29:二人の精霊女王
しばらくした頃、疲れ切ったパシフィカともう一人。誰かがやってきた。
太陽に透ける羽根を揺らした、健康的な褐色肌の女性。
彼女こそ、おそらく———。
「アリア、彼女がソレアだ」
「…」
「なぜ私をじっと見る」
本来ならば太陽の精霊女王である彼女を注視すべきなのだろうけど…その、なんだ。
肌の露出が、他のスメイラワースの民よりも遙かに多い、
普通のものでも目をそらしたくなるのに、大事なところのみを隠しているような。
「ピリカを見ていたら、安心…」
「それはどういう?」
「いや、この地域では露出が高い格好をするのが当たり前なのかと考えさせられる人ばかりですから…そのぉ…」
「ああ。そういうことか。砂漠地帯では暑苦しいと言われることが多い格好なのだが…貴殿を安心させられるなら、着ていてよかったな」
「すみません、なんだか…変なことで悩んでいるような感じで。あれが当たり前なのに」
「いや、君の思考は正常だ。むしろあれが異常だな」
「ピルシェゴール…さん」
「敬称は不要だ。ピリカ様との間にはないのに、私にあっては変だろう」
「じゃあ、次からは」
「ん」
「それで、異常というのは?」
「…太陽の精霊は母の寵愛をその身に多く受ける為に、あえて露出の多い格好をする。誰もがそう思うわけではないのは理解しているが、私にとってあれは目の毒というか…はしたないと感じている」
「そういう考え、持っていて普通だと思う…」
「それでいて奴らはどんどん露出を過剰にし、母への寵愛を多く受けているか否かで揉め出す…これがあるから太陽の精霊は嫌いなんだ」
どうやらピルシェゴールはそういう露出に対して厳しい考えをもっているようだ…。パシフィカ同様生真面目そうな精霊だし、あれは許せないようだ。
「あれでいて、スメイラワースという他種族とも関わる場所に居を構えているんだぞ。精霊の品位を下げているとしか言い様がない」
「なんかわかるわ。あれはもう全裸だもんね」
「誰が全裸だ!これは聖衣だぞ!」
「機能を果たしているかどうかも怪しい下着ですよね…嘘をつかないでください」
「パシフィカぁ!」
「事実じゃないですか!」
わーきゃー騒ぎ、揉めるパシフィカとソレア。
パシフィカは普段生真面目な精霊だと思うけれど、親しい精霊たちの前ではあんな風に、年相応な存在なのかもしれない。
最も、パシフィカの場合は「外見年齢相当」とか「人間でいうところ」がついてきそうだけれども。
しかし、それを見たピリカは頭を抱えて小さくため息を吐いた。
もちろん私たちもどうしたらいいかわからず、その光景を遠くから見守っていた。
「ノワ」
「んー?」
「…私は、今まで露出狂の太陽の精霊なんざクソ食らえと考えていた」
「急にどうしたのさ、ピルシェゴール」
「しかし、あのパシフィカとかいう精霊に関しては、考えを改めておこうと思う」
「それが大事な一歩だよ、ピルシェゴール。しかしいいのかい?君は相当長い歴史を生きているように見える」
「ああ、千年単位で生きているが」
「混ざり者に、偏見は…」
ノワとしては、聞くのが難しい質問。
それが背後から聞こえた気がした。
けれどピルシェゴールなら大丈夫。そう信じて私は、前を向き続けた。
「純血思想というものだったか。精霊族にもかつて存在はしたいたな」
「…」
「私は当時からどうでもいいと考えている。純血だろうが、混ざりだろうが・・・「お前のように」面白い存在であり、私に利益をもたらす存在であれば、特に歓迎しよう」
「そっか」
言い方は雑だけれども、望んでいた言葉を述べられ、ノワの声も安心したようなものだったと思う。
私は親も、遡った先も人のようだから、混血の悩みはわからない。
それに、作中で述べられたノワの過去もあるはずだし、一咲ちゃんが体験した「ノワの過去」も存在しているはずだ。
…どんな事があったのかは、まだ聞けない。
想像しただけでも怖くて、聞ける勇気を持ち合わせていないから。
「それに、私は女王の側近術者…お前たちが言うところの「賢者」として働いてはいるが、基本的に集落の引きこもりだからな。俗世のことに興味はない」
「ああ。だからアルシアの事も知らなかったんだ」
「ああ。しかし彼女が露出狂ということだけは知っていた」
「情報偏りすぎでは?」
ピルシェゴールが偏った知識を公開した直後、場を整えるようにピリカが大きく咳払いをする。
それから場の主導権を得るために、彼女は高らかな声でこの場にいる全員に声をかけた。
「とりあえず、だ。賢者ノワ・エイルシュタット…貴殿にはやることがあるのだろう。その為に、私と太陽の精霊女王を同じ場所に集わせた」
「パシフィカ、あの人間は何をする気?」
「事情を話している暇はありませんが、ざっくり述べれば女神様経由でスメイラワース、そして太陽と砂の精霊が滅ぶ予知がされました」
「ほう」
「それを防ぐために、あの賢者と勇者様は…「ある計画」を実行するため、ここに」
「賢者に、勇者「様」ねぇ…」
「何か?」
「いいや。何でもないよ。それで、賢者。お前はここで何を成す気だ?」
「…」
二人の精霊女王が集う場所。その真ん中に立たされて、珍しく緊張しているノワの隣に立ち、彼女の手を握る。
偉い人の前に立つなんて、前世でも今でも初めてのことだろう。
少しでも、安心できるように。
「大丈夫よ、ノワ」
「あ…」
「私がついているから」
「アリア…うん。大丈夫。ありがとう。心強いよ」
「落ち着いたなら、離れた方がいいかしら?」
「ううん。このまま私の手を握っていてほしい」
「失敗するか、不安?」
「やっぱりね。少しでも安心…心が平常であれば魔法の成功率も上がる。だから」
「わかった。側にいるから。おもいっきり、ね?」
「任せてよ」
心を安定させ、普段の調子を取り戻した彼女は、二人の精霊女王の前に立ち、この後の計画を話す。
精霊たちに縁のある彫刻がある場所で。
その彫刻と同じ世界を作るための条約———「不可侵条約」を作り上げるための魔法。
それを描く準備を、始めるために。




