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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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23:宿屋での相談

宿屋に着いてから、私はベリアからミドガルに関する基礎的な知識を叩き込まれた。

ノワが、一咲ちゃんが話してくれなかったことから何もかも。

だからこそ、恥ずかしい。

無知だったからは言い訳にはならない。過去を思い返せば、とんでもないことばかり言っていた…。


「…はうっ」

「なんだこいつ…アリア・イレイスとして知識がないのは勇者になったタイミングが悪かったって言うのまではわかるが、キリサメとしてはやばいレベルじゃないのか?」

「それ、私も思うんだよね。でも、私もなんだかんだで病室過ごしだし、記憶が消える病気だったからさ。普通ってなんだかわからないけれど…少なくとも、女の成長に関わる事象すら知らないのは流石にどうかなって思うわけ」

「…シイナを参考にするのはどうかと思うが、二人の年代では既に完了している事柄ばかりっぽいぞ」

「師匠の知識なら信用していいよ。あの世界の医学に関することも学んでいたからね」


ついでに聞かせて貰ったのだが、ベリアの能力は「記憶」に関わることだそうだ。

あの空間を作り出したのはヴェルの方らしい。

ベリアが対象から記憶を読み取り、得た記憶を元に「その人物の理想」や「恐れている事象」をヴェルに伝えて、夢を作り出して貰う。

それが、彼女たちの戦い方。そして食事方法だそうだ。


悪魔にとって、食事は他種族のように行うこともできるけれど…あまり受け付けないらしい。

食事は血が基本。

高揚状態で飲む「他者の不幸」が混ざった血は甘美に感じてしまうとのこと。

良くも悪くも、先程の一件は彼女たちの「食事」もとい「おやつタイム」だったらしい…。


今回ばかりは、相手が悪かったようだけど。


頭の中で怒り心頭状態の椎名さんが未だに思い出せる。

ギャップというのだろうか。

普段優しくて、ずっとニコニコしている人の想定外の姿は一種の恐怖体験であり、なかなか記憶から離れてくれない。


『んあ?なんであの魔法使いがキレたのかって?』

『まあ、確かに…あの黒髪のこと好いてるっぽいから、あたしらもあの黒髪とイイことができる夢にしてやったんだけど…それがあいつの琴線に触れたんだよな』


どうやら、記憶をのぞき見た彼女は好きな時に覗いた記憶を振り返ることができるらしい。

魂に刻まれた全ての記憶を覗けるそうだから、彼の忘れている記憶もしっかり見ることができたそうだ。

ベリアが保持している記憶を他者に植え付けたりとかは出来るらしいが…一身上の都合で「そういうことは期待しないで貰いたい」とのことだ。


『…ああ、そうそう。二人を待っている間、魔法使いの記憶は再度洗い直したんだが…よかれと思ったことが完全な地雷だったみたいでな』

『何があったかって?二人の世界の言葉で…「尊厳に関わる話」ってやつかな。こればかりは言えない』

『…あたしが甘っちょろいだけかもしれないが、これでも「悪魔」。さっき言ったとおり「他者の不幸」が甘美になる存在だ』

『そんな悪魔あたしでもドン引きするようなこと、とだけ。だから、詳しくは知ろうとするな。詳しくは誰にも聞くな。あの魔法使いの為にも、あいつの母親の為にも』


椎名さんが怒った理由に関する話は、私は先程聞いている。

だから話してくれたら良いのに、なんて思わない。

隠してくれることに、彼女の優しさを感じる。

悪魔なのに、本当に甘い。


こうして記憶を参照している姿を見ていると、彼女の能力は末恐ろしく感じる。

一度記憶を取れば、彼女はその記憶をいつでも参照できる。

椎名さんの記憶はいつでも彼女の手の中というわけだ。

よりにもよって椎名さんの知識を参照できちゃうのかぁ…。

色々と複雑だが、一応彼も学歴だけ見たら高卒(大学在籍中に殉職)…。

私たちより学校に行った経験はある…。私達の勉強もわかりやすく教えてくれていた。

絶対頭が良い…。

そんな彼の知識がベリアにある…。味方でよかったな。うん。


「まあ、前世のことは横に置いておいて。今はある程度は教えたし、後は本やらなんやらで知識を得てくれ。人間と悪魔で異なる事もあるだろうからな」

「ありがとう、ベリア」

「いいって。気にする必要はない。それで、話は今後のことだ。ヴェルと、それからあん…ああ、面倒くさい。お前らにはリラとかいう存在に関わることが今後の課題、なんだよな?」

「そうね」


…今更だが、ベリアの口調は結構粗めだ。

だけどそれに不快感は覚えない。気遣いがにじみ出ているからだろうか。

…やっぱり、彼女は悪魔にしては甘すぎる。


「まずはどちらから対処すべきかな…」

「一番手っ取り早いのはリラかな。エミリーもいるし、聖剣さえ使いこなせればきちんと戦える相手のはずだから」

「ん。じゃあその間、あたしはヴェルの動向を追っておくよ。何かあれば連絡を入れる」

「一緒にはいてくれないの?」

「元々あたしは現時点で関わる存在でもなければ、お前達の言う「物語」の中にもいない人物だ。もう例外ではあるだろうけど、少しでも同じようになぞった方が、変化が少なくて楽になるんじゃないか?」


外に出る準備を整えるベリアに私たちは不安を抱く。

彼女の強さは理解している。あの水さんと舞園さんを倒したのは彼女たち自身のはずだから。

けれど、彼女自身能力がサポート特化だし、一人にして大丈夫なのか…そんな不安もあるのだ。


「そうだけど、君だけで妹の相手はできるの?」

「できないぞ」

「「へ?」」

「あたしは元々身体が弱くてな。戦うなんてできやしない。ほら、ガリガリだろ」

「うわ…滅茶苦茶ガリガリ…大丈夫?ご飯食べられてる?」

「血が飲めない体質でなぁ…。あたしは魔石に含まれた魔力を吸うことが食事なんだ。だからシイナとか狙っちゃったんだけど」

「あーなるほどね。師匠は大量に魔石抱えている上に、しかも高濃度だから美味そうなんだ」

「そうそう」


「戦えないとなると、ますます一人にするのが心配…」

「大丈夫だ、アリア。何年あいつと一緒にいると思っている?ヴェルの攻撃ぐらいまともに食らっても生きていられる。あたしはそこそこ頑丈なん…だその目は!二人揃って「嘘吐いてるだろ」「心臓貫いたら死にそう」とか良いたげな目を向けて!」

「「思ってない思ってない」」

「…ぐぬぬ。とにかく大丈夫だから!あたしは下手な動きをしないし、あたしに何かあればシイナ側も手を出すだろう。お前らの事情を把握している上に、自分が望むように動かせる貴重な駒を失う真似はあいつ自身も避けたいはずだからな!」


帽子の中に角を隠し、準備を完了させる。

それからノワが通信魔法を彼女にかけて、魔法で彼女とやりとりができるようにしてくれた。


「とりあえず、あたしはヴェルの足止め…少なくともこの都市から出さないようにし続ける。もって一ヶ月だと思うから、それまでにはリラとやらの問題と、勇者の強化を完了させてくれ」

「おうとも。任せな」

「…なんだろうな。あの魔法使いの記憶から考えて、お前の「任せろ」だけは滅茶苦茶信用ができない。あんまり無茶はすんなよ」

「師匠が何を考えているかよくわかったよ。あいつ、今度あったら絶対泣かす」

「そうか。じゃあ一つ。記憶戻ったんだよなあいつ。それなら、今。あいつに女が触れたら吐くぞ」

「知ってる。師匠最大の弱点。それで何度か修行中断した」

「え」

「それじゃあな。お互い、健闘しようぜ」


そう言ってベリアは部屋を出ていく。

それをノワは慌てて追いかけた。


「なんか最後の最後にとんでもない情報をお出しして逃げるのよくないと思う…!」

「アリア、駄目だよ。この宿、子供連れが多かったでしょう?夜も遅いし、騒いだら迷惑だって言われちゃうから」


一応、言っておくが…子供たちの保護者はこの都市で愉しむ為に来ているわけではない。

オヴィロの道中、スメイラワースを出た後に立ち寄れる安全な都市はここしかないのだ。

引っ越しや商人一家ならば、ここに立ち寄らなければ安全な旅路は保証されない。

仕方のない事象だ…あまり、教育には良さそうじゃないけれど。


「だから、今日は大人しく部屋で休みましょうね」

「だ、だってどういうことか全然わかんないし…!」

「確かにどうしてそうなったのか私としても気になるけれど、あまり追求すべき事じゃないと思う」

「…わかった。でも、必ず追おうね。気になるから」

「勿論」


「それじゃあ、そろそろ一日を終える準備をしようか。もう夜だし、続きは明日かな」

「そうね。まずは…」


お互いに、大きな音を鳴らす腹を抑えながら笑い合う。


「食事が先ね」

「その後はお風呂だ。今日は色々あったし、しっかり一汗流させて貰おう」

「ええ」


残りの計画を立てて、とりあえず私たちは明日に備えて準備を整えることにする。

手始めに、食事からだ。

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