第十八話 宿屋の主人
王都までは、ここから歩いて五日の距離。
わたしのいるこの王国は、全体的には治安はいいので、女性の一人歩きも日中であればそれほど問題はない。
夜、治安の悪い地区や郊外を出歩くことがなければ、それほど心配をすることはない。
わたしが王都を目指せるのも、女性が一人旅をすることができるというこの王国の治安によるところは大きい。
ただし、途中、険しい峠越えをしなければならない。
そこしかルートがない。
この峠越えには問題があった。
きつい坂道が続くので、わたしの体力が持つのかということがまず大きい。
そしてもう一つは、賊に襲われる可能性があるいうことだ。
わたしは、三日目、山のふもとの宿屋の主人から賊についての情報を入手していた。
それによると……。
賊は、一年前からこの山中に出没していた。
この山中は王国の直轄地。
賊は半年ほど前に討伐を受け、一旦は鎮圧されたかに思われた。
しかし、その残党は残っているということだ。
うっそうとした森を根拠地にしているので、完全な討伐は容易ではないということだろう。
その残党が襲ってくることはないだろうか?
「今のところ、討伐が行われてから襲われた人はいない」
宿屋の主人はそう言った。
七十歳をすぎたおじいさん。長年ここで宿屋を経営しているそうだ。
少し頑固そうだが、根はやさしそう。
「ということは、特に用心をしなくても大丈夫でしょうか?」
「もともと賊が狙っていたのは、お金を持っている商人がほとんどだ。それで、商人やここを通る人たちは、それなりの武装をしてここを通っていた。今は襲われる危険は減ってはいるが、それでも武装していく人は多い。賊はまたいつ襲ってくるかもしれないからね。ただ、今までの賊は、お金を持っていなさそうな旅行者には興味を示してこなかった。もし賊がまた復活したとしても、方針の変更がない限り、お嬢さんのような人を襲う可能性は少ないと思う」
「それなら大丈夫そうですね」
「ただ、方針を変えている可能性はないとは言えない。賊の方も力が衰えているから、武装している人たちを相手にするのは難しいと思うようになってきているかもしれない。そうすると、少しのお金だけでも獲得できればいい、という方針に転換して、お嬢さんのような人を襲う可能性はある」
「でもここのところは襲われている人はいないとおっしゃっていましたが」
「そうだね。まあ、ここ一か月ほどは、襲われること自体がなく、女性の一人旅の人たちもここを無事に通っている」
「それは心強いですね」
「だから、あなたも大丈夫だとは思う。思うんだけど、どうしても心配はしてしまう。あなたが通った時に、今まではおとなしくしていた賊が、急に襲ってくる可能性はないとは言えない」
主人は難しい表情になる。
「ありがとうございます。その気持ちはありがたく受けたいと思います。でもわたしは大丈夫です」
わたしは自信が湧いてきていた。
既に婚約破棄され、家から追放されたわたし。
この時点でかなりのつらさと苦しさを味わっている。
もう、それを越えるほどのつらさ苦しさはないだろうと思っていたので、この峠越えもすんなりと行くのではないかと思っていた。
「明日は、朝食を食べたら、すぐに出発するといい。そうすれば昼過ぎには峠越えを終えて、夕方までには次の宿屋に入ることができるはず。それが一番安全だと思う」
主人はそう言った。
それからもわたしは、主人や、途中から話に加わった主人の奥さんより、これからの旅や王都のことについて、いろいろな情報をもらった。
ありがたい気持ちで一杯だ。
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