第五十九話 婚約者だった女性を部屋から追い出す (ルアンソワサイド)
腹が立ち、疲労し、我慢の限界にきていたわたし。
決断をして、二人の護衛を呼んだ。
「この女性を部屋の外につまみ出せ」
わたしがそう言ったのに対し、
「よろしいのでしょうか? ルアンソワ様の婚約者ではなかったのでしょうか?」
護衛の内の一人が言った。
わたしはますますいら立ってくる。
「かまわぬ。この女性はもうわたしの婚約者ではない。さっさと部屋の外、いや、屋敷の外に出すんだ!」
と強く命じる。
困惑し、すぐに動こうとしない二人。
わたしは怒り、指示に従うように命じたのだが、それでもなかなか従わない。
婚約破棄されたということが信じられないようだ。
わたしは、
「この女性は私を怒らせることをしたのだ。それで理由は充分だろう。お前たちはただわたしの指示に従えばいい!」
と言い、指示に従うようにさらに強く求めた。
ようやく二人は
「ご指示に従います」
と言って、ようやく動き始めた。
全く、このわたしを何だと思っているのだ!
ますます怒りは増大してくる。
二人はそれぞれわたしの腕をつかむと、そのまま、フローラリンデを連れ出そうとしていた。
最初からそうしていればいいのだ。
フローラリンデは、その強い腕力に抵抗できない様子。
わたしとイレーレナは、そんなフローラリンデを冷たい表情で見下していた。
これで、やっと安心できる。
怒りもおさまり始め、心が落ち着いてきたと思っていたのだが……。
フローラリンデは、
「ルアンソワ様、どうしてこんなことを。わたしはただ婚約者として、ルアンソワ様に尽くしたいだけなのに。どうか、どうか思い直してください。わたしはルアンソワ様の婚約者なんです!」
と叫ぶように言った。
いい加減にしてほしいと思った。
わたしの怒りは爆発し、
「きみはもう婚約者ではない。ただの他人だ。わたしはきみのことが大嫌いになった。なんできみを婚約者にしていたんだろうと思うくらいだ」
と言って、一回言葉を切った後、
「もう二度ときみには会いたくない!」
と叫んだ。
ここまで言えば、さすがにあきらめるに違いない。
わたしは、これから当分の間、イレーレナと楽しい生活を続けるのだ!
そういう夢を持っていたのだが……。
しかし、フローラリンデが部屋の外に出された後、イレーレナが、
「これで、ルアンソワ様はわたしのもの」
と笑いながら言ったのを聞いて、急激にこれでよかったのだろうか、という気持ちになってくる。
フローラリンデがかわいそうだといことではない。
先程は心が高揚して、
「イレーレナと婚約する」
と言った。
あの場では言うしかなかったと思う。
フローラリンデの心に大きな打撃を与えるには、そういう言葉を言う必要があったからだ。
しかし、今になってみると、言うべきではなかった気がしてきた。
冷静になってくると、イレーレナとの関係が一年も二年ももつとは思えない。
もし、うまくいったとして二年も続いたら、今度は結婚しなければならなくなる。
それは避けたいところだ。
しかし、今はイレーレナが好きだ。
婚約したくなり、その意志を伝えたくなったのは、その場の雰囲気が大きかったとはいうものの、イレーレナのことが好きであることには違いはないからだ。
今すぐ別れるわけにもいかないし、その理由もない。
別れるのは、半年後になるか一年後になるかはわからないが、充分二人の生活を楽しんでからでいいだろう。




