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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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4:賢者の歩み寄り

と、言うわけでアリアは預かるから!

お前は偵察にでも行ってろ…と、結界内を蹴り出され、私は一人でミドガルに放り出されてしまった。


未だに舞園に蹴られた腰が痛い…。

でも、今あのクズに思考を占められるのは勘弁してほしい。

考えるべき事はただ一つ。


「…剣、大分上達したと思っていたんだけどな」


素人目線だけれど、アリアは戦闘経験を重ねて戦えるようにはなっていた。

けれど、彼女には「それだけでは足りなかった」らしい。


困ったことがあれば相談ができるようになった。

けれども、私は彼女と今後のことを何一つ話していなかったことを。

彼女が今後どうするべきと考えているか。

道中、何一つ聞いていなかったことを改めて考えさせられる。

アリアはしっかり「今後」を考えていたのに、私は、私が戦えば問題ないと、考えることを放棄していた。

それでは、駄目なのに…。


「はぁ…こんな怖いところ、一人で歩けるわけないじゃんかぁ」

「そこにいるのは…ノワ・エイルシュタットですか?」


背後から声をかけられる。

こんな風に私をフルネームで呼ぶ女は、一人しかいない。

とんがり帽子が素敵な魔法使い、エミリー・エトワンスは移動手段である箒から飛び降りて、私の元へわざわざ寄ってきた。


本来なら彼女はここで仲間になる予定だった。

けれど、ああして勇者後援旅団に属し、本来から大幅に道が逸れていた彼女も、何かしらの強制力で後援旅団を一時的に離れ、ミドガルへと単独でやってきていた。

物語の流れを追うならば、彼女は育ての親代わりの一人から依頼を受け、強盗傷害事件の調査…夢魔である遊女の討伐を引き受けたはずだ。

…探りを入れてみるか。


「やあ、イヴァン。こんなところで奇遇だね」

「性別どころかスペルの「E」しか一致していませんよ!エミリー・エトワンス!いい加減覚えてくれますか!?」

「えぇ…覚えにくいから無理ぃ」

「そういえば、貴方の名前は?」

「ノワ・エイルシュタット」

「私からしたら!貴方の方が!何倍も!面倒くさくて!覚えにくい名前を!していると!思って!いるのですがっ!?」


まあ、確かにエイルシュタットという姓は長いし書きにくいし覚えにくい代物ではあるだろう。

しかしこの世界の人間は普通にエイルシュタットを覚えてくれるおかげで、今まで読み間違いをされたりしたことはない。

綴り間違いは、少なからずあるだろうけれど。


「私の高尚な名前を覚えきれないというか。可哀想…アリアでも一発で覚えたのに」

「高尚って、どこが…!」

「面倒くさそうな部分はエイルシュタットの事だろうけど、その部分は私の養父から貰った姓だよ。オヴィロ帝国の法務局長「ルーメン・エイルシュタット」…君でも聞いたことがあるだろう?」


事実、スラム街で物乞いをしていた私を拾って養子にしたのは、絶対にスラム街の子供とか触れたがらないような堅物法務官だった。

貴族じゃなくて一般庶民である彼は成り行きで私を拾った。

ちなみにこの男の名前と彼が行った法整備はテストに出てくるほど有名だったりする。


『ノワ、お前は本当に年相応に見えないな。発音以外』

『いや〜…おとーしゃまも年相応に見えないね』

「おっ、若く見えるのか?いくつぐらいだ?」

『おかしいよね。三十代のはずなのに、もう五十代と勘違いするレベルで老けている。おとーしゃまは純血の人間だよねぇ?』

『ごじゅっ…』


周囲からは堅物、法律を遵守する男、鉄仮面等言われていたが、ノワのお父さんになってくれた男は、人付き合いが少ないせいで会話慣れしていないだけのコミュ障だった。

からかえば、腹を抱えて笑ってしまうほどの面白おじさんだ。


魔法の才能を見せつけたら、目を子供のようにキラキラと輝かせて「うちの娘は魔法の才能があったんだぁ!凄いぞぉ!ノワぁ!」なんて回りながら喜ぶし。

仕事をほっぽってメルクリア王国への留学手続きと魔法学校入学への手続き書類を取り寄せていたら、仕事の締切が来て、皇帝にしこたま怒られていたっけ。


でも、それでもルーメンは安くない学費と滞在費を全部工面して、私を魔法学校に入れてくれた。感謝してもしきれない。

なんせ、魔法学校への入学が…アリアとの出会いに、永羽ちゃんとの再会に必要なピースだったから。


…成り行きとは言え、実子のように愛してくれたことは、忘れっぽい私でもしっかり覚えられるほどに感謝をしている。


そういえば、卒業後はすぐに勇者の旅に同行したから、里帰りとか全然だな。

手紙も出した記憶がない。面倒くさくて書いていない。

なんだかんだでしばらく会っていないし、近況報告もしていないが…新聞を読む限り元気みたいだし、向こうも新聞で私の動向は把握しているだろう。

だから別にやらなくてもいいかなぁ…なんて、思ったりするのだ。


「…なんであんな偉大な方から育てられたのに、あんぽんたんが出来上がるのですか」

「見えていないだけであんぽんたんだからだね。それでも肝心な所でポンコツなエミリーさんよりはマシだよ」

「なぜ罵倒するときだけきちんと名前を呼べるのですか!?」

「仕様」

「そんな最悪な仕様があってたまりますか!」


「ところで、君はどうしてここに?ミリアは?」

「はぁ…はぁ…。ミリアとは一時的に別行動をしています。そういえば、スメイラワースで新しい仲間が加わったのですよ」

「どうせパシフィカでしょ…むしろパシフィカ以外誰がいるんだよ」

「なぜわかったんですか!?」

「あの場所で後援旅団に加わりそうだったのはパシフィカだけだから。で、そろそろ答えてくれる?君はどうしてここに?」

「育ての親代わりをしてくれていた方に、依頼を受けたのです。最近、幻惑魔法と思わしき術を使用した窃盗及び傷害殺人が起きているようなので、その調査と原因の排除を」


ふむ、やはり物語通りの理由でここに来たらしい。

しかしなぁ、流石に混血夢魔の討伐はともかくとして…何をしてくるかわからない純血悪魔の討伐なんてさせられたものじゃないぞ。

浄化魔法が使えたら話は変わっているが、エミリーも使えないんだよなぁ…。

どうやって追い出すか…。


「エミリー」

「なんでしょう」

「…君をこの都市から追放させてくれない?」

「なぜ旅人である貴方に、生まれ育った故郷を追放されないといけないんですか!?」

「色々と事情があるんだ。具体的には一ヶ月ぐらい追放させて?」

「私だって事情があって帰ってきているのですが!?そんなお遊びには付き合ってられませんので!それでは!ごきげんよう!」


ぷんすこと頬を膨らませ、エミリーは帰路と思わしき道を勇み足で歩いて行く。

これはまずいと思い、私はその後ろを慌ててついていく。


「待ってよ、エリミー〜」

「人にものを頼むときは、名前を間違えずに呼ぶことは最低限です。それぐらいの常識もないのですか?」

「私とリミエーの仲じゃないか」

「貴方と友好関係を築いた覚えはありません!本当に貴方は失礼な人です!学生時代から何の進歩もないのですね!」


進歩がない。

その一言が意外と心に刺さって、エミリーの後を追う足を止めてしまう。


「…なんですか。貴方が呆けるなんて。珍しいこともあるのですね」

「いや、確かに私は進歩がないのかもしれない。マンネリ気味なのかも。と、言うわけで今回は共闘しよう。エミリー」

「なぜ」


周囲に結界魔法を張り、二人だけで会話できるように小さな空間を作り上げる。

それでも念には念をということで、エミリーの耳元に顔を近づけて、そっと情報を打ち明けるのだ。


「…私たちが関わっている一件と、君の一件。関係があるものだと思う」

「そんなわけ」

「…私たちはこの都市に悪魔が潜んでいることを掴んでいる。その討伐に向けて動いているところだ」

「っ…悪魔ですか。そう。私の依頼と同じ、なのでしょうか」

「そこまではわからない。悪魔となると、私たち魔法使いには分が悪い。アリアを中心にした戦闘を行わなければ、目的は果たされないね」

「…そうですね。それで?その件の勇者様は?」

「今はいい師に巡り会って、修行をつけているところだよ」

「そう。討伐できる可能性はあるのですね」

「うん」


ごめん、ごめんねアリア。

なんか、私が悪魔討伐に向けて外堀を作ってしまっているような気がする。本当に申し訳ない。

けれど、ここはエミリーの為だと思って許してほしい。


物語がどこまでずれているのか、私たちには未知数だ。

だからこそ、ここで死ぬべきではない人物を死なせないようにする必要も出てくるだろう。

死ぬはずがない人物が死んだことで、物語が大幅にずれる可能性がある。

同じ物語はもう歩めない。だけど、差異をできるだけ少なくすることはできる。

物語を参考書に出来るよう、できる限りの事はしておこう。

今、エミリーを単独行動させてみろ。悪魔に殺されてお陀仏一直線だ。

…彼女を死なせるわけにはいかない。

彼女にはまだ出番があるのだから。


「…追放回避以上に、やることができちゃったな」


アリアが修行を行っている間、私は私にできることをしよう。

手始めに、エミリー・エトワンスと共に歩いてみよう。

そして彼女を守り抜き、彼女が次章にいけるよう…私なりに歩み寄ってみようじゃないか。

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