20:私はきっと、彼女が
ノワを追いかけて、私は…あの話の続きを、聞くことになった。
「…」
私が死ぬ二日前に椎名さんは自分の記憶を代償に、私たちの願いを叶えてくれた。
その結果がこれ。
次も一緒に…来世も一緒にという願いは、ノワとアリアとして叶えられていた。
これが椎名さんと私たちの間に交わされた約束。
彼は私たちの縁を結び、ここに送り出す———その約束を果たしてくれたのだ。
「けれど、それよりも…」
この願いは私だけの一方的な願いかと思っていた。
一咲ちゃんと再会できたのは偶然というか、椎名さんが仕組んだことだと思っていた。
事実、この状況は椎名さんが仕組んだ訳だけれども…。
「一咲ちゃんの願いは、私と同じ」
何よりも、胸の内を占めたのはこの事実だった。
何度聞いても、現実とは思えない事実。
一咲ちゃんが私と同じ願いを持ってくれた。
叶えた張本人も言うのだ。本当の事なんだ。
死んだ後も、一緒にいたいと願ってくれたことが…嬉しく思う。
物陰に隠れて二人の様子を伺った後、二人は別れ、それぞれの道を歩き出す。
私はノワに偶然を装って合流した。
「あ、アリアだ。ここでは永羽ちゃんって呼んだ方がいいかな」
「どちらでもいいよ」
「じゃあ、永羽ちゃん」
「ん…なあに?」
「なんか、大丈夫?話聞いて疲れた?」
「まあ、ちょっとね」
ここでも、前世との常識から大幅に乖離した日々だけれども、前世でも同じく非現実的な日々というものは存在していた。
それも、身近な人物に。
「…一咲ちゃんは、大丈夫だった?椎名さんの、過去」
「ある程度は知っていたから覚悟はできていたよ。それに、記憶を飛ばす前の師匠ってさ…将来私たちにあり得た姿かもしれないから」
一咲ちゃんは一度立ち止まり、天井を眺める。
この図書館の天井はガラスばり。
空を見上げれば、無数の星空を見ることができた。
「もしも病気が治った未来なんて、私には考えられなかったな」
「死ぬ前提で毎日過ごしていたし、明日また生きていられるかどうか…ってぐらいだったもんね」
「そうそう。だから、病気が治るからって未来の事を考えろって言われた師匠には正直同情するよ。難しいよ、生きるのって。凄く難しい」
「…そうだね」
一咲ちゃんの手を握りしめて、私たちは一緒に歩いて行く。
願いで作られた道を、共に。
「でも、今は私たちも死んで次の人生を歩んでいる」
「うん」
「やることは多いよ。きっとこれからの旅も過酷になる」
「わかってる。それでも二人なら大丈夫だと言えるように…私も、強くなるから」
「ありがとう。私も負けないように頑張らないとだね」
「これ以上強くなってどうするの?」
「なあに、強くて損をすることはないさ。できることは、増やしておかないと」
「そうだね。私も、聖剣だけじゃなくて…転生特典も使いこなせるようにしたい。だから、手伝ってくれる?」
「もちろん。お互いにね」
「うん!」
彼女が一緒にいるだけで心が安心するというか、落ち着く。
『僕も、君と一緒にいると凄く落ち着くかな』
彼女の為に、強くなりたい…。
『彼の側にいても問題ないように、彼にふさわしい女性になろう』
頭の中に巡るのは、先程の話。
『師匠は、時雨さんのこと好きなの?』
『少なくとも、記憶を失う前の僕は好きだったようだよ。長年の片思いというやつさ。けれど、今はわからない。恋心がなんなのかすら、わからないから』
そっか、私…。
「一咲ちゃんのこと、好きかも」
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
「どうしたの?」
「どうした急に!?」
「ううん。なんとなく、今日あった事を考えるのなら、これが好きって気持ちなのかもなぁって」
「と、友達的な、なのかな…?」
確かに、今日の話は恋愛的な話なんだろうなと思う。
けれど私は、まだ恋とか愛だのそういうものはわからない。
「私にはまだね、わからないことの方が多いんだ」
「そ、そうだね…成長期の事とかもさっぱりみたいだし」
「寝たきりだったから、知らないことの方が多いけれど、これから沢山知っていけたらなって思うよ。勿論、一咲ちゃんのことも、ノワのことも」
「お、おう…つまりこれは」
「友達としての好き、かも。多分、これ」
その感情は椎名さんが抱いているような「一緒にいたい感情」であり、時雨さんが抱いているような「ふさわしい存在になろう」という意志も混ざっている。
二人にとっての恋愛感情が交ざっているこれは、本当に「友達としての好き」なのか、私には断言できない。
だから、知っていきたい。
これがどういう感情であり、どういう好きなのか。
勿論、前世で知れなかった一咲ちゃんのことも。
今、側にいてくれるノワのことも。
「そ、そっか。友達として…うん、私も同じだからわかるな」
「そうなんだ」
「永羽ちゃん?その…何を、期待されているので?」
「一咲ちゃんにも「好き」って言って欲しいなぁって」
じっと見つめて要望を伝えてみると…一咲ちゃんの顔が一瞬にして真っ赤になってしまう。
項垂れた彼女は、私に抱きつき…耳元でそっと、恥ずかしそうに告げてくれた。
「…永羽ちゃん、好き」
「うん。私も大好きだよ、一咲ちゃん!」
「…破壊力がヤバい」
「はかいりょ…って!鼻血!鼻血出てるよ一咲ちゃん!?」
歩いていたピニャを引き留めて、ティッシュを受け取り…彼女の鼻にツッコむ。
ねえ、一咲ちゃん。
私、これだけは知ってるよ。
何もしていないのに鼻血を出す人は、興奮をしている人だということを。
つまり、一咲ちゃんは「好き」の言葉で興奮したことになる…のかな。
「好きにも、色々な意味合いがあるのかな…」
「どうしたの、永羽ちゃん」
「ううん。なんでもない。鼻に入れるの、足りそう?」
「替えがほしー…」
「はいはい。今作るね」
疑問は彼女の血と共に丸くなったティッシュの中に押し込まれて、騒ぎと共に消え去ってしまう。
思い出して答えを出すのにはまだ、時間がかかりそうだ。




