第二十三話 救い
今は紅葉のピークを過ぎた頃。
賊のリーダーの剣がわたしに振り下ろされる。
わたしは、生命の終わりを迎えようとしていた。
疲れが自分の体を覆い尽くし、だんだん気が遠くなっていく。
しかし、約束の人に会いたかった、という気持ちだけは残っていた。
剣の先がわたしの体に触れようとした瞬間!
峠の方から、男性の大きな叫び声が聞こえてくる。
「その女性から離れなさい!」
いい声だ。
リーダーは驚いて、わたしから剣を離し、声の方向に向く。
他の四人も同じ行動をする。
わたしはそれまで意識が朦朧としていたが、少し意識が戻ってきた。
その男性は、馬に乗ってリーダーやわたしたちの方にやってきた。
「この俺のすることをじゃまするのは誰だ! 今、俺はこの生意気な女の生命を奪おうとしているのに!」
リ-ダーは、大きな声で叫ぶ。
「生命は大切なものだ。そんなことはしてはいけない! もしそういうことをするのなら、わたしはあなたたちを許さない!」
男性は、わたしたちの近くにやってくると、厳しい表情でそう言った。
そして、
「わたしはあなたを守ります。安心してください」
と言って、一瞬だけさわやかな笑顔を見せた。
歳はわたしより少し上のようだ。
ハンサムで、がっしりとした体格。
わたし好みの容姿。
しかも、初めて会った気がしない。
わたしは、生命の危機にありながらも、その男性に心を動かし始めていた。
「殿下、おやりになりますか?」
一緒にやってきた側近のような人たち二人の内の一人が言う。
殿下、とその人は言っている。
この人は高貴なお方なのだろうか?
「少し対応する。お前たちは、戦いが終わるまでは手を出さないでほしい」
そう言って男性は馬から降りると、わたしのそばに向かう。
賊たちは、男性の気合に圧倒され、動くことができず、あっという間にわたしのそばに到達する。
そして、賊からわたしを守る態勢になる。
「なんてやつだ。こいつ、なんてスピードが速いんだ! だが、スピードだけでは俺に勝つことはできない!」
「この人をお願いする」
「お任せください」
男性は、側近の一人にわたしを任せると、リーダーに剣を向ける。
リーダーの方も男性に剣を向けた。
「リーダー、まずはわたしたちから行きます! さっきはちょっとだけあいつのスピードにやられましたけど、
「よし、やってみろ」
四人は、男性に斬り込んでいく。
「お前など、リーダーのお手をわずらわせなくても、俺たちが倒してやる!」
同時に四人を相手にするのは難しいと思ったんだけど……。
男性は、斬り込まれてもすぐに反撃する為、隙がない。
最初の内は何度も何度も斬り込んでいたが、その内斬り込むことができなくなっていった。
「何というやつ」
「隙がなくて打ち込めない」
「悔しい」
「ここまでの達人に今まで出会ったことはない」
口惜しそうに言う四人だが、相当疲労しているようだ。
それに対して男性は涼やかな表情。あまりにも差がありすぎる。
男性の気力に押しまくられて、四人は打ち込む気力をなくしてきていた。
直接の剣の斬り合いで圧倒するだけでなく、気力で相手を圧倒し、その動きを抑え込む。
この人は、すごい剣の使い手ではないか、と思った。
「では、そろそろこちらから行きますよ」
男性はそう言うと、ものすごいスピードで四人に打ち込んでいく。
たちまちの内に、四人の剣は、次々に男性によって叩き落されてしまった。
とても強い力。
呆然とする四人。
男性は四人の顔に剣を突きつけた。
すぐさま側近の一人が四人のところにやってくる。
そして、剣を手の届かないところに投げる。
その後、側近が剣を四人に突きつけると、
「後は頼む」
と言って男性は、リーダーの方へ剣を向けた。
「このままおとなしく地面に座っていなさい。そうすれば生命へはとりません」
側近がそう言うと、四人は力なく地面に座り込んだ。
この側近も腕が立つ雰囲気を持っていて、四人は手も足もでない。
そばで見ていたリーダーは、
「おのれ! 今度は俺が相手になってやる。お前たちもきっと救ける!」
と言って闘志を燃やす。
「リーダー……。俺たちが情けないばかりに……。申し訳ありません。でもこいつは強いです。決して油断はしないように」
剣を側近に突きつけられ、もう戦う気力自体はなくなってきているようだが、それでもリーダーのことを思っているようだ。
それを聞くと、
「気づかいはありがたい。でも安心しろ。俺は絶対あいつを倒す!」
とリーダーは四人に向かって言う。
「リーダー、俺たちはあいつを倒すことを信じています」
四人は弱々しい口調ではあるが、そう言った。
「さあ、今度は俺が相手だ。今までのようなわけにはいかないぞ!」
リ-ダーは、剣を男性に向けた。
「面白い」
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