第五十八話 新しく婚約者になった女性 (ルアンソワサイド)
わたしはついに、婚約破棄の意志をフローラリンデに伝えた。
次はイレーレナと婚約することを伝えていく。
そして、わたしは続ける。
「わたしはきみに何度かチャンスを与えた。しかし、きみはそれに応えようとせず、わたしに反対をし続けた。わたしとしても、もう我慢の限界まできている。これ以上の我慢はできない」
ここで一回言葉を切った。
いよいよイレーレナと婚約することを伝える。
まだイレーレナにも言ったことはなかったので、イレーレナは喜んでくれるだろう。
「わたしは、イレーレナと婚約することにした。父上や母上には、後で言っておく、両親が反対しようがしまいが、もう決めたことだ」
とわたしは言った。
「わたしと婚約してくださるって、本当なんですか?」
驚いた表情のイレーレナ。
「もちろんだ」
「うれしい、ありがとうございます」
満面の笑顔になるイレーレナ。
婚約がいつまで維持できるかどうかはわからないが、今は喜んでもらおう。
イレーレナに喜んでもらった後はフローラリンデ。
ここまで言えば、もう反撃はできず、婚約破棄を受け入れるだろうと思った。
しかし、フローラリンデは、
「でも、いくらなんでも残酷すぎる仕打ちだと思います。婚約者の目の前でそういうことを言うのは……」
と言って反撃をし始める。
これは想定外だった。
もう反撃する力はほとんど残っていないと思っていた。
そのまま婚約破棄を受け入れるものと思っていた。
わたしは、イレーレナを会話の中に招き込むことにした。
イレーレナから、
「ルアンソワ様と仲睦まじくしていて、幸せにしている」
ことを話してもらうのだ。
そうすれば、もうわたしとイレーレナの間に入ることはできないと思い、あきらめの気持ちになっていくだろう。
わたしの期待以上に、わたしとの幸せな関係を話すイレーレナ。
「きみもこの幸せをフローラリンデに分け与えたいと思うだろう?」
「わたしもそう思います。わたしたちの愛の力で、婚約破棄された哀れなフローラリンデさんを幸せな気持ちにしたいです」
わたしも驚くほどの冷たい微笑み。
しかし、それでもフローラリンデは反撃する。
「わたしはまだルアンソワ様の婚約者なんです。あなたはルアンソワ様の婚約者ではありません」
イレーレナは、表情を急に厳くし、それに対する反撃を行う。
イレーレナとフローラリンデの言い争いも想定外だった。
でもこれは、わたしにはプラス方向に働く。
激しいやりとりがしばらく続き、
「あなたが納得しようとしまいと、もうルアンソワ様がお決めになったことです。従うしかないでしょう」
とイレーレナが言ったところで、わたしは、
「イレーレナの言う通りだ。もうきみの言うことを聞いていてもしょうがない。きみとの婚約は破棄した。もうそれは決まったことだ」
と冷たく言った。
それでも、
「わたしはルアンソワ様の為に、一生懸命努力してきたつもりです。それでも婚約を破棄し、イレーレナさんと婚約者にするとおっしゃるのですか?」
「お願いです。わたしを婚約者のままでいさせてください」
とフローラリンデは言ってくる。
もうわたしも我慢の限界だ。
婚約破棄をして、イレーレナを婚約者にすると言ったのに、なぜまだ納得しないだろう。
腹が立ってしょうがない。
疲れもピークに達しようとしていて、もう休みたい気分だ。
おとなしく婚約破棄されればいいものを、なぜそこまで反撃してくるのだろう。
全く理解に苦しむことだ。
わたしはそう思った。
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