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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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13:かつて救われた魔法、今を救う魔法

思い出すのは、かつての病室。

永羽ちゃんが亡くなる二日前のことだ。

あの日も師匠は通信魔法を使って、私と永羽ちゃんを一緒に過ごさせてくれた。


「…ふう」

「ねー、師匠。いつもその魔法使ってくれるけどさ、疲れないの?」

「正直な話をすると、滅茶苦茶疲れる」

「えぇ…最後まで格好つけてよ」

「将来君がこれを真似したときのリスクを考えたら、正直に話した方がいいかなって」

「私が?ないない。もう、余命宣告食らったしさ…長くないんだよ」


あの時の私はもう、余命宣告を食らっていた。

記憶の消え方からして、持って三ヶ月程度だそうだ。


「…そうか。じゃあ、一咲さん。一つ、聞かせてほしいことがあるのだけれど」

「何?」

「何か、願い事はないかい?」

「願い事?もう長くないし、このまま死んだ方がいいかなって」

「そんな暗い話をしないで貰えるかな…」

「永羽ちゃんには聞いたの?」

「うん。けれど内容は、内緒だよ」


彼女には願いがなかったのだろうか。

それとも…もう、考えられる状態ではないのだろうか。


「…そっか。精神世界でもぼんやりしていたけれど、永羽ちゃんも長くないのかな」

「そうかもしれないね…」

「そっか。私たち、もうすぐ死んじゃうんだ。やっぱり大人になれなかったね」

「…そうだね」


言葉にした事実は予想以上にすんなりと受け入れることができていた。

それに対して涙を流すこともない。

ただ、やっとこの重い身体から、自由のない身体から。

解放されると考えたら、むしろ死は救済なんじゃないか…なんて思い始めたぐらいだ。


「でも、死んじゃうにしても」

「ん?」

「せっかく友達になれた永羽ちゃんと、離ればなれになるのは嫌だなぁ…。もっと仲良くなりたいし。忘れた分、悲しい思いもさせたしさ。今度はちゃんと忘れない友達をしたいなぁ…」

「…君たちは本当に似ているね」

「何か言った?」

「いいや、何でも。そうだね…じゃあ、次も一緒にいられるようにしてあげようか」

「そんなことできるの?」

「できるよ。来世の運命の設定程度、造作もないさ」


師匠はそう呟いた後、その手にヴァイオリンを顕現させる。

なんだろう。あの禍々しささえある力。

なんとなくだけれども、あれは師匠の力じゃないような気がする。

あれは、一体…


「…願いは調べ、奏でる調べは久遠に響く」

「師匠、それ…多分駄目なやつ。演奏したら駄目。駄目だ!師匠!」

「僕にはもう、時間も希望がないからね」

「なにを…」

「僕は君がうらやましいよ、一咲さん」

「…師匠?」

「君のように記憶も何もかも、全部落とすことができたら…有限だとわかっていても、未来を切に願えることが出来たら、僕はきっと」


弦を弾き、音を奏でる。

私はこの光景のことを、忘れることができなかった。

師匠の目が…光を通さない暗い紫紺が「甘い願いを抱くことなく、諦めたことすら理解せず、何も知らないまま———死ねるかな」という最後の言葉が。

私は今も、忘れることができていない。


・・


図書館に到着した私たちは、水さんを「医療ピニャケル」に預けて、師匠が眠る部屋へとやってきていた。


「…うー」

「ぴにゃ…」

「デブ鳥、完全に枕ですね」


時雨さんはアリアを師匠の近くにピニャケルを設置させ、その上に寝かせる。

どうやらここではピニャケルが布団代わりらしい。なんなんだ。あの鳥はよ。

それから毛布を掛けてくれる。これで一安心?だ。


「リーダーピニャ君の特権です。彼曰く「滅茶苦茶寝心地がいい」とのことです。どんなことがあっても一緒なんですよ」

「ふーん…」


…このだらしない顔を見たら、納得するしかないな

師匠の面をした何かが、魘されているとはいえ、よだれを垂らす幼児のように眠りこけているのだから。

写真を撮れるのなら撮りたいが…。


「時雨さん、こいつ誰です?」

「…記憶を失った影響で、青髪になった譲さんです」

「また記憶飛ばしたのかあの男は…!」

「…紅葉君との誓約の証———ネクタイに自分の記憶を封じ、貴方に預けた時いています」

「私にひっつけたの間違いでしょ。後で所持品ひっくり返して探しておく。記憶取り戻させてぶん殴って吐かせてやる」

「…お願いします」


「とりあえず、ゴミカス師匠の子とは置いておいて…魔法の準備に取りかかろうと思うんですけど」

「はい。何か手伝えることがありますか?」

「一つ、確認しておきたくて」

「何をです?」

「師匠が術に巻き込まれている可能性を考慮して、一つ、疑問を消化しておきたくて。もしかしたら入り込んだ先で師匠の記憶を元にした精神世界で苦戦を強いられる可能性もあるからさ。情報は得られるだけ得ておきたい」

「なるほど。私に知ることなら、お答えしますよ」

「…師匠はね、私たちの願いを「生まれ変わっても一緒にいたい」って願いを久遠?とかいうヴァイオリンを使って叶えたみたいなんだよね。だから、今がある」

「…譲さんが記憶を失っていたのは貴方たちが関わっていたんですね」


永羽ちゃんが死んでから、師匠は病室に来なくなった。

ニュースでは行方不明となっていたし、夏乃さん達も私達の病室で倒れていた師匠を回収した際「椎名譲である事は伝えるな」と指示をしていた。

記憶を失ったのは何回目かは定かではないが…私が覚えている範囲で二回目らしい。

…時雨さんは私達の願いを叶えた後の師匠が何をしていたのか把握しているようだ。


「時雨さんは記憶を失った後の師匠を知っているんだね」

「ええ…まあ。それで、貴方の疑問というのは」

「師匠はその時、記憶を失うことに躊躇がなかったんだ。私みたいに忘れることができたら全てを諦められたって…それ、どういうことかわか、る…?」


疑問をぶつけた瞬間、時雨さんは今まで見たことないような顔をしていた。

今にでも泣きそうな顔だ。

彼女がこうなる瞬間を、私は初めて見た。


「…すべて、私が原因です」

「…そう来たかぁ」

「この先に何が待ち受けているかわかりませんからね。軽くお話ししましょう」


時雨さんから話を、そしてもしもの時の為に必要なことを聞いた私は頭を抱える。

いや、あの師匠がねぇ…春ですなぁ。

しかしこの人話していて気がつかないのか?

…まあいいか。ツッコむのも無粋そうだし


「と、言うわけですので。よろしくお願いします」

「よろしくされた」

「と、いうか。彼が巻き込まれた原因も、記憶喪失だった理由も…貴方たちに理由があったとは。想定外でした」

「時雨さんはここに来るまで私たちのことを知らなかったみたいだしね」

「ええ。譲さんがそこまでするというのは珍しいことなので…」

「同情じゃない?私たち、師匠と同じ終末病棟出身だから」

「…そうですかね」

「もし、そうじゃないとしても師匠は「忘れるため」に私たちを都合よく利用したとしか言い様がないよ。特別な感情なんてそこにはないさ」

「…」

「さて、長話はここまでにして、始めようか」


話を切り上げるようにして、前に進む。

かつて師匠がしていたように…アリアの手と師匠の手を握りしめ、詠唱を始める。


「繋がる星、我が道に結ばれし先に意志を届けよ」


通信魔法は簡単な部類。けれど、もう一つ…大丈夫。落ち着いてこなせば…。


「繋がりし異なる輝きを放つ星々たちよ、今、この場に交わりて、新たなる輝きを紡ぎ出し…共存のに…、に」

「…後、一節でしょう?意識を保ちなさい!」


意識共有魔法はかなり魔力を取られていく。

今日は想定以上に魔法を使っていたのか、それとも…日頃の疲れが祟ったのか。

詠唱の途中で倒れそうになるが、時雨さんがとっさに身体を支え、私は詠唱を続けられる。

すぐにお礼を言うことは叶わないが…!


「…我らを、導け!」


ここを無事に乗り切ったら、きちんとお礼を言おう。

詠唱を終えた瞬間、私とアリア、師匠の三人に意識共有魔法がかけられて、私は時雨さんの腕の中に倒れ込む。

失った意識が辿り着くのは、アリア…永羽ちゃんと師匠がいるはずの場所。


「待っていて…アリア、永羽ちゃん!」


流れに従い、私は意識の世界を静かに漂う。

しばらくすると、周囲が明るくなった。

おまけ:腕で眠る賢者様


「…」


詠唱を終えた瞬間、眠りについたノワを腕でしっかりと受け止める。

一応、意識を確認しておく。

変な途切れ方をしたから、念のためだ。

水さんのように専門ではなく、素人の知識だが…呼吸と脈は正常。

純粋に意識共有魔法を発動した際の状況みたいだ。


「魔法は成功したみたいですね。これで一安心です」

「後は、彼女が無事に二人を連れ帰ってくれることを信じるだけ…ですか」


ピニャ君たちを呼び出して、ノワをアリアの隣に寝かせる。

同じ毛布を共有させたら、私の仕事は「待つ」ことだけとなる。


「…今回は、特別ですよ」


ノワの胸にあるものを置いておく。

生前、紅葉君からいだだいた「お守り」だ。


・・


生前、譲さんの相棒を勤めていた二ノ宮紅葉はかつて私の家に居候をしていた時期がある。

十二歳の時まで。大社の入社試験に合格する前だったが…それ以降も何かと気にかけてくれており、こうしてどうでもいい用事で会うことも少なくはなかった。


「お守り、ですか?」

「ああ。これな、術を仕込んであるんだ。譲に教えて貰って作ったんだぜ」

「へぇ…しっかり作られていますね。紅葉君、不器用そうなのに」

「俺、一応美大生だぞ…?」

「受かったんですか…!?」

「一芸入学だ。勉強はできないぞ!」

「自慢げに言わないでください」

「まあなんだ。和夜にも作ったんだぞ!双子でおそろいにしておいた!」

(この歳でおそろいかぁ…双子だから許されますかね)


「色々あったけど、白露さん…二人のお父さんには昔、世話になったからさ。今、俺が大社でやっていけているのも、白露に能力者として育てて貰ったからだ」

「…」

「お前のお守りには、呪術無効化と恋愛成就の術をかけておいた」

「…えぇ」

「余計な世話だよって目を向けんな。将来役に立つかも知れねぇだろ」

「アリガトウゴザイマス…」


「ところで、俺が聞くのも何だが譲とは無事に再会できたのか?」

「紅葉君が聞きますか?」

「いやぁ…師匠の娘と親友の恋路が気になるのは自然の摂理だって。譲にも聞いたけど、はぐらかされたからさぁ」

「いえ。紅葉君が聞く話かな、と」

「俺、この前、学生結婚した身なんだけど…?恋愛経験一人だけどさぁ…?」

「相手、千早さんですか?」

「うん」

「…ほっ」

「あ。お前、もしかして譲が未だに千早と仲良くしてるか不安だったな?言ってみ?」

「そうですよ!不安でしたよ!だって、水さんの事件だって、一緒に解決したのは千早さんと聞いています!未だに一緒に…」

「気持ちはわかるぞ。千早、未だに譲の世話焼いてるしな。旦那としては複雑だけど、目が離せない気持ちも理解できる」

「…」

「それに、それ以外の時は普通に新婚夫婦してるからな!どや!」

(自慢うざいなぁ…)


「…ま、これからは千早の側には俺がいる。心配すんな」

「ありがとうございます。私は譲さんときちんと再会できるよう、頑張りますね」

「再会できてなかったのかよ!まあ、うん。俺にできることは協力すっからな。いつでも相談しろよ」


・・


と、言う経緯で頂いたものだ。

死んだ時に持っていたものはここに持ち込めたから、他にも色々あるけれど…今、この場で一番力を発揮してくれるのはこのお守りのはずだ。

浄化の力があるお守り。呪術が関わっているのなら、これが役に立ってくれるだろう。


「…色々と、ありがとうございますね」


色々と不安な部分を察して、言葉を選んでいたことは察している。

だから、お礼をしておく。


「さて、水さんの様子を見に行きましょうかね」


この場はノワに任せ、私は水さんの元へ向かう。

仕事は山ほどある。ここで立ち止まり、待つのは得策ではない。

私は、私にできることをしなければ。


おまけ、おしまい

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