプルさは、ライブラリを利用した結果のように感じられる。

 まぁ、あくまで推定だけど……。







 魔法使い自身は魔法の根本的な仕組みを何も理解しないまま、魔法を発動させている。

 そこに少々の危険を感じる。


 大きすぎる奇跡に対して、小さすぎる代償。

 その差を埋めるものは、何だろうか。


 前世の人類が知らないうちに自然から搾取し、環境破壊をしてしまったように。

 この世界の魔法も、どこかで何かを犠牲にしているのかもしれない。


 そう考えると、空恐ろしかった。







 この考えに至ってから、しばらくは何も手につかないくらい落ち込んだ。

 皆に心配されて、でもなかなか元気が出なくて。


 環境保護とか、ユピテルの教育向上とか、偉そうなことばかり言って、結局のところは害悪を為してしまったのかも。


 皆は私を天才だと言うけれど、そんなことはない。

 たまたま前世の記憶を覚えているタイプの転生者だっただけだ。私はただの凡人だよ。

 斬新な発想も新しい着眼点も、全ては前世の文化から借りてきた物にすぎない。

 21世紀の日本人であれば誰でも出来ることばかりで、私自身の功績なんて、何一つない。


 そんな思いばかりがぐるぐるしてた。







 でも、いくら悩んでも答えが出るはずもない。

 だって何もかもが仮説に過ぎず、真実と言えるものはまだ何も、この手に掴んでいないんだもの。

 どん底の気分で思ったのは、「あぁ、魔法の研究がしたいなぁ」だった。


 動き出したものを今さら止めるのは、できっこない。

 であれば、注意して進みながら、問題が起きたら都度対処していくしかない。

 やけっぱちのぶっつけ本番だ。なんとも私らしいよ。








 不思議に満ちた魔法。謎だらけの魔力。

 奇跡でありながら、どこかアンバランスな力。

 うん、燃えるね!


 ここまで来たからには、前世みたいな早死はごめんだ。

 しっかりばっちり寿命が尽きるまで生ききって、長い時間を魔法の研究に当ててやろう。

 そのためには、悩むのはもうやめ。健康によくないからね。

 元気に長生きすればそれだけ、好きなことができる時間が増えるもの。


 色んな人と知り合いになって、美味しいもの食べて、楽しいこといっぱいやって。

「ゼニス婆さんはいい人生だったよねえ」と言われながら見送られるのを目指すぜ。目標、100歳!


 ……え? 燃えるような恋と心から愛する人?


 あ~、それはまぁ、あればあったでいいけど、別に必須ではないかなー。

 なんかめんどくさそう……、いやいや。人には向き不向きがありますので。


 私は男女間でも友情が成立する派です。そういうことで一つ、よろしくお願いします!






お読みいただきありがとうございます。

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転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~

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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[良い点] 小心者が悩んでるだけなのに、傍から見ると「偉大な大魔術師が哲学的思索をしている」ように見えるんだろうなと思うと面白いです
[一言] なんだか一気に時が進んで、終わっちゃうのかな?と思わせる流れ…! 魔法をいくら使っても、謎の力は魔法の効力を失った時点で還元されるとかだと良いね ゼニスが攻撃的な性格じゃなかったからいいけ…
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