36:再会の約束
あの後、流石に見ているだでやることがなさそうだから戻っておく…と、ノワに声をかけてから私は宿屋に戻った。
パシフィカは作業を見守ると夜通しノワに付き添うと言っていた。
翌朝、目が覚めたら隣のベッドでノワが寝ていた。
書き置きの手紙を確認しておく。
どうやら仕掛けも順調に完了し、予定通り明日の夜に出立できる手はずが整ったらしい。
それから太陽と砂、両陣営から旅支度を調えて貰う事になり、最終日はのんびりできる。
私は、のんびり観光が出来るように予定を立てた。
ノワは「観光したいのはやまやまだけど、やっぱきついから夜まで休む」とのこと。
それからパシフィカが朝、挨拶を行う広場で待っているとも書かれていた。
『あの体力おバカ精霊、夜の砂漠でも元気すぎる』
『私達がヘトヘトなのに、一人だけ息切らしてないの。前線で盾やってたのに…どうなって…』
…文句のような褒め言葉が多少書かれてもいた。
一晩の間に、色々あったらしい。
見えないだけで、パシフィカもかなり疲れているのでは無いかと考えつつ…あの広場に向かうと———。
「おはよーございまーす!アリアー!」
とっても元気なパシフィカが両手をぶんぶん振りながら私を出迎えてくれた。
…徹夜明けよね、パシフィカ。
精霊は母や精霊女王を失わない限りは、ほぼ無限の寿命を持つ種族らしい。
人とは大きく時間の流れが異なる。一徹なんて些細な出来事なのかもしれない。
「おはよう、パシフィカ。徹夜明けよね?」
「ええ。でもこれぐらい些細な事です。平気ですよ。一徹ぐらいはよくある事ですし…」
「ちなみにその一徹、貴方にとって「日付換算」で何回?」
「三百六十五日です」
…やっぱり、一夜的な一徹じゃなくて、一年単位で一徹だった。
やはり精霊と人間では時間の感覚が異なるらしい。一つ覚えたかも…。
「まさか日の出前に来られるとは思っていませんでした」
「最終日だから、見られなかった日の出の挨拶を見たかったの。まだ始まっていないわよね?」
「ええ。あ、ちょうど今日の舞い手が来ましたよ。あの方です」
「…夜とは衣装が異なるのね」
「ええ」
朝は見られずにいた日の出と共に行う挨拶の舞。
夜とはまた異なる衣装を身に纏った太陽の精霊が喜びを表現するかのように舞い踊っていた。
日の出の柔らかな陽光を布に透けさせ、太陽の恩恵をふんだんに舞いへ取り込む。
「夜の時と比べて長めなのね」
「夜は日の入りから完全に太陽が見えなくなるまでの時間ですが、朝は日の入りから、太陽が完全に見えるようになり…それから完全に照り輝くようになるまで踊るのですよ」
「舞い手以外の太陽の精霊達は、どのタイミングで起き出すのかしら?」
「太陽が完全に見えるようになったタイミングです。それからは舞いも激しくなるのですよ。母に再び会えた事を、種族全員で喜ぶのです」
「皆で舞うの?」
「楽器が追加されたりしますが、混ざることはありませんよ。舞い手は当番毎日各一人。それは揺るぎがありません」
「当番制であることに意味はあるの?」
「ありますよ。太陽は皆を包み込む存在でしょう?」
「そうね」
「朝の当番は母から一番に抱きしめられる存在、夜の当番は最も長く母と共にいられる存在になれます」
「…母の愛を、皆で平等に得る為の「当番」なのね」
「そういうことです。我々は等しく太陽の子である。母の愛も等しく得る権利がある。それを行う為の決まりは他にもあったりしますよ」
「へぇ…」
完全に日が昇った後、舞い手の動きが激しくなる。
それに合わせるように、眠っていた精霊達も目覚め始めた。
「あ、姉ちゃんおはよ〜」
「おはよ…。一昨日ぶり…」
「今日はちゃんと朝に会えた〜」
一昨日の夜。パシフィカの舞いを説明してくれていた二人の精霊と再会できた。
眠そうに頭を揺らしながら、私の懐に飛び込んでくる。
「ごめんね、約束守れなくて…」
「だいじょぶだいじょぶ…」
「色々あったこと、昨日お知らせあった〜…」
「だから、姉ちゃんが勇者だってことも知ってるよ」
「なんかいが〜い」
「そ、そう…」
勇者らしくないと暗に言われた気がして、少しだけ心が重くなった。
まだまだ私も力不足。
私が勇者になるために出来ることって、何だろう。
剣士として強くなること?
転生特典を使いこなせる能力者として大成すること?
それ以前に、私は魔物以外を自分の意識がある状態で殺したことがない。
ここから先、ウェクリアの神父のように手を下さないといけない人間もいるだろう。
…私はその時、ノワの手ではなく自分の手をちゃんと汚せるだろうか。
「…アリア?」
「ううん。何でも無いわ。ね、パシフィカ。今日も観光案内をしてくれる?」
「勿論です!何を見て回りましょうか!」
「今日は美味しいものを食べたいわ。名物料理とか」
「サボテンですね!ステーキが美味しいんですよ!」
その後は、パシフィカの案内でスメイラワースらしい食事や生活を体験させて貰う。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、夜の時間になった。
・・
星明かりと眠った太陽の精霊達が照らすスメイラワースの門前で、私とノワは見送りに来てくれた二人の精霊女王とピルシェゴール…そしてパシフィカと向き合った。
見送りはいいと断ったのだが、ここまでされて見送りもしないのは不義理であるとピリカは言い…。
それならサボるわ!道中気をつけなさい!と言いきったソレアを殴り、この場に引っ張ってきたパシフィカ。
…見送りに連れてこられたとは言え、ソレアの意識は飛んでいる。
なので実質三人の見送りらしい。
「道中の準備は済ませておいた。まさか、これが太陽と砂の初共同作業となるとは思わなかったな」
「十分な装備を詰めておいた。何があるかわからないからな。ノワ」
「何かな、ピルシェゴール」
「これを持って行け。砂だ」
「…なぜ砂」
「お守りみたいなものだ。それを肌身離さず持ち歩いてくれ。お前に何かあれば、私の部屋に置いてある砂が反応する」
「へぇ…ありがとう。でも、私の身に何があったか、砂だけで分かるの?」
「砂が動き、お前の状態を文字にして伝えてくれる」
「すっげぇ〜。今度その術教えて」
「再び会えて、暇な時間が多く取れた時にな」
ノワとピルシェゴールはやっぱり仲良し。
何か贈り物を受け取っているようだ。
それを見ていたパシフィカは衣服のポケットを漁り、小さく項垂れる。
「ごめんなさい、アリア…私も…」
「だ、大丈夫。大丈夫だから…」
同じように贈り物をしたかったようだが、何もなかったらしい。
「私は貴方が追いつく日を待っているから」
「…じゃあ、その日を持って貴方の元へ」
「うん」
別に贈り物をされなくたって私には既にパシフィカから貰った言葉と宣言がある。
それだけで十分だ。
「さて、勇者アリア。賢者ノワ。改めて、今回の一件に対して礼を伝えさせてほしい。これで太陽も砂も安泰だろう」
「…問題は、うちの精霊女王のような気がしますがね」
「「「それは言えている」」」
「何。気にすることはない。太陽側にもパシフィカを含め優秀な人材…ソレアをしばける存在は多い。パシフィカを旅に送り出しても問題が無いよう、基盤を整える必要はあるだろう」
「ピリカ様…」
「追い出す気はない。むしろ留まってほしいが…貴殿に追いつきたい願いを抱いた者を引き留める程、私も愚かではない。彼女はきっと、貴殿の役に立つ。ここにいる間は私達が育成を担い、託せる者が現れたら貴殿を追う旅へ向かわせよう」
「ピリカとピルシェゴールが一緒なら、心配はいらないわね」
「ああ。貴殿達の働きに報いる為、我らは力を尽くそう。道中気をつけて、アリア。ノワ。ここは任せてくれ」
「助かるよ。それじゃあ、皆。達者でね」
「元気でね」
「「二人の旅に大地の守護があらんことを」」
「また会おう、アリア」
「またな、ノワ」
「二人の旅に、太陽の加護があらんことを!」
「必ず、追いつきます!」
手を振りながら、砂漠の大地を踏む。
ここに来た時は足へ絡みついていたそれ。今はきちんと踏み込める。
砂の精霊の恩恵だったりするのだろうか。
「それじゃあ、次の目的地へ行こう。アリア」
「そうね、ノワ」
二人、手を繋いで先へ向かう。
今までは追放を前提にした旅だった。
———だけど、ここから先は一緒に歩いて行ける旅を始められる。
同じ目的を抱き、同じ方向を見られる旅。
思い描いていた、理想の旅を始められる。
次の目的地は常夜都市「ミドガル」
本来ならエミリーが合流を果たす予定だった都市へ、私達は旅立っていく。




