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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第2章:要塞都市「スメイラワース」/精霊たちの条約

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34:過剰な支援魔法

「…はっ!」


薄寒さを感じ、目が覚める。

お腹が冷えないようにしっかりかけられていた毛布を剥いで、窓の外を確認する。

その先にはもう既に月が昇りきっている。

夜どころじゃない。もう深夜の領域に入っているのだろう。


「かずさ…ちゃ…あれ?」


夜、支援魔法を仕掛けに行こうと言っていたノワの姿はどこにもない。

既に出発した後らしい。

サイドテーブルに書き置きが残されていた。


『やあ、アリア。おはよう。のんびり眠れたかな』

『いいんだよ。気にすることはない。君は姿を変えられていた。しばらくは身体に負担が残っているだろう』

『出来れば明日の夜には出立したい。今のうちにゆっくり休んでおいて』


そう、簡潔に必要事項が書かれた紙。

さらりと走った文字には優しさとインクが滲む。

だけど…こうしてのんびり寝ている場合ではない。


「…早く追いかけなきゃ」


身支度を調えて、部屋の外に。

その先には…。


「私は…私は…」

「パシフィカ!?」

「あ、ありあぁ…」


床に転がり、涙目を浮かべたパシフィカが転がっていた。

パシフィカは私の姿を見るなり…ぼんやり開けていた口を瞬時に閉じる。



「どうして泣いているの?」

「いえ、泣いていませんよ。お目覚めですか?」

「う、うん…」

「賢者は既に出立していますよ。案内しましょうか」

「お願いしてもいい?」

「勿論です。夜の観光へ洒落込みましょう」


恭しく私の手を取り、パシフィカは案内を開始してくれる。

目指す場所は精霊円舞———形代魔法が刻まれたあの彫刻だ。


・・


夜のスメイラワースをこうして歩くのは、昨日ぶり。

眠りについた太陽の精霊達が道を照らし、残された旅人や住民はそれを頼りに夜道を歩く。


「パシフィカ!」

「ああ、セルカ。こんばんは。今日も繁盛していますね」

「そうそう今日も満員御礼で———って!あんた!寝なくていいの!?」

「今日は道案内を兼ねていますので」

「こんばんは」


セルカさんと呼ばれた女性は、スメイラワース周辺に発生する魔物関連の討伐依頼を取り仕切る役所。その事務員の制服を着ていた。

どうやら仕事帰りらしい。

パシフィカと面識があるようで、


「ああ、勇者様の…。噂には聞いているよ。賢者様と揃ってとんでもないことを成し遂げてくれたって!」

「と、とんでもないこと…」

「今日は砂の営業妨害もなかったし…なんなら、伝達が行き届いていない砂達にピルシェゴール…?だったかな。砂の精霊でも偉い立場にいる奴らが直々に注意をしてくれてねぇ」

「ピルシェゴール…働き過ぎ…」

「昼間、あの精霊はかなり奔走してくれていましたよ」

「ピルシェゴールって、どうしてここまで…」

「…砂の原初の一人らしいですね。私の父と同じです。母を支え、女王を支える者として生を受けた者」

「そんな立派な立ち位置にいたのね。なんだか、らしいけど」

「そうですね。ピルシェゴールは「術」を担う原初との事で伺いました。数千年単位で引きこもりをしていたとは思えない柔軟な思考で、ソレア様に爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいです…」

「それほど…」


ピルシェゴールの性格とパシフィカの性格。

生真面目な部分が共通しているなとは思っていたけれど…パシフィカ自身も元々敵対していた存在でも高評価らしい。

むしろ自分が支えるべき精霊女王よりも好感が高そうなのは、気のせいだと思いたい…。


「そういえば、賢者様の方は先に出かけていたけど…」

「そう。今から私達もノワに合流して、彼女のお手伝いをと」

「ああ、なんか仕込みがあるって言っていたね。どうやらスメイラワースの外にも出向くと言っていて…この辺の魔物分布情報も用意してくれって頼まれたよ」

「外に一人で…」

「みたいねぇ…。凄腕みたいだから不安はないけれど…やっぱりね。まだ精霊円舞の彫刻の前にいればいいけれど…」

「ありがとう、セルカさん。早速彫刻の前に向かってみます」

「ええ。引き留めてごめんなさいね。気をつけて」

「「はい!」」


彼女の見送りを受けて、私達は改めて彫刻の先へ。

ノワ…まだ彫像の前にいてくれたらいいのだけど。


・・


彫刻の前に到着する。

そこは夜だというのに、青く照り輝いていた。

にょきにょき草で出来た杖を構え、ローブを風に靡かせながら数多の魔法を彫像前に仕掛けている様子だった。


「…ここまで大きな魔法陣は見たことがないですね」

「そうなの?」

「ええ。やはり賢者は…」

「凄いわよね。これで努力でも補えなかった「できない事」があるって言うのだから…どこまでも末恐ろしく感じる」

「…純粋に天才では無いと」

「ええ。彼女は努力を積み重ねて、賢者になって…この場にいてくれる」


そんな彼女がピルシェゴールや、一緒に来ていた術士の精霊と共に魔法を組み立てて、仕掛けを施していく。

ピルシェゴール自身見たことがない術ばかりだったのだろう。

魔法の構築…は全くせず、むしろ彼女を質問攻めにしていた。

ノワはそんなピルシェゴール達に嫌な顔を一つも浮かべず、問いに淡々と答えてくれていた。

なんだか、楽しそう。

やっぱり、魔法使いらしく魔法の話が出来る事が凄く楽しいみたい。

それに、砂の精霊側だって彼女が知らない術を知る。



「…賢者ノワ。この術式は?」

「あー…拘束魔法。下手に触らないでね。触手に絡まれるよ」

「賢者殿。こちらは?」

「あ〜。それ水獄魔法。水流で対象を閉じ込める致死率高めの術だから取り扱い注意ね」

「…殺意高くないか?」

「多少は盛っていいかなと」


「確かに…実質、ここに二人の精霊女王の命が存在しているようなものだ。むき出しで放置するよりはマシだと思うが…」

「次は踏んだら無数の針が出てくるようにし〜よおっと」

「ノリの軽さに対して殺意が高いなホント!…どんな魔法陣を描くんだ」

「興味あるじゃ〜ん」

「…頬を突くな」


「ノワ!」

「あ、アリア〜!パシフィカも来たんだ〜!」

「今朝ぶりだな、勇者アリア。元気そうで何よりだ。パシフィカは先程ぶり。疲れはないか?」

「ええ。元々巡回騎士ですので。体力には自信が…。ピルシェゴール殿も、夜まで活動されているとは…疲れとかは」

「元々事務仕事で一徹ぐらいは余裕でしているからな。これぐらいは些細な疲労だよ」

「流石です」

「これぐらいは当然さ」

「でも、一年は流石にやり過ぎですよ」

「…昔は十年程寝ていない時があったのだが、ピリカ様に怒られてな」

「臣民を思ういい女王ではありませんか。こちらは夜には眠る風習があるので、徹夜なんて無縁ですよ」

「仕事は回っているのか?」

「うちにもピルシェゴール殿のように優秀な原初の高官がいますので」

「なるほど。苦労していそうだ」

「あえてソレア様を放置することでストレスを…」

「あれを止めようと思うと、ストレスが倍になりそうだ…」


精霊は生きている時間が人間とは異なる分、時間の感覚が人間感覚では非常におかしいなと感じてしまう。

普通の、一日単位の徹夜と思いきや…一年単位の徹夜。

こういう些細なところで、種族や文化の違いを感じさせられる。


「ノワ。まだお仕事中よね。順調?」

「大分。ああ、下手に動かないでね。何がきっかけで術が発動するか分からないから。慎重に」

「う、うん…」

「それから対飛行可能種族用に空中に術も仕掛けるよ」

「そこまで…いや、そこまでしないといけないのよね」

「そうだよ。種の存続に関わる存在の命を二人もかけたんだ。厳重な防御が必要になる。過剰な方が多少はいいのさ」

「そうね」


彼女が隣で魔法陣を描く中、私は隣に立って作業を見守る。

魔法の事なんてわかりやしない。

魔法陣に書かれた星涯文字なんて読めやしない。

それでも、彼女が描く魔法は優しくて、美しい。

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