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第八十六話 公爵家からの使者

ルアンソワ様が、反対勢力に対して強硬な姿勢のままでいた時。


国王陛下と殿下のところに、反対勢力の方から使者がおくられてきた。


公爵家の中の反対勢力の一員で、領民の困窮具合をよく把握している人物とのことだ。


「ルアンソワ様の圧政は度を越しております。領民は困窮し、その日一日の食べ物にも困るものがでてきております。ここは、国王陛下と殿下のご威光で、後継者をルアンソワ様から親戚のブリュノトノン様に変更させていただきたいと思っております。ご決断が一日一日と遅れれば遅れるほど、困窮の度合いは増していきます。どうか、ご決断していただきますよう、お願いします」


反乱にまで発展するのは本意ではない。


反乱になってしまえば、反対勢力が勝利したとしても、公爵家は荒廃する。


そうすれば公爵家は困窮するし、領民もますます困窮してしまう……。


「どうか、公爵家の為、国王陛下と殿下のお力をお貸しください」


使者は頭を下げた。


「そうは言われても……」


「そうですね……」


国王陛下と殿下は困惑した。


というのも、それぞれの家の領内についての政治は、原則としてその家の自治に任せるというのがこの王国の伝統だった。


もちろん、各諸家に問題があれば申し入れを行って改善をさせていくし、そういうことは今までもたくさん行われてきている。


各諸家の後継者の選択についても、問題があれば介入という形ではなく、申し入れという形で行われていた。


しかし、人事を含めた大規模な介入は、許容のできないほどの酷い政治を行わない限りはしないことになっていた。


現在の国王陛下も、その原則は踏襲している。


もちろん圧制を敷いた場合は『許容のできないほどの酷い政治』に該当するので、大規模な介入をした例が今までないわけではない。


現在の国王陛下も大規模な介入をしたことはある。


別の公爵家ではあったが、当主が重い税をかけて贅沢三昧になった為、領民は困窮したということで、反対勢力の申し出を受けた国王陛下が、やむをえず当主を変更したということがある。


しかし、それはもう何十年も前の話であり、その時もいろいろ論議があったという。


その家の自治に任せるべきだという原則を守るべきだったという意見も強く、説得に苦労したということだ。


慎重にになるのも無理はない。


しかし、使者が、公爵家領民の窮状を涙ながらに話をしていくと、


「そこまで酷い状態になっているのか……」


「想像以上ですね……」


と国王陛下も殿下も心を動かし始めた。


公爵領の状況は、二人が把握していたものよりも酷いものだった。


国王陛下は、かつての公爵家の時よりも酷い状況だということを理解し、このままではいけないと思ったということだ。


国王陛下は、


「あなたのいうことは理解した。これはなんとかしなければならないと思う。しかし、公爵家の当主はまだルアンソワではないはずだが、当主はルアンソワを抑えることはできないのだろうか? もし抑えられるのであれば、まず当主がルアンソワを抑えるべきではないのだろうかと思う。その点はいかがかな?」


と言う。


それに対し使者は、


「我が当主様は、体が衰えてしまっております。それで権限もルアンソワ様にかなりの部分を委譲されてしまっております。その為、我が当主様はルアンソワ様に諫言をされておりますが、ルアンソワ様は聞く耳を持たない状態です」


とつらそうに言う。


「そうか……。体が衰えているのも、権限を委譲してきているのも聞いてはいたが、そこまでの状態になっているとは……」


「わたしも話自体は伺っていましたが、ここまでの状態だとは思いせんでした」


「ですから、もう国王陛下と王太子殿下にお願いをするしかないのです。我が公爵家をお救いください。お願いします」


使者は深々と頭を下げた。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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