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第十六話 侍女とのお別れ

今、わたしは、王都を目指して歩いている。


わたしのいたリランテーヌ子爵家の屋敷からは、徒歩で五日はかかる距離。


四日目を迎え、今日は難所の山越えだ。


ここを通るしか王都へ向かう道はない。


体力が持つかどうか心配だが、そうは言っていられない。


きつい道のりだが、仕方がない。


秋十一月上旬。既に紅葉は始まっていて、景色はきれいなのだけど……。




継母により、わたしはこの家から追放されることになった。


その前日の夜に言われ、翌日の朝にはここを追放されるという過酷なスケジュール。


明日からは付き人もおらず、たった一人になる。


既にわたしに付いていた侍女は、継母より、わたしから離れるように言われてしまっている。


それだけでなく、近づいてはいけないとまで言っていた。


十歳の頃からわたしの世話をしてくれた侍女だ。


せめて、お別れのあいさつぐらいはしたい。そして、今までの御礼をしたい。


夜、わたしは、自分の部屋のベッドで横になりながら、そう思っていた。


明日からは、こういう柔らかいベッドで寝ることもできなくなる。


継母は、


「これからはもうこの家でのような生活はできないのだから、今日は粗末な物置にでも行かせて、これからの人生の備えた方がいいわ」


と言って、自分の部屋で寝ることさえも、じゃましようとした。


異母姉と異母妹も賛成し、粗末な物置に行かされそうになった。


しかし、さすがに、それだけは異母弟が反対した。


ありがたいことだ。


それで、今日は自分の部屋で寝ることができている。


異母弟は、継母のコントロールさえなくなれば、いい領主になれそうな素質は持っているんだけど……。


わたしは、異母弟に感謝しながら、この子爵家での今までのことを思い出そうとしていた。


すると、


「お嬢様、今よろしいでしょうか」


と言う声がドアの外から聞こえてくる。


侍女の声だ。


「どうぞ」


わたしがそう言うと、侍女が部屋に入ってきた。


椅子に座ってもらい、わたしと向かい合わせになる。


「お嬢様、わたしは悔しいです」


侍女は涙を流している。


「これだけ愛情あふれ、才色兼備な女性をこの家から追放してしまうとは……」


「ありがとう。そう言ってもらえるだけありがたいと思っている」


「わたしだけでなく、使用人の多くは、お嬢様のことを慕っています。我々のようなものまで、常に心を配っていただいた方は、今までいませんでした。それなのに、わたしたちは何もできません。それがつらくて……」


「こちらこそ、今までありがとう。わたしの世話を一生懸命してくれて。感謝しているわ」


「そんな、もったいないお言葉」


「わたしは、あなたに言葉で言い尽くせないくらい感謝しているのよ」


わたしの目からも涙があふれ始めた。


しばらくの間、二人で泣いていた。


この侍女ともう別れなければならないと思うと、つらさは増してくる。


もう少しだけ別れを惜しみたい。


でも、いつまでもここにいてもらうわけにもいかない。


継母からは、近づくことさえもしてはいけない、と言っているのだから。


「そろそろ行った方がいいわ」


「でも……」


侍女は、まだここを去りたくないようだ。


「あなたのことは一生忘れない」


「フローラリンデ様。わたしは、あなたさまがここに絶対戻ってきてくれることを信じています」


「その言葉だけでうれしいわ」


わたしたちは立ち上がり、抱きしめ合った。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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