第七十四話 わたしの前世・夏のある日
殿下の手とわたしの手がつながれた。
恥ずかしながらも微笑む殿下。
殿下のやさしさが流れ込んでくる。
うれしくて、うれしくてたまらない。
好きです、好きです、殿下。愛しい殿下。わたしのすべてを捧げたい殿下。
心が沸騰していく。
このままキスをしていただけたら、もっと素敵なのだけど……。
そう思っていた時。
わたしの心の中に、前世の記憶が流れ込んできた。
マロールデックス子爵家令嬢フォルテーヌ。それが、前世でのわたしだった。
今のわたしは、追放されたので貴族ではないが、もともとは子爵家の令嬢だった。
子爵家令嬢として生きてきたところは、今と変化はないということになる。
マロールデックス子爵家というのは、今わたしがいるフォレストラフォン王国ではなくて、遠く離れたランドフィッツ王国の中の家だった。
わたしは前世でも、幼い頃にお母様があの世に旅立ってしまい、継母に育てられた。
お父様はやさしい方だったけれど、忙しくて、わたしのことは継母に任せきりだった。
体が弱く、継母の産んだ女の子の競争相手にはならないと思われたこともあって、今の人生での継母に比べれば、扱われ方はまだましだったと思う。
それでも、冷遇されていたことには変わりはない。
幼い異母妹を常に優遇していた。
成長するにつれて、継母の冷たさが少しずつ増してきていたので、家を出たいという気持ちは少しずつ強くなっていった。
家を出る為には、婚約し結婚するのが一番いいと思っていた。
しかし、体の弱いわたしは、それを望むのが難しかった、
いつまで生きられるかもわからない。
そして、もし結婚できたとしても、若くしてこの世を去ってしまったら、わたしを受け入れた方にも迷惑をかけることになってしまう。
こういう女性を迎えてくれる方はおられるのだろうか?
いない気がする。
とすると、このままこの家にいるしかないのでは。
そう思うと、つらい気持ちになってくる。
思春期になると、そういう気持ちが一時期強くなり、気力がなくなってきたこともあった。
しかし、わたしは思い直した。
いつまで生きられるかはわからないけど、とにかく生きている間は自分を磨いていこう。
もしかすると、わたしの体が弱くても、それを理解した上で、結婚をしていただける方がいるかもしれない。
そのわずかな望みを胸に、わたしは自分を磨くことに一生懸命取り組んでいった。
夏のある日。
夏になると、わたしは郊外にある屋敷で過ごすことがあった。
狭い屋敷ではあったが、森の中にあり、いいところだ。
継母や異母妹と一緒なのが、ちょっとつらいところではあったが、景色がいいので癒される。
そこへ行く為、馬車に乗っていた。
継母と異母妹は先に行っていて、わたしは後から向かっていた。
そこまで行くのは、ほぼ半日ほどかかる。
体の調子はそれほど良くはなく、馬車に乗るのは決して楽なことではなかったが、その屋敷に行けるということで楽しみに思っていた。
そうして馬車に乗っていたのだが、休憩をとりながら進んでいた。
次は二度目の休憩になる。
少し先に、本道から少し入ったところに、馬車が休憩の為、よく止めている場所がある。
そこに向かうと、一台の馬車が止まっていた。
わたしたちの馬車と同じような形式の馬車だった。
その馬車の近くに、わたしたちの馬車を止めることにした。
馬車に一緒に乗っていたお父様の側近とわたしの侍女があいさつをする為、先に馬車から降りていく。
わたしもあいさつをしようと、降りる準備をしていたが、側近と侍女があわてた様子で戻ってきた。
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