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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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26:想定よりも早い到着

朝が来る。

パチリと目が覚めた私は、見慣れない天井を眺めた後、目を伏せた。


「…お風呂に入ってからの記憶がない」


けれど、どこか身体がすっきりしていて、いつもより元気な気がして。

いつもより、起き上がるのが楽…。ぼんやりする時間がなく、瞬時に目覚めることが出来たのもきっと昨日の施術が影響しているはずだ。


「…」

「あ、ノワだ。隣にいたんだ…」


昨日、あの後こうして運んでくれたのだろうか。

彼女も慣れないことをして、頑張って。

最後は、寝かしつけるところまでしてくれたらしい。


「…昨日は、ありがとね」

「んー…」

「疲れているでしょう?もう少し寝ていてね」


返事はないから、そのまま布団を出て窓を開ける。

街の外は、朝なのに暗い。

ミドガルは常夜都市。太陽の光が届かない場所だ。

朝と夜の判別は難しいけれど、朝と夜で唯一異なるのは…娼館の明かりがついていないことだ。


夜は賑やか、朝は静か。

普通の都市とは異なる日常も、このミドガルの見所の一つだ。

周辺が墓地で廃村。宿泊ができるエリアが娼館街という嫌煙しがちな材料がある都市ではあるが…。

スメイラワースからオヴィロ帝国に向かう道のりの中で「唯一安全に寝泊まりができる」場所だからか、宿屋や周辺の店は結構しっかりしていたりする。


「…お腹、空いたかも」


ふと、空腹感を覚えた。

ノワを起こして食べに行くのは流石に悪いので、私は一人で食堂へ向かうことにした。

着替えを済ませ、最低限の装備を持つ。

そして「食堂へ行ってきます」と、書き置きを残して、私は一階へ向かった。


・・


宿併設の食堂は混んでいると思っていたのだが、意外と人が少なかった。

店員さんに話を聞くと、オヴィロ帝国やスメイラワースに向かう人々は基本的に早朝に出発するらしい。

今、この時点でここにいる人は滞在する人々だけだとか。

昨日と同じような朝食を受け取り、適当な席に座る。


「…まずいわ。意外と早く到着しちゃった」

「半月以上は早く到着していますね。」

「エミリーに、どう説明する…?」

「どうもこうも、想定より平和で、道中やることがなかった。だからミドガルに想定より早くついたと言えばいいではないですか」

「そうだけどぉ!ああ見送った手前、なんだか顔合わせにくくない?」

「人間面倒くさいです…」

「なんでそんなに呆れているわけ!?」


少し離れた席から聞き覚えのある声がする。

まさかこんなところでもう一度会えるなんて思わなかった。


「ミリアとパシフィカ?」

「その声は勇者様!まだこの都市にいらしたんですね!会えてうれしいです!」

「あ、アリア…ひ、久しぶり…ですね!元気そうでなによりです」

「久しぶり。二人は朝食中?」

「ええ。よければ勇者様もご一緒にいかがですか?」

「ありがとう。パシフィカ。隣いい?」

「もももももももももも!もちろん!どうぞ、どうぞ…」

「ありがとう?」


なぜか挙動不審なパシフィカの隣に腰掛けて、久しぶりに再会した二人と共に食事を摂る。


「…精霊って面倒くさいわ。あ、パシフィカが…か」

「何か言いました、ミリア!?」

「何も言っていないわよ〜?」

「ところで、パシフィカはどうしてここに」

「あ、それは…」

「それはですね、勇者様。パシフィカは勇者様が旅立って三ヶ月。そろそろ追いかけても良いのでは?って時に私達がスメイラワースに到着して…」

「どうせなら、後援旅団で実戦を積もうと思い…」

「こうして一緒に行動をしている訳ですね」


なるほど。パシフィカは勇者後援旅団という形でミリアとエミリー同様、勇者と同じ旅をしているらしい。

そこはまだ物語と同じになってくれているようだ。


「ミリアと一緒なら安心ね。ミリアも、あの後の旅路はどう?」

「色々とありましたが、なんだかんだで上手くいっています。小さな村にも勇者様の偉業を知らしめておきましたよ!」

「そこは自分たちの偉業にしておいて!私たちは旅を急ぐばかりで、立ち寄った場所の問題にはあまり関われていないから…」

「そんなことはありませんよ!勇者様が来てくれたという事実だけでも安心感は生まれますから!」

「何もしていないとは言いますが、魔物退治は賢者と共に行っていたのでしょう?目に見える上、十分すぎる仕事です」

「あ、ありがとう…」


最も、それだってノワが魔法でどかーんと吹き飛ばしているだけだから、私の功績なんて微々たるものだけれど。


「それに、勇者様だけが魔王を討ち取れる存在です。道中を急がれるのはむしろ義務とも言えるでしょう」

「そう、なのかしら」

「アリアは聖剣の所持者としてするべき事をしていると、私は思います。だから、道中のことは私たちに任せてください。貴方の側を賢者だけに任せるのは不安ですが「実力だけ」は、確かなようですから」

「あ、あはは…あはは…!」


なんだろう、パシフィカのノワ評価がとても辛辣なような気がする。

関わった時間は私の方が長いのに、なぜかノワが異様に嫌われているような気がするのは何故だろうか。

…これも、物語補正の一つなのだろうか。さっぱりわからない。


「ところでアリア。賢者じゃない方の黒髪の女性は?一緒ではないのですか?」

「あ、その人、パシフィカから聞いて気になっていたんです。勇者様と一緒にいるのかなって」

「く、黒髪?時雨さんのことかしら」

「そうですね。シグレと呼ばれていたようですし。一緒ではないのですか?そもそも彼女は何者だったのですか?」


パシフィカからしたら、物語の外にいる時雨さんは見慣れない衣服を着ているし、妙に強いしで不信感を与える存在だったのかもしれない。

現に今も彼女のことを問うパシフィカの目は鋭くて、外敵だと判断した瞬間、勢いよく襲いかかってきそうな恐ろしさがある。

…「設定」には、気をつけないといけないかも。


「時雨さんは、ノワのお師匠様の助手さんみたいな感じの人よ。ノワはああ見えてお師匠様の事が好きみたいで、旅のことも逐一手紙を出していたみたい」

「へえ、なんだか意外。あの賢者が師匠思いだなんて」


…枷で連絡?を取り合っていたようだし、なんだかんだでノワは椎名さんのことは慕っている。

時雨さんもある意味助手みたいな存在みたいだし、語弊があるだけで嘘は言っていないと思いたい。


「恩人みたいな存在だから」

「「あの賢者に恩義とか言う概念があった…?」」

「二人とも意外そうにするところがおかしいと思うわ」


ノワだって、一咲ちゃんだって、そんな人並みの感情程度、持ち合わせている。

二人は関わった時間が少ないから、そんなことを言ってしまうのかもしれない。

それに、二人と一緒にいた時の彼女は「二人をパーティーに入れない!」という行動理念を持っていた。

言ってしまえば、今の彼女…本来の彼女を知らない。

本当のノワ・エイルシュタット———その中にいる友江一咲という女の子を知ったらきっと、彼女たちも彼女の評価を改めてくれるだろう。

そうなってほしいと心から思う、けれど。その事実を伝えることは、叶わない。


それに、彼女たちと旅をする機会は失われていると思う。

だから彼女たちがノワを知る機会というものは実質ないようなものなのだ。

自分で言ってなんだが、とても寂しく感じる。


「しかし、なぜ彼女はスメイラワースに?」

「ちょうど彼女はお師匠様に命じられてスメイラワースに来ていたらしくて、偶然私たちもスメイラワースに到着したから、時雨さんがお師匠様の代わりに私を見に来たそうなの。結果的には、色々とお世話になっちゃって…」

「なるほど。そういう間柄だったのですね」

「でもでも、手紙をそんなに早く届けられるなんて…聞いたことはないわよ?」

「お師匠様とノワの間だけで、即日で届く経路があるんだとか。私もよくわからないけれど」


言えない。魔法使いの枷を悪用して椎名さんに連絡を取っていたノワとか。

言ったらまずいと思うし、言っても信じて貰えないと思う。


「ふわぁ…アリア、いる…?」


ちょうど、ノワが大あくびをしながら食堂へやってくる。

彼女も起きたらしい。

一瞬、ミリアとパシフィカの顔を見ておいたが、ミリアは普通そうだったけれど…パシフィカは害虫を見たような目線でノワのことを見ていた。

どれだけ嫌いなのだろうか…。


「おはよう、ノワ。よく眠っていたから起こさずにいたのだけれど」

「んー。ぐっすり。ありがとねって、ミリアとパシフィカ?なんで?エミリーの話だと一ヶ月後ぐらいの到着だって言っていたのに」

「うぐ!?」

「…」


先程、どうしようか大きな声で相談していた話は「想定よりやることがなくて早くミドガルへ到着したけど、それをエミリーにどう説明する?」だったか。

そんなところにノワ…よりにもよってこの都市に来ているエミリーと会っているノワだ。

…そういえば、昨日はゴタゴタで話せていなかったけれど、結界の外に出された後、ノワは何をしていたのだろうか。

せっかくの機会だ。聞いてみよう。


「そういえば、昨日のことは話していなかったわよね。ノワ」

「そういえばそうだね」

「ちょうどいいから昨日別行動をした時のこと、話して貰える?」

「もっちのろ〜ん。あ、ちょうどいいや。二人も逃げずに話聞いてね。巻き込むから」

「「巻き込むから!?」」

「逃亡するなら、先程馬鹿でかい声で相談していた内容、間抜け度を上げた上でエミリーに暴露しま〜す!」

「「聞いてたの!?」」

「そこから聞いていたのね。早く入ってきたらよかったのに」

『…いや、私が入るとごたつきそうだったから。時雨さんの話になるとは思ってなかったから』


頭の中にノワの声が響く。

どうやら、通信魔法を使用して私に語りかけているようだ。

…二人には聞かれたくない内容らしい。


『…パシフィカにあそこまで疑念を抱かされていたのは想定外だったものね』

『そういうこと。雛鳥が既に状況は師匠たちに伝えてくれた。今後は行動に気をつけないといけないかもね』

『そうね。それから、後で誤魔化した話の内容を共有するわ。時雨さんのことを聞かれた際、同じ内容で誤魔化せるように』

『了解!』


軽く相談を終えて、ノワはふらふらとミリアの隣に腰掛けて朝ご飯を食べ始める。

私たちが本題に入ったのは、朝食を終えた後のことだった。

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