22:ただいま、ミドガル
図書館から物語の世界に戻る道中。
不思議な道のりで、ノワは一人首をかしげていた。
「そういやなんで師匠魔法を使えていたんだろうか…」
「どういうこと?」
「あの図書館さ、修練場以外魔法を使えない仕様になっているんだよね」
「そうだったんだ」
「うん。だから師匠も魔法が使えない状態なはずなんだ。だからなんで魔法が使えたのか…」
「ぴにゃっ」
「ん?何か言った?一号」
「ぴにゃー…」
「んんん…何か言っているんだろうけど、私には全然わかんないな」
ノワはピニャの入った籠を持ち上げて、何度もその声に耳を傾ける。
しかし、彼女には言いたいことが伝わっていないらしい。
「ええっとね…たどたどしいけれど「図書館で魔法は使えない」「けれど、この出入り口が繋がっているあの部屋は例外」だって」
「アリア、わかるの?」
「うん。ええっとね…」
「ぴにゃあ!(図書館と物語世界を繋ぐ扉。あれが存在しているあの部屋だけ「法則」が歪んでいるんだよ)」
「なるほど。なるほど…法則って?」
「ぴにゃぴ(図書館に定められているルールみたいなもの)」
「ぴっぴにゃ(でも、他の空間と繋がったことで…あの部屋だけ法則が歪んだ)
「ぴにょぁ(だから魔法が使える。理屈はわからないけれどね)」
「なるほど。ありがとう、ピニャたち」
それから私はピニャたちの言葉をノワに伝える。
私も魔法に関してはさっぱりだから、ピニャの言葉をそのまま伝えただけだけれども…。
ノワはざっくりではあるようだが、魔法を使えた理由を察してくれたようだ。
「ほうほう。つまり、空間が繋がったことで「物語」の世界が影響を及ぼして、本来魔法を使えないはずの空間を魔法が使える空間へと歪めてしまったというわけか。面白いね」
「ノワは、どういう訳かわかるの?」
「いや。全然。専門じゃないって言うのもあるけれど…こういう「歪み」はあまり触れない方がいい」
「悪いものなの?」
「今回のように益を生む代物もあるけれど所詮「バグ」…異常現象なんだ」
「つまり、それは安全性が保証されていない代物だから」
「それが安全だと信じて使うことは推奨しないね。多少のリスクを考慮して使用しないと、痛い目を見る羽目になる可能性があるから。気をつけてね」
「勿論」
話している間に出口が見えてきたので、少しだけ駆け足で光の先に飛び込んだ。
その先はミドガル。
あの路地に戻ってきたらしい。
「あ」
「消えちゃった」
私たちが通り抜けると、図書館と繋がる道は一瞬にして消えてしまう。
そして、タイミングを見計らったように…。
「…無事だったみたいだな」
「ベリアだ。妹とはどうだった?」
「…一番言いづらいことを開口一番に聞くな」
「「あー…」」
どうやら彼女はあの後、ヴェルと別れて私たちたちを待っていてくれたらしい。
悪魔特有の大きな黒い巻き角を隠せる帽子を深く被り、悪魔の気配を消した上で…。
「ヴェルには見つからなかったの?」
「そのあたりは大丈夫だ。どうせ探す気なんてないだろうからさ」
意味がわからなかったが、話を聞き続けると…どうやらあの後、無事に帰還した彼女はヴェルに「連れ去られた後」のことを尋問されたらしい。
一応、隠さずに事情を話したそうだ。勿論、永羽と一咲の事情は伏せた上で…。
「まあ、とにかくな。あの魔法使いにやられたことを話したら絶縁されたんだよ。敗北者を姉とは認めねぇって!」
「あー…」
「言ってやればいいじゃん。一つ違えばお前が私になっていたとかさぁ」
「言ってやったけど、その時点であたしへの興味は皆無になっていたな…流石に堪えた」
「い、今まで仲は良好だったのよね」
「家族だからな。今まで「お姉ちゃん」ってべったりだったのに!一度の敗北で!あんなゴミ虫を見るような目をしてくるなんて!ショックでむしろ死んでおきたかったぐらいだ…」
「ベリアって、もしかしなくてもシスコン」
「しすこん…?記憶を参考にするなら「妹を溺愛する者」ってところか?まあ、世話が非常に焼ける存在だからな。過保護な自信はある」
「どうした、勇者」
「いえ、なんというか…悪魔の方が家族を大事にしているなって」
「隣の芝が青く見えているだけだぞ。言いように聞こえるけれど、結局のところ一度の敗北で絶縁するような環境なんだから」
「…ごめんなさい。旅に出る前、出身土地で家族に関する嫌な話題が多かったものだから」
「ま。そんなこともあるか。で、ノワ。これからどうすんだ?アリアの修行はつけられていないんだろう?あたしが言うのもなんだが、ヴェルと戦わせたら間違いなく死ぬぞ?」
「あ、そこは大丈夫。私がしっかり面倒を見るから。とりあえず、もう少しゆっくり話せる環境にいこう。君の能力をきちんと聞いた上で、今後のヴェルがどう動くのか、予想を立てないと…それに、私たちは私たちでやることがある」
「リラのことよね」
「そう。だから…とりあえず、今日は疲れたし休もう。寝よう」
「…娼館でか?タフだな〜」
「ノワ、普通の宿屋を探してね。娼館は高いみたいだから…」
「…おい、ノワ。冗談でからかったあたしが悪いけど、この勇者は娼館がどういう場所なのかまだ知らない感じか?」
「ざっくりと説明はしたけど…詳細はあんまり」
「オヴィロに行く道中とは言え、流石にどんなところか説明をしておけ!騙されて痛い目を見る前に!」
なぜかノワがベリアに説教をされつつ、普通の宿屋への道を歩いて行く。
その姿を、ある人物が静かに監視していたことを知らずに…。




