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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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8:君が生きた先の未来は

一方、ノワがエミリーとリラに接触していた頃。


「なあ、水。これどこに挿すんだ?」

「色と同じ穴〜」

「いや、四角みたいな線で、先端にえいちでぃーえむあい?って書いてあるのなんだが…」

「何それ?」

「水に知らないことを、俺が知っているわけがないだろ?」


二人の幽霊は結界内にテレビとビデオレコーダーを持ち込んで、四苦八苦しつつそれをセッティングしようとしていた。


「…あの、修行は?」

「まあまあ。これも修行だよ」

「とりあえず、見て学べ。ところでお前はこの線がどこに繋げるものか知ってるか?」

「…貸してください」


このまま忍耐力を育む修行と言い聞かせて二人を待つこともありかなとは思うのだが、この調子だと一生テレビのセッティングが終わる気がしないので、助け船を出した。


…こう言っては何だが、テレビの後ろにもレコーダーの後ろにも、ご丁寧に挿すところは書かれている。

それに、同じ形の穴に同じ先端を差し込むだけではないか。

どこに迷う要素があったんだろうか…。

気になるけれど、セッティングが終わったことにはしゃぐ二人に正論を突きつけるのは気が引けた。


「水。てれびがついたぞ!凄いなぁ。凄いなぁ」

「そうだね、桜哉君!」

「凄いなぁ、小さな箱の中に絵が出てくるだなんて。しかも色がついているぞ!」

「そんなのもう時代遅れだよ!今は地デジ!地デジの時代だからね!」


…今は、衛生配信ですよ。何て言っても、二人には通じないよなぁ。

舞園さんはともかく、水さんは時代錯誤が半端ない。

椎名さんが11歳の時に退職したってことは、亡くなったのはそれ以降。

言ってしまえば、十年しか経過していないのだ。

二人はこれまで椎名さんと一緒にいたはずだ。

なぜ、テレビなんてどこの家庭にも置いてありそうな家電を知らないのだろうか。


「とりあえず、この観測記録を差し込むよ!」

「それなんだ?円盤?」


灰色に輝く小さな円盤をレコーダーに差し込んだ水さんは、意味深に笑った後、それが何なのか私たちに教えてくれる。


「ふっふっふ。あれはね、今日の為に図書館から盗んできた記録だよ!」

「え」

「中身は永羽ちゃんの記録なんだ〜」

「えっ」

「まあ、今の永羽ちゃんじゃなくて、病気を乗り越えた永羽ちゃんの記録なんだけどね」

「うぇ!?」


盗んできた、私の記録、しかも病気が治った場合の記録。

情報が、情報が多すぎて!何から聞けばいいのかわからない!


「まずはお前は「転生特典」がどんなものなのか、知るところから始めた方がいい」

「と、言うわけで早速再生行ってみよう!一仕事終わったら帰ってこれるはずだから!」


リモコンをくるくるさせて、ポーズをとりながら水さんは再生ボタンを押す。

その瞬間、私の意識はプツンと途切れた。


・・


身体が重い。

だるいというか、起きたてというかぼんやりした感覚。

意識は、誰かの声に揺さぶられていた。


「起きろ、霧雨。起きろ。そろそろ仕事の時間だ」

「あら、八坂さん。眠っている無防備な女性に触れてはいけません。あらぬ誤解を生んでしまうかもしれませんわ」

「今更だろう。何年小隊を組んでいると思うんだ」

「奥さんに密告しますわよ」

「勘弁してくれ」


「私が起こしますから、八坂さんは夜雲を呼んできてくださいな」

「はいはい」

「ほら、起きてくださいまし。永羽。お仕事のお時間ですわ」

「…」


ぼんやりとした視界に映るのは、アリアのような金髪を持つ女性。

紫色の瞳を優しく揺らす彼女の名前を、私は知らないはずなのに…自然とその名前を呼ぶことができた。


優梨ゆうりさん…?」

「ええ。ひび優梨ゆうりですわ。今日の居眠りはなかなかに深かったようですわね。大丈夫?意識ははっきりしている?」

「ええ、まあ…大丈夫そうです」

「そう。それならよかった」


ふと、窓に自分の姿が映る。

黒曜石のように黒くて、足下まである髪。

そんな髪を大きな三つ編みで束ねられた少女は灰色の目で私を凝視していた。

ぼんやりとした写し身でもわかる。

私は今、アリアではない。


「永羽?どうしたんです?まさか、自分の姿がわからなくなっているだなんてことはありませんよね?」

「あ…ええっと、ちょっとぼぉっとしていて。私ってこんな姿だったかなー…なんて、思ったりー…」

「お寝ぼけが過ぎますわよ。そんな体たらくでは、次の仕事で命を落としかねませんわ」

「えっ…」

「冗談です。貴方の実力はきちんと理解していますから」


私の、実力。

…彼女は、この姿でのことを言っているのだろう。

転生特典になるような力は、優梨さんのような凜々しい女性にも認められている程の代物らしい。


「それにもっとしゃんとなさい。貴方は「舞鳥」。大社でも強き能力者である証明でもある羽根を賜り、司令たちと同じ席に座るエースの一人なのですから」

「エースだなんて、そんな大層な」

「よいっす〜、優梨。霧雨起きた?」

「夜雲。貴方ね、何度言えば定刻通りに指定ポイントへ到着してくれるのかしら…?司令から時間厳守だと言い聞かせられていたでしょうに!」

「だって今日は譲別任務じゃん。多少サボってもバレないかなって」

「司令に密告しますわよ」

「ちっ…忠犬が」


夜雲と呼ばれた青年には見覚えがある。

椎名さんと一緒に病室に遊びに来ては、生物学について話すだけ話して帰る変人さん。

地井夜雲じいやくもさんだ。


「忠誠度は残念ですが…赤城さんと和夜ほどではないですわ」

「あの二人は特別製だろ。しかしお前は忠犬なのを否定しないのな?」

「事実ですもの。あのデブ鳥同様、司令に忠実な存在ですわ」

「…優梨。人の兄貴分をデブ鳥扱いすんなって」

「は?兄貴分?」

「ピニャケルを作ったの、俺の両親なんだよ」


ピニャケルという存在はよくわからないが、とりあえずデブ鳥で地井さんのご両親が作った存在らしい。

丸々とした鳥さんなのかな。


「人造にしては、進化をしすぎでは?」

「両親は普通の魔鳥としてピニャケルを生み出している。あそこまで進化した理由は不明だ。文句が言いたいことがあれば、譲に言ってくれ」

「本当に司令はいつでも規格外で安心しますわ。そろそろその規格外な思考で一夫多妻を取り入れてくださらないかしら」

「「「無理だと思う…」」」


何というか、話していると心の底から安心感を覚える。

この世界ではきっと、これが当たり前なんだろう。


もう一人の彼の名前もふとした瞬間に頭へ流れた。茶髪の男性は八坂浩一やさかこういちさんだ。

病気を克服した私は、椎名さんの後を追い、一咲ちゃんと共に彼が所属していた鈴海大社の門を叩いた。

入社試験を受けて、合格して…椎名さんが司令官をしている第二部隊に属して、この強襲小隊に配属された。

先陣を切って進む部隊だ。死者数が最も多い部隊に属し、戦果を上げているということは。

大社の羽持ちとなって、エースと呼ばれているということは。

…私は、それなりに強い能力者であることが窺える。


「全く、譲も変な奴ばっかりたらし込みやがって」

「嫌だな夜雲。変人には変人しか寄らないんだぞ?」

「新手の自己紹介っすか、浩一さん」

「三人とも、お仕事の時間ですわ。気を引き締めてくださいまし」


優梨さんが真面目なトーンでそう口にすると、和やかだった空気が一瞬にして凍てつく。

夜雲さんの手には扇が握られ、八坂さんの手には電気が激しい音を立てて踊っていた。

そして優梨さんの手には、身長ほどの長槍が握られている。


「対象を発見しましたので、とりあえず各自攻撃してください。ここにいる全員ならば、全てぶち殺せるでしょう?」

「そうだな」

「当然」

「永羽、また後で」


三人は颯爽と姿を消し、目標地点と思わしき場所に降り立ったらしい。

ある場所では竜巻が巻き起こり、ある場所では激しい落雷が観測された。

そしてある場所では、空に大量の影が舞う。

それが優梨さんの吹き飛ばした魔獣の遺骸だと気づくのには、そう時間がかからなかった。


「ふ、普段の私なら何かして…」


迷う中、頭の中で何をすべきか理解する。

何を、どうしたらいいか、全て理解している。

迷うことは何一つ存在しない。

私はただ、流れに身を任せて進むのみ。


「…顕現せよ。舞光」


教えて貰っていた名前を呼んだ瞬間、私の足下には魔法陣が展開されて、次々と短剣が錬成される。

真白に近い金色の魔法陣から出現する光輝くそれらは見たことがないはずなのに、つい最近見たような感覚を覚える。

永羽としての記憶だと思うけれど、少し違うような。

抱いた違和感は現れた剣と共に消失し、私の中に溶けていく。

———今は、そんなことを考えている場合ではない。


「皆さん、名乗られていないから代表して」

「鈴海大社特殊戦闘課第二部隊「舞鳥」霧雨永羽…剣と舞い踊りましょう!」


名乗ったこともない長い名乗りをさも当然のように行い、私は光る剣と共に舞い踊る。

思えば、身につけている衣装は少し派手。

ショートパンツを履いているとは言え、私のスカートは柔らかくて透けている素材で作られている。


それはステップを踏む度に軽やかに舞い上がる。

きっと、これを見越して作られた服なのだろう。

遠目から見たらきっと、スカートが綺麗にはためいているんだろうな。

一歩、二歩、軽やかに踊り、剣を舞わせる。


「立ち向かいましょう。運命を切り開くために!」


一定数の剣を出し終えたら、力強く足を踏み込んで数々の剣を飛来させる。

頭の中で思い描いた軌道を描く光の剣は、周囲にいた魔獣を貫く。

剣は魔獣の命と共に消え失せ、残った剣で遺骸を粉々に切り刻む。

これで私の仕事はおしまい。

水さんの話を信じるのなら、これでアリアとしての意識に帰れるはず、なのだが。


「…全然、戻らない」

「永羽、お疲れ様。今日の仕事はこれでおしまいですわ。早く寮に戻ってお風呂に入りましょう。血生臭くて嫌になるわね、本当…」

「そ、そうですね…」


「そういや今日の報告、誰が行く?」

「報告?」

「ぼけているのか、霧雨。譲への報告が残っているだろう?」


一仕事終えたら…報告に行くことで一仕事の完了なのかもしれない。

それに終わらなくても椎名さんに会うことで、彼から何らかの助言を聞くことができるかもしれない。


「今回は私が行きます。三人とも、血だらけですし…幸いにして私はそこまで汚れていませんから」

「そう?それならお願いしても?」

「譲にはよろしく伝えておいてな」

「頼むよ。霧雨」


仕事を引き受け、帰路につく三人の背中を見送る。

姿が見えなくなったタイミングで、記憶の中にある道を辿って私は椎名さんの元へ会いに行く。

これが、賢者ノワの世界に帰れる一歩と信じて。

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