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第十九話 峠へ向かうわたし

翌日の朝がきた。


わたしは朝食をとり、出発の準備をする。


いよいよ峠越えだ。


さすがに緊張してきた。


体力の問題、賊の問題、いずれも難しい問題だが、乗り切らなければ王都への道は開けない。


前に進むしかないのだ。


宿屋を出る時、主人とその奥さんが見送ってくれていた。


奥さんにお弁当も作ってもらった。


「いろいろしていただいてありがとうございます」


わたしは頭を下げた。


「気をつけてね。無事に着けることを願っている」


主人は少し声をつまらせながら言った。


「それでは行きます」


お互いに手を振り合いながら、わたしは少しずつ歩いていく。


わずか一晩の滞在でしかなかったが、主人夫婦のやさしさにふれられてよかったと思う。


わたしは涙がこぼれそうになりながら、山に向かって歩き始めた。




秋も終盤の十一月。


朝は寒かったが、しだいに気温が上がってきていた。


青空、そして紅葉。


紅葉を味わう為、散策をするのであれば、一番いい日だと思う。


最初の内は、割合気持ちよく道を登っていくことができていた。


この道は、途中までは馬車二台分と人一人分が通ることができるが、峠の近くでは狭くなり馬車一台分と人一人分しか通れなくなると聞いている。峠を越えてしばらくするとまた馬車二台分と人一人分が通れるようになるようだ。


距離はそこまで長くはないが、急な坂道があり、決して楽ではない。


歩いていると、時々馬車が横を通る。


歩いて峠越えをする人もいると聞いていたが、その数は少ない。


数人とすれ違い、数人に追い抜かされた程度。


女性で歩いている旅行者には今のところで会っていない。


一人孤独に歩く時間が長い。


歩きなれていないわたしは、疲れてきた。足が痛くなってくる。


「無理せず、休みながら行くのがいくのがいい」


という主人のアドバイスに従い、休みながら歩く。


しかし、その休みの時間が長くなってくる。


なんとか峠の一番上まできたのは、午後になってから。


普通の人なら、朝出発すれば、午前中の内にはたどり着けると主人は言っていたので、もう既に遅れていることになる。


とはいっても、今のわたしにはこれが限界だ。


普通の人より歩く速度も遅いし、休む時間も長い。足もますます痛くなってきている。


疲れた……。もう歩きたくない……。


わたしは、以前王都へ行く為、何回かこの道を通っているが、歩きではなく馬車だった。


馬車に長時間乗るのも決して楽ではないが、歩くよりははるかにましだ。


王都へ行く定期便の馬車はあるが、それに乗るだけのお金はないので歩いている。


しかし、思っていたよりも、もっとつらい旅路だ。


まだまだ半分ほどしか来ていないと思うと、心が萎えてくる。


しかし、それでもわたしは進まなければならない。


わたしは道端に座り、水を飲んだ後、弁当を食べ始めた。


主人の奥さんの手作り。


おいしい! なんてありがたいんだろう……。


好意が身に染みてくる。


ここからは、王都はまだ眺めることはできないが、次の宿屋がある村は眺めることができる。


後もう少しだ! なんとか次の宿屋にたどりついてみせる!


わたしは、萎えそうになっていた心をなんとか立て直そうとしていた。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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