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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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14:青鳥の影

ノワが意識共有魔法で夢の中に入り込んだと同時刻。

私と椎名さんは、暗闇の果てに辿り着いたらしく…明かりが広がる空間へと辿り着いていた。


「…明るくなったね」

「ここ、どこですか?」

「わからない。けれど劇場みたいな感じで…不思議な感じ」

「主、永羽様。座ってみます?絶対罠でしょうけど」

「だろうね」

「座ったら、何か嫌な事が開始されそうですよね…」


先程の事象といい、用意されたこの場所といい…絶対何かあるだろうな、と思わせる空間。

しかしこの先に進むべき道も、戻る道もない。

互いに顔を見合わせる。

リスクが大きい事象だ。けれど、避けることも難しい話。


「…先に取り決めをしておこう。君が術にかかれば僕は対処をする。けれど僕が術にかかれば、ピニャと一緒に逃げるんだ」

「椎名さん頼りになってしまうのですが、術を妨害するのはどうなのですか?」

「ここまで用意周到な術だ。僕らに合わせて変化を遂げているように思える」

「記憶を読み取っているからでは?」

「それもあるだろうけど、魔法というのは遠隔操作が非常に難しくてね。細かな調整は「見ながら行う」必要があったりするんだよ」


明後日の方向を睨みながら、椎名さんは見解を告げてくれる。

…その視線の先には、まさか。


「類似しているのは「枷」だね。一咲さんから説明は受けたかい?」

「…誓約違反は感知できるけれど、それに対する罰は手動で行わないといけない仕様ですよね」


一咲ちゃんはその仕様を利用して、椎名さんとやりとりをする手段にしていた。

それと同じように当てはめることができたら…。


「そういうこと。相手は今この瞬間を、監視でもしているのではないかい?」

「…」

「…一匹、引きずり出してみようか」

「えっ」

「おいで、リュミエール」


杖の名前を呼んだ瞬間、椎名さんの左手中指の指輪が一瞬にして杖の形を取る。

青の魔法石が嵌められた白と金の装飾が眩しい旗杖。

魔法旗杖「リュミエール」———光の名前を持つその杖は椎名さんが生前から愛用している杖だ。


「捕縛しろ」


たった一言。それだけで足下の深海のように深い青の魔法陣から、無数の黒い手が伸びていく。

それは劇場の天井に伸びていき…揺れと共に激しい叫び声が響いてくる。

この空間を維持している術者を狙ったのだろう。

だから、空間がぶれた。


「あ、あの椎名さん。そこまでする必要は…」

「…永羽様には言っていませんでしたが、合流前、主は一番見たくなかった光景を今回の術者に見せられています」

「え…」

「自力で逃げ出したのですが、主の腸は煮えくり返っている状態です。的…ならまだ可愛げがあるほうだとは思いますが」

「…的が、可愛い」

「いつも通りならば、拷問して最終的には見せしめで殺しますね」

「そこまでしなくたって…」

「躊躇はつけ込まれる要素だよ」

「あがっ…!」


黒い手に絡め取られた赤髪の少女は、動揺と恐怖が混ざった視線を椎名さんに向ける。

ピニャ君はいつも通りと目をつぶっていた。

私は、異常とわかっていても、怖くても…その光景から目を離すことができなかった。


「やられたことはきちんと返してあげないとね。それに、こちらは一人で挑まないといけないのに「君たちは二人で挑む」なんて、卑怯じゃないか?」

「い、いや…悪魔」

「悪魔は君の方だろう?公平にやりあおうじゃないか。最も――――今から始まるのは、一方的な拷問のようなものだけれど」


杖を思い切り突き立てた瞬間、黒い手が少女の指を捥ぐ。

あっさりと抜け落ちたそれに、私は最初何が起こったかわからなかった。

もちろん彼女も、自分の身に何があったのか理解に時間を要していた。


「え…?」

「ふむ。君たちの名前は「ベリア・ベリアル」と「ヴェル・ベリアル」なんだ。君は「ベリア」の方みたいだねぇ。君はお姉さんだね。でも、あまり強くはないみたい。「僕」の深層にアクセスして記憶を読み取った方かな?」

「なん…小指…いたっ…」

「君の身体から情報を。どうせ拷問したところで口は割らないだろう?」

「…ゆび?」

「だから、君の身体に聞くことにするよ。肉には情報がつまっているからね」

「指…あっああ…あたしの指!なんで、なんで!?」

「次。次は薬指で行こうか」

「あああああああああああああああああああああああああああっ!?」


ベリアと呼ばれた赤髪の悪魔は叫び声を上げ、抵抗をする。

しかしその手からは逃れられない。

椎名さんの情報収集も、止まるところを知らない。


「ぴ、ピニャ君…辞めさせてあげられないかな。流石に、椎名さんが作中の敵を殺すのは、色々と破綻が」

「…止められませんよ。どうやっても、今の主を止めることなどできません」

「…ピニャ君」

「…主の本質は、貴方たちが知っているような綺麗な魔法使いではありません。家族を殺され、復讐の道だけを歩き続けた復讐鬼。それが我々の主ですから…でも。主ならちゃんと加減はできた。でも、あいつは———」


ピニャは諦めた目で、離れた場所にいる自分の主人とベリアを見つめる。

私も同じように、動向をうかがってみた。


「お前、さっきの魔法使いだろう。なぜだ?お前にはいい夢を見せてやっただろう?」

「減らず口は叩かなくていいから。次、中指」

「あたしはあんたに幸せな夢を見せてやった!親が生きてお前に愛情を注いだ!お前の周囲にいる仲間たちはいつもお前のことを優先して考えた!離れることはなかった!愛情に飢えていたお前に、等しく欲しい愛情を与えてやったじゃないか…?」

「…い」

「それとも不満だったのか?あの黒髪の女を抱けなくて。それはお前が日和った結果だろう?望むならもう一度見せてやるよ。今度は上手くやるんだ」

「…るさい」

「あたしたちは、あんたの力が欲しくてあんたに幸福な夢を見せてやっただろう?殺される義理なんてない。むしろ共存すべ」


少しずつ削いで情報を得ていくと言っていたのに、椎名さんは魔弾を一瞬で錬成し、ベリアの顔面にめり込ませていた。


「…「僕」の記憶を読み取ったというのに、お前は本当に「僕」を理解していないな。「僕」はそんなこと望まない。「僕」はそんなものを好まない。「僕」はそんなものを欲しがらない」

「椎名さん…」

「そこまで愚かな存在では無いと思っていたけれど…記憶がダメなら魔力から情報を取り込んでみてはどうだい?「僕」への理解が甘すぎる。腹立たしい」


椎名さんはポケットの中から何か石を取りだして、それを爆散しているベリアの身体に置いた。

最後にそれを含めた状態で魔法を使い、何故かベリアの身体を修復した。


「…何を」

「いやぁ。まだ君には聞くことがあるからね」

「…なぜだ。なぜ身体が動かない」

「僕の魔石を埋め込んだ。しばらくここでじっとしていなよ。君は弱い。捕獲しなければいけないのは、妹の方だから。逃げられる前に狩る」

「なっ…!ヴェルには手を出すな!」

「まだ動けるのか。ああ麗しき、姉妹愛って奴かなぁ…?とりあえず、まだ見ているようだし、隷属魔法をかけて様子を伺おうか」

「…へ?」


黒い手に拘束されたベリアは、椎名さんが何らかの魔法を発動させた瞬間に首輪をつけられる。

枷に似ているそれは、禍々しさを覚えるけれど…あれは一体。


「あ、その首輪ね。主に逆らったら首を飛ばす仕様だから気をつけるんだよ。君たち、浄化以外じゃ死ねないんだからさぁ…痛いのは嫌だろう?」

「…殺す」

「血の気があって結構。どうせ君の力じゃ成せないだろう。さて、姉がここまで泥を塗られても、君はまだジッと潜んでいるね。まあ、今から表舞台に引きずり出してやるけどさ…!」


椎名さんが杖を構え、再び黒い手を出現させると同時に———無数の魔弾が彼の元へ飛来する。


「…うちの師匠はなぁ。むやみやたらに拷問したり、魔法を行使して実力を見せつけたりしないんだけど」

「———ノワ」

「お前は記憶を失う前の師匠を演じているが、私から見たらクソほど甘いんだよ。髪色ぐらい統一しろ」

「あー…気付いているんだ。それにウェクリア時点で気がつかなかったお前も大概だぞ、二番弟子」

「忘れっぽいものでね。とりあえず、杖を下ろせよ。師匠は必要のない戦闘を好まない」

「なぜ?」

「圧倒的実力者なんだから、自分が戦えば勝つことを理解している。それぐらいわかれよ」

「…」


異常を察知した彼女はこんなところまで助けに来てくれたらしい。

危険なはずなのに、ここに入る事へ躊躇すらしなかったんだろうな…本当、彼女には助けられてばかりだ。


「あ、永羽ちゃん。無事でよかったけど…これ何?どゆこと?この子誰?」

「状況は私にもよくわからないや…けれど、皆無事…かな?赤髪の子はこの世界を作り出した片割れみたい」

「ああ、あの子が敵さん。双子らしいし、もう一人も似たような容姿かな。ところで大丈夫?その敵さん師匠から死ぬより辛い目に遭ってない?」

「そう、だね…うん」


「それに永羽ちゃんその姿は」

「こ、これ?これは…」

「とりあえず、ここから出る方法を探そうか。図書館に戻ってやることもあるからね」

「やること?」

「…うちのクソ師匠の記憶を取り戻す大仕事がね。本物を舞台に引きずり出してやる」


ノワは椎名さん…の姿をした誰かを睨み付ける。

彼は己の終わりが近いというのに、どこか安堵したように笑っていた。

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