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第十七話 出発

夜、侍女を帰した後、これからの身の振り方について思い悩んだ。


男爵家には戻れない。


そうすると、もう貴族としては生きられない。


しかし、わたしは、貴族として生きてきた。


貴族としての素養と経験は積んできているが、それは一般の社会で役立つものなのだろうか? 少しは役立つといいのだろうけど。


いずれにしても、まずどこに行くかを決めなければならない。


この領内にとどまる気はなかった。


いても職はあまりないので、食べていくことは難しい。


そして、リランテーヌ子爵家のことをいつも意識しなければならない。


それはとてもつらいことだ。


ではどこへ行くべきだろう。


職という点では、王都に行くのが一番いい。


わたしも何度か行ったことはあるが、こことは比べ物にならないぐらいにぎわっている。


様々な業種で人手が慢性的に足りないと聞いていたし、経験がない人でも歓迎されると聞いていたので、わたしのようなものでも大丈夫ではないか、と思う。


どの業種にするかは、向こうについてから決めればいいだろう。


とはいっても、どの仕事もそれなりの体力がいる。


決して病弱な方ではないが、頑丈というわけでもない。


どの業種に進むにしても、体力が持つかどうか、というのが一番心配だ。


そして、最初の内は、いろいろ失敗をして怒られてしまうだろう。


怒られるのは仕方がないとして、周囲に迷惑をかけることになってしまうのはつらいことだ。


それも心配な点だ。


しかし、それは今から悩んでもしょうがない。


とにかく王都に向かうことにしよう。


わたしはそう決断した。




翌日の朝。


わたしはこの屋敷を追放される。


粗末な服を着て、わずかな日用品と少々のお金しか持たされず、この家を追い出される。


その姿は貴族とは到底思えない。


しかし、それがこの家から追放される時に許された姿だった。


誰もわたしを見送る人はいない。


侍女は見送りたいと言っていたし、他にも見送りたいと思っている人が相当数いると侍女は言っていた。


しかし、それはわたしが止めた。


侍女以外の人についても、わたしの意志として止めるように、侍女の方から言ってもらうことにした。


わたしを見送るということをすれば、継母の怒りを買ってしまうからだ。


寂しいという気持ちはあるが、誰も見送らなかったことに、わたしは安堵した。




屋敷の門から出されたわたし。


わたしは少し歩いた後立ち止まり、しばらくの間、屋敷を眺めていた。


これでもうわたしは、リランテーヌ子爵家との縁が切れてしまった。


これから、貴族としてではなく、一平民としての生活が始まる。


この家では、つらい思いをすることが多かった。


特にここ数年は、継母と異母姉と異母妹との対応で、疲れることが多かった。


それでもわたしが生まれ育ったところだ。


決してつらい思い出だけではなく、いい思い出もある。


この家を去る寂しさはもちろんある。


わたしがここに戻ってくることはもうないのかもしれない……。


そう思うと、流すまいと思っていた涙が目からあふれてきた。


お父様、お母様、わたしは王都へ向けて出発します。


一人で一生懸命生きていきます。


わたしは、あの世にいる二人にそう話しかけた。


直接話すことはできないが、その心は伝わってほしいと思っていた。


「面白い」


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