第六十三話 殿下と一緒にいたい
わたしが王宮にきてから、ほぼ一か月が経った。
殿下だけではなく、王室の方々や大臣たちとも接し始めていたが、予想通り、ほとんどの人の反応は冷たいものだった。
国王陛下と王妃殿下でさえも、わたしが殿下にお仕えするのを認めていただいたとはいうものの、決して歓迎しているわけではないのだから、冷たい反応になるのも当然だとは思う。
とにかく誠実な対応をし、少しずつでもいいので、心が通わせるようになっていきたいと思っていた。
その中で、殿下は、わたしにやさしく接してくださっていて、涙が出るほどうれしく思っている。
殿下が正式に権限のほとんどを移譲された後、殿下はより一層忙しくなった。
その為、執務室でわたしと向き合うのは、午後の二時間ほどに限定されるようになった。
その他の時間は、別に部屋を与えられたので、王国内の問題点に対する対策案の検討は、そこでわたし一人で行うことになった。
そこで検討した対策案を殿下のところへ持っていき、殿下と一緒に討議をしてまとめていくのと、そこでまた新しい問題点を殿下から提示されるという形だ。
その前の殿下との集中検討で、対策案の多くは形になっていたが、それを細かい内容まで詰めていかなくてはならないし、新しい問題点が提示されたら、それにも対応していかなくてはいけない。
わたしは毎日忙しくなったが、それでも、
「決まった時間で、仕事は切り上げるようにしたいと思っています」
といつも殿下は言っている。
わたしの体をいつも第一に思ってくださるのでありがたい。
そして、
「あなたのおかげで、対策案がどんどんまとまってきています。ありがとうございます」
と御礼の言葉も言っていただいた。
昨日のことだ。
殿下がわたしのことを、少しではあるかもしれないが、評価していただいているのだと思う。
わたしは、うれしさで胸が一杯になった。
しかし……。
もっと、殿下と一緒にいたい。
毎日二時間ほどでは全く足りない。
そして、仕事で一緒というだけではなくて、抱きしめてほしい気持ちがどんどん強くなってくる。
最近、仕事中でも、殿下に抱きしめられて、うっとりするという夢想をして、
「どうしたのでしょうか? 具合が良くなさそうです。少し休まれた方がいいと思います」
と殿下に心配されてしまったことがある。
その時のわたしは、
「大丈夫です。心配していただいて、ありがとうございます」
と恥ずかしい気持ちになりながら言った。
その後、仕事中は夢想をしないように気をつけている。
とはいうものの、これだけ素敵な人なのだ。
気持ちを抑えるのは難しい。
殿下は、わたしとこんなに近い距離にいるのに、心がわたしに傾いていかないのだろうか?
わたしに恋をしていただけないのだろうか?
今のところは、時々昼ご飯を一緒に食べるぐらい。
プライベートのお誘いは受けていない。
晩ご飯もご一緒したい気持ちになるが、殿下はほとんどの場合、国王殿下と王妃殿下とご一緒だ。
いわゆる晩餐。
わたしが望んでいるのは、正式な晩餐ではなく、二人だけの夜の食事。
そこで、いい雰囲気になって……。
というところまでいれるといいなあ、と思うが、さすがにそれは高すぎる望みだと思う。
いい雰囲気までいかなくても、楽しい食事はしたいなあ……。
しかし、昼とは違い、夜、二人だけの食事をするということは、それだけでも難しい望みなので、なるべく思わないようにしている。
でも、その内、たまにいいので二人だけで夜食事をしたいなあ、という気持ちはどうしてもある。
夜の食事は難しい話なので、その他のプライベートなお誘いをしていただけたらいいなあ、と思っている。
もう冬になり、雪も積もってきているので、休日、郊外にピクニックに行くなどのお出かけはできないが、部屋で二人きりのお茶会はできると思う。
でもそのお誘いはまだない。
わたしの方はいつでもお待ちしているのに……。
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