29:魔法学校での出会い方
メルクリア王国の王都に存在する王立魔法学校。
国に住まう魔法使いだけでなく、隣のオヴィロやはたまた周囲の島国からも留学生が集まるこの学校は「魔法使いの登竜門」
入学できれば現状「魔法使い」に至れる水準は満たしている。
卒業できれば食うのに困ることがない「魔法使い」になれるのだ。
そしてその中から一握り。賢者認定試験に合格できる者は———今後が確約されていると言っても過言ではない。
私としては、アリアに会うために必要な流れだったからここに来ているけれども、ノワとしてはどういう心境でこの門をくぐったのだろうか
それは作中でも明らかにされていないことだ。私には、わからない。
『一人暮らしは大丈夫か、ノワ。お父さんはいつでも使用人雇っちゃうぞ?』
『うちは一般庶民家系だし、私は養子レッテルの方がでかいから。使用人をつけたら浮くに決まっているでしょ。てか雇える金あるなら自分に雇え』
『やだ。ノワ優しい。お父さんすっごく嬉しい。孝行娘に育ってくれてありがとう!』
『へいへい。でもそう言いながら雇わないでしょ』
『私の仕事は機密事項が多いからな。情報を狙う輩に潜り込まれては厄介だからな。他者は間者として、身内は狙われる可能性。そんなものはできるだけ増やしたくない』
『急に真面目になった…。まあそれで私が来ちゃったからいいじゃん』
『それもそう!ノワ最高!ノワ大好き!結界と探知ありがとう!間者千人牢獄送り記念でケーキ食べよ!』
『いいねぇ』
けれど、どちらのノワとしても…ここでの生活は初めての一人暮らし。
父さんに心配されつつ、背中を押し出されたのは間違いないはずだ。
鞄一つに詰め込んだ荷物を抱えて、私は魔法学校の門をくぐる。
それから三ヶ月は、どこにでもいる「普通の魔法使い」の生活を送っていた。
周囲の魔法使いに足並みを揃えて実力をひた隠し。
座学は…悲惨な方向でどうにもならなかったが。
そんな中、教室内で話題になったのは「師匠」のことだった。
どうやらこの国は魔法の才がでたら師匠をつけるのが習わしらしい。
そこから魔法学校入学まで鍛えて貰うというのが、この学校に在籍している魔法使いの大半が辿ってきたルートなのだそうだ。
…うちの師匠が聞いたらびっくりするな。
鈴海では魔法の都合上、一人で魔法を鍛えるのが当たり前だった。
むしろ私や兄弟子に相当する野々原さんのように、師匠に教えを請うのがレアなのだ。
まあ、その土地で文化ってのは違うし…ここではそういうことと受け入れるほかないのだが。
「エイルシュタットさんのお師匠さんはどんなお師匠さんだったの?」
「ん?ああ、どこにでもいる人間」
「…純血の?」
「うん。生粋の人間。でも強いよ」
アリアのように設定がポンポン出てくる訳ではなかったので、私は聞かれたことに対して「ありのまま」に答えていた。
強いて言うなら、師匠がそう言えって言っていた。
『はっ!種族を聞かれることがあるかもしれない!お前の師匠の種族はなんだとか!』
『いやないでしょ』
『椎名は魔法使い家系だけど、皆人間なんだよ。ご先祖様…シルヴィアだって生粋の人間だからね。だから師匠の種族を聞かれたら絶対に人間ね!』
『自分から設定を用意するスタイル、嫌いじゃないよ』
師匠は混ざりものではない人間だ。
魔法が使えるのは、その鈴海という世界の特殊性…。
でも、この世界では「ありえない」事象。
「あははははは!貴方の師匠は変わった人のようね!」
「純粋な人間が魔法を扱えるわけがないじゃないか!」
普通の人間が魔法を使うだなんて———この世界では、あり得ない話なのだ。
そう。この世界の魔法使いは「なんらかの混ざり者」
精霊、妖精…はたまた魔族。
様々な種族の血を混ぜて完成した存在ばかりいる学校が、この魔法学校だったのだ。
それから私は馬鹿にされ始めたというか…軽くいじめのようなものを受け始めた。
ある程度は耐えていたけれど、三学期からはそれがエスカレートして…暴力や命に関わるいじめも受け始めていた。
それに黙っているような魔法使いは、師匠に育てられた魔法使いではない。
『いいかい、一咲さん。もしかしたら魔法学校でいじめとかあるかもしれないから、僕から一つ教訓を教えておくね』
『やられたら倍返しなんて甘いよ。ぶち殺してやりなさい』
『蘇生魔法は見せてあげるから、それで何度も蘇らせて、実力を刻んであげなさい』
『だから死んでも蘇生魔法だけは覚えて旅立ってね。忘れないように記憶に刻んであげようか』
『え?絶対エミリーもドン引き?大丈夫。これをしてもエミリーは間違いなく釣れるから』
変にいじめられて余計なストレスを抱くよりはマシかぁ…と思っていたが、まさか本気で「ぶち殺し」を実行するとは思わなかった。
魔弾と蘇生魔法を何度も使って文字通り「サンドバッグ」にしたことで、いじめっ子は私に関わらなくなった。
その代わりに、あいつが関わるようになったのだ。
「貴方、人間の師匠から蘇生魔法なんて習っていたのですか?」
「…ガチで釣れた」
本来なら一年生ラストの試験でエミリーの成績をノワが抜くことで発生するイベント。
けれど今回の試験の結果。エミリーは安定の首席で私は赤点ギリギリの成績。
発生するはずのない彼女との出会いは「私の師匠が人間だと公表する」そして「蘇生魔法を使った上で、いじめっ子の撃退シーンをエミリーに目撃させる」ことで再び同じタイミングで発生できるように調整されていた。
あの師匠の計算か、はたまた偶然の産物かわからないが…この流れを大事にすべきことぐらいは私でも理解できる。
「私の師匠でも、蘇生魔法はできないのですよ…?」
「へぇ。君の師匠ってどんな人?」
「人ではありません」
「は?じゃあトカゲ?」
「それは龍族の蔑称です!私の師匠は龍族です」
「そ」
「なぜそこまで興味がなさそうにしていられるのですか!」
「だってどうでもいいし。師匠が誰かなんて興味ない。私は君が誰かの方に興味があるね」
知ってはいるけれど、この瞬間が私とエミリーの初対面だ。
だから知らないふりをして彼女の自己紹介を引き出す必要がある。
「わ、私はエミリー・エトワンス!一応首席なのですが!」
「そうかい。E子」
「勝手に略さないでください!ところで、貴方の師匠は」
「やられたらぶち殺せとか言ってくる頭のイカれた人間の魔法使いですけど?」
「そんな頭のネジがぶっ飛んだ存在でも、誰も使えないとされている蘇生魔法を———禁術を扱えるのですよね?」
「うわあれ禁術だったの?」
「知らなかったのですか!?」
「興味がないからね。魔法であるなら、禁術だろうがなんだろうが教えるし、学ぶ。うちの師匠はここにいる誰よりも、誰の師匠よりも強い。その次は私。実技がでてくる二年生が楽しみだね、エリン?」
こういう挑発はあまり好きではないけれど、元々エミリーを小馬鹿にして始まる関係なのだ。
だから、こうして彼女の怒りを買う必要がある。
「なっ…調子に乗らないでくれますか!?それとエミリーです!」
「君の名前なんてどうでもいいよ」
「はんっ…覚えきれないだけでしょう。だから赤点ぎりぎりなんですよ!」
「人の成績を把握してるとか怖いんですけど〜!もしかしなくても、私のストーカーなの…?それとも暇人…?」
「貴方なんてストーカーする時間があるのなら勉学に費やすのですが!?」
・・
「そうして始まったのが私たちの縁だね」
「…学生時代から酷かったのね、貴方。エミリーが可哀想」
そうはいうけれど、実技がボロボロだった彼女は私に追いつこうと自分を鍛えてきて、今の魔法使い「エミリー・エトワンス」が完成しているのだ。
この関係に文句を言わないどころか、切らさないようにしている時点で、エミリーもそれは理解しているのだろう。
私としてもこの世界の魔法常識をエミリーから得ている。
だから、なんだかんだ小馬鹿にしていても、彼女は私の…この世界でできた初めての友達と言ってもいい気がする。
「まあ、とりあえず、エミリーと貴方の出会いはわかったわ。結構変わっているけれど、お互いの為にはなっているようね」
「ん」
「それに、ちょうどいいタイミングで開けた場所に到着したことだし、貴方に私から稽古をつけてあげるわ。それから…数点、確認してほしい魔法があるのだけれど」
「いいよ。浄化魔法を教えて貰う対価だ」
「ありがとう。じゃあ、まずは浄化魔法からいきましょうか」
「よろしくお願いします、ミリア先生」
「貴方にそう言われると…むず痒いわね」
開けた場所に到着した私たちは互いに杖を構える。
そしてミリアは私に聞き取れるように、ゆっくりと詠唱を初めてくれた。




