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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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9:悪夢に魘された魔法使い

一方、図書館の小さな小部屋。

そこに住んでいる魔法使いは熱にうなされ、眠り続けていた。

もちろんそれは熱の影響もあるだろう。


「んー…んんんー…」

「ぴにゃー…ぴにゃにゃ…」

「ずっと熱が下がりませんね。馬鹿な真似をしたからですけど」


彼は勿論、枕代わりのピニャ君も一緒に眠り続けています。

二人はいつでも一緒。おはようからおやすみ、そして寝ている間も、夢の中でも。

ピニャ君と彼が離れることは結構珍しい事象だったりします。

つい最近、離れていましたが…一日以上離れているところを私は見たことがなかったりします。


「ぴにゃ!」

「あら、探知ピニャ君。どうされました?」


この図書館には、かつて譲さんに与えられたピニャケル君が全員いたりします。

ここは、死人が滞在できる場所だ。

彼を守って死んだピニャケル君たちもまた、ここに辿り着けたのだろう。

今は、抱き枕をしているピニャ君…リーダーピニャ君以外の個体は全員同じで見分けがつかないので、それぞれ役職名をつけて呼んでいる。

この子は探知ピニャ君。魔力の流れに過敏な子で、呼び名の通り探知に長けたピニャ君だ。


「ぴにゃーぴにゃっぴにょー」

「ふむ。「主とドン、術反応あり…」。彼とリーダーピニャ君に何らかの術反応があるのですか?」

「ぴにゃ!」

「それは、放置しても問題ないものですか?」

「びにゃぴにゃにゃー!」

「「のんのんのー!」。危険なもののようですね」


リーダーピニャ君以外は単語でしか会話ができない。

話は通じるけれど、一番望ましい会話は「はい」か「いいえ」で答える形式のものだ。

それならば、彼らが私に伝えたいことをきちんと把握できるから。


「それは、彼らたち本人にかけられている術ですか?」

「びにゃ」

「ふむ。「違う」…では、誰が」

「ぴぴ」

「…それは、確かな事なのですか?」

「ぴにゃ」


探知ピニャ君が告げた名前は想定外の人物。

その人物にかけられた術がなぜ彼へ影響を及ぼしているのか。


「…厄介なことになっていそうですね。探知ピニャ君」

「ぴっ!」

「まずは護衛ピニャ君をこの部屋に集めてください。それから不届き者を始末できる強襲ピニャ君の部隊を編成。私と共に作中世界に調査へ向かいます」

「ぴにゃ!」

「びにゃっ!」

「ぴょにゃ!」


探知ピニャ君が返事をした瞬間、呼びたかったピニャ君たちが全員部屋に集ってくれました。

…なるほど。全員心配で見守っていたんですね。

天井裏や床下どころか、壁すらピニャ君たちで埋まっている。全員で彼を見守っていたらしい。

気がつけば床のラグですらピニャ君たちの擬態だ。踏まれても問題ないのだろうか…。

うわ、私の定位置…じゃなくて、ベッドの下からも出てきた。


「主人思いなのはわかりますけど、若干気持ち悪いです」

「ぴにゃ!」


お前に言われたくはない!か…生意気なクソ鳥ですね。焼き鳥にしてやりましょうか。

おや?ベッド下ピニャ君にはホコリが若干ついている。


「ところでピニャ君、ベッドの下には本とかありましたか?」

「ぴにゃ(あったよ)」

「あったんですか!…なんですか、これ」

「ぴにゃ(多分、時雨様がご所望な「ありのままをさらけ出している本」)」


ベッド下ピニャ君は私にベッドの下にあった本を手渡してくれます。

それは予想していたむふふなものではなく…。


「ドイツ語の医学書って、どんな神経を…はっ!これはカモフラージュ!カバーを外せば…「人体全書」!違うんです!私が期待したのはエロ本なんです!」

「ピニャ(一応、全裸)」

「ありのままをさらけ出しているのは事実ですが!違うんです!」


この人体全書、かなりボロボロなのを推測するに相当読み込んでいるらしい。

それに、人体の急所に関することに関してのページは勝手に開くほど癖がつけられている。

ぐぬぬ…譲さんの趣向を得ようとしたのに、譲さんが人体の急所を死ぬ気で覚えていた事しか判明しないだなんて…。


「ぴにゃー…(時雨様、そろそろお仕事を)」

「あー…はい。そうですね。行きましょうか」


彼女の元にはおそらく、水さんと桜哉さんがいるはずだ。

先程、テレビとレコーダーを取りに来たから。

…きちんと線を繋いだ状態で渡したが、運びにくいからとかそんな理由で外したりしていないだろうな。

二人が無事に記録を再生できているかも不安だけれど、まずは永羽さんだ。


「しかし彼女にかけられた術がなぜ彼に影響を…?」


理解はできないが、とりあえず永羽さんに接触できればある程度のことは把握できるだろう。


「行きますよ、ピニャ君!」

「「「ぴにゃ!」」」


ピニャ君たちを引き連れて、私はしばらく関わることがないと思っていた物語の中へ再び入り込んだ。


・・


私は優梨さんたちと別れて、椎名さんがいる第二部隊司令官執務室までやってきていた。

ノックを数回。


「どうぞ」

「失礼します」

「こんにちは、永羽さん。元気にやっているようで安心しているよ」

「椎名さんもお元気そうで」


扉の先に待っていたのは、記憶の中にある椎名さん。

真っ白な髪を揺らし、大社の制服を身に纏った彼は、かつて病室に来ていたときのように朗らかな笑みを浮かべて私を出迎えてくれた。


「今日は何用で?」

「任務完了の報告に」

「そうかい。お疲れ様。ところで、今日はこれから非番だろう?」

「え、ええ…そうだったと思います」

「仕事のしすぎで、休みの日すら把握できなくなるのはよくないね」

「そう、ですね」


私の予定は把握していない。把握する余裕もなかった。

それに、任務報告でこの不可思議な現象は終わるはずだから関係のない話のはず、なんだけど。


「彼女も心配するよ。君が倒れたなんて聞いたら、あの世からすっ飛んで来そうだ」

「…」

「話は戻るけれど今から非番だろう?僕もこれから非番でね。せっかくだから、一緒にお墓参りに行かないかい?」

「お墓参り…?」


椎名さんについてお墓参り?

ご両親のお墓だろうか。


「うん。一咲さんの」

「え…?」


椎名さんから出るはずのない名前が出てくる。

お墓参り?一咲ちゃんの?

彼女は、ここでは死んでいるのか?

私が生きているのに、なんで彼女が死んでいるのだろうか。

私が生きている時間では、彼女は死んでしまうのだろうか。

彼女はどうあがいても、死んでしまうのだろうか。


「今日が命日だろう?君は毎年欠かさず命日にお墓参りに行っているようだから、今年も行くのかなと。僕も久々に予定が一致したから…永羽さん?」

「あ、いや…なんでも」

「狼狽えるのもわかる、なんせ彼女は君が犠牲にした存在だ。けれどね、殺した存在の名前を呟かれる度に狼狽えるのは流石に辞めた方がいいよ。それを弱点とし、付け狙われやすくなるのだから」

「は…?」

「おや?どちらかしか病が治らない。そんな状況で君は彼女を踏み倒し、犠牲にして生き残った。忘れたのかな?いや、忘れたとは言わせないけれど」

「あ、ああ…」


そんなはずはない。

もしもそういう状況ならば、私は一咲ちゃんに生きる権利を譲るはずだ。

だって私は、ほとんど身体を動かしていなかったし、勉強も最低限だし、能力の使い方だってわからないのだから。

それならば、まだ身体の動かせる一咲ちゃんが生き残った方がいい。

忘れなくなった彼女は魔法の才能を芽生えさせ、私以上に強く生きてくれるはずだから。


けれど、私の考えとは真逆に身体が「そうだった」と言うように、頭の中で記憶を流してくる。

病室で、生き残りを決めるために戦って、彼女を踏み越えて…今を得た私を。

頭が、身体が、目の前の椎名さんが「そうだった」と言い聞かせてくる。


「その罪を忘れないためにお墓参りに行っているのに、今年はサボるのかい?」

「ちがっ…私は」

「彼女を殺した罪を、忘れようとしているのかい?」

「違うんです!私は…私っ————!」


ふと、声が出なくなる。

反論を許さないと言うかのように、私の声は空気しか鳴らさない。


「何が違うんだい?君は殺したんだよ?大事な友達だと言っていたのに、命乞いをした彼女を無慈悲に!思いっきり、剣を突き立てて———!」

「———————!」


頭の中に流れる声が、記憶を塗り替えて「一咲ちゃんを殺した記憶」を私に植え付けてくる。

無慈悲に、抵抗できない彼女に剣を突き立てた。

私が生き残れると、薄気味悪い笑みを浮かべた。

私が、そんなことをするはずがないのに…!。

大事な友達になってくれた彼女を、あんな風に殺すわけなんかないのに!


「―――――――――――!」


悲痛な声も悲鳴も全部かき消され、私は耐えきれない苦痛に頭を床にぶつけることしかできなかった。

なんなのだろうか。この悪夢のような出来事は。

早く、早く終わって。

こんな地獄から誰か————!


「じゃあ僕も無慈悲にやろうか。その偽りの記憶と同じ通りに。無慈悲に剣を突き立てたらいいのかな?」

「…あ」


やっと声が出る。

顔を上げた瞬間、椎名さんの姿は数多の剣に貫かれ、霧散していた。

その背後には、巨大な鳥に乗った小さな…長い青髪を揺らす子供


「「僕」が二人を引き離す真似をするはずがない。治すのなら、その代償を「僕」が全て支払った上で両方治すさ」

「よっ!流石主!小さくなっても勇ましい!」

「うるさいよ、ピニャ。今はそれどころじゃない。永羽さん」

「あ…はい」

「とりあえず、話は後。僕についてきてくれる?」

「はい。ええっと…」


名前を聞こうとすると、その子供は朗らかに微笑んで「後でね」と小さく呟いてくる。

手を引かれ、ピニャと呼ばれた鳥に乗らせてもらい、私たちは大社を離脱した。

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