第七十八話 わたしの前世・殿下のところへ
わたしのところに王太子殿下の側近が来ている。
側近が来ているということは、ただごとではない。
まさか、あいさつだけの為に来るわけはない。
わたしのことを嫌いになったとしても、側近を行かせることはないと思う。
殿下は病気になってしまったのだろうか?
それを伝えにきたのでは?
もしそうならお見舞いに行かなくては。
そう思いながら、側近のいる部屋に入った。
側近は、七十歳ぐらいの方。
あいさつをすると、側近は厳しい表情で、
「お嬢様、今日はあなたにお伝えしなければならないことがあります」
と言ってきた。
この表情からすると、伝えたいのは、殿下のお体のことだろうと思う。
わたしは緊張しながら、次の言葉を待った。
「殿下は、病状が悪化し、このままだと今日一日しか持ちそうもないと侍医が言っていました。殿下は、その苦しい状態の中、『フォルテーヌさんに会いたい。申し訳ないですが、最後にもう一度だけ会わせてほしいです』とおっしゃっていました。それでわたしが急いであなたさまをお迎えにきたのです。急な話になり、申し訳ありませんが、これから殿下のもとに伺っていただく様、お願いします」
側近は、声をつまらせながら言う。
わたしは、胸が一杯になる。
殿下、そこまでお体が悪かったとは……。
お力になれず、申し訳ありません。
今からでも、殿下の為に尽くしたいと思っています。
涙がこぼれてくる。
「わたしでよろしければ。お願いします」
そう言って、わたしは側近に頭を下げた。
王宮の殿下の部屋に入ると、国王陛下と王妃殿下と侍医が、殿下のそばにいた。
「わたしのようなものを、殿下のそばまでお招きいただきましたことに、深く感謝申し上げます」
わたしは国王陛下と王妃殿下に頭を下げた。
「よく来ていただいた。王太子はあなたにとても会いたがっていた。王太子は意識を失っていて、意識がある内に会えたらよかったのだが……。このままだと後少ししか持たない。せめて、声だけでもかけてほしい。お願いする」
国王陛下は、涙声で言う。
わたしは、国王陛下と王妃殿下の許しをえて、殿下のベッドの前に座る。
殿下は、意識を失ったまま。
ここに来る途中、側近に聞いた話では、殿下はもともと体が弱く、長生きはできそうもないと侍医が言っていたそうだ。
しかし、殿下はそれにもめげず、自分を一生懸命磨いた。
その結果、その名声はこの王国の中に聞こえるようになってきた。
殿下に対する期待は高まっていたといっていい。
殿下もそういう声に応えるべく、体の調子のいい時をなるべく選んで、王国の実情を把握する為の旅に出て、自分が王位についた時に役立てようとしていた。
ただ殿下の体は、決して良くはなっていなかった。
病床にある時もあり、三か月ほど前からは、そういう日が多くなっていった。
そして、今から一か月前になるとさらに病状は悪化して、ここ一週間は意識がない状態になることが多くなり、もうあとわずかの生命になってきたということだった。
手紙がかけなかったのも、病状が悪化していたからだった。
その間、何もできなかった自分。
仕方がなかったとはいうものの、殿下のもとで殿下を支えていたかったという気持ちは強くなって、涙があふれてくる。
わたしは、
「殿下、わたしです。フォルテーヌです。お招きいただき、ありがとうございます」
と殿下に涙声で話かけた。
「わたし、殿下とお話がしたいです」
なんとか意識を戻してもらい、殿下の声を聞きたいと思う。
そして、殿下に好きだという気持ちを伝えたい。
わたしはそう強く思うのだった。
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