28:精霊円舞
砂の精霊の集落は、今と同じように高濃度魔力に満ちた空間でした。
普通ならば、身体の不調を覚え…引き返すのですが、アルシア様は妖精との混ざり者。
高濃度魔力空間に慣れている存在でしたので、気にすることなく前へと進んでいったのです。
そこで私は砂の精霊と太陽の精霊の間に存在する「蟠り」も説明しました。
スメイラワースの創設に反対している存在だということも含めて。
それでも彼女は気にすることなく、ピリカ様の元へ辿り着きました。
それから彼女は一人で砂の精霊の集落に訪れて、ピリカ様をはじめとした精霊たちと交流をしていました。
それを知らされたのは、アルシア様が彫刻の制作を始めた頃だったと思います。
・・
「今、なんと仰りました?」
「いや、だから砂の精霊と太陽の精霊が一緒に踊っている彫刻を作ろうかなって」
「いやいやいやいや。貴方には話しましたよね!?二つの種族の間には、蟠りが存在すると!」
「いやぁ、君たち仲良くなれるよ。君は砂の精霊女王と話したことはあるかい、パシフィカ」
「いえ。対立種族の、ましてや長と話す機会など・・・設ける価値もありません」
「もったいないねぇパシフィカ。いいかい。話し合いというのは友好の始まりだ。あの子は意外と話がわかる存在だよ。ソレアが豪傑と言ってもいいような精霊女王ならば、砂の精霊女王であるピリカは真逆の存在。あの子は理性的な精霊女王だ。私なら、慎重さを持ち合わせているピリカについていきたいね」
「そう、なのですか…」
当時からソレア様に振り回されていた身としては、初めて聞いた砂の精霊女王に会ってみたいという欲が湧いた紹介。
けれど私は太陽の精霊。砂の精霊に会いたいなど、口が裂けても言えやしない。
「二つの種族には、対立すべき理由が存在している。けれど、それは本当に君たちの母が望むことなのだろうか」
「…何が言いたいのでしょうか」
「君たちは母を慕う存在ではあるけれど、母の意志というものはただの憶測でしかないように思えるね。君たちの「そうでなければいけない」という固定観念が、母の意志として反映されて、逆らってはいけない事象になっているような気がするよ」
「…?」
アルシア様はとても難しいことを言う。
長年生きてきた私にも理解しがたいことだけれど、いつかその言葉をきちんと理解できる存在が現れるのだろうか。
私には、何もかもわからない。
「まあ、とにかくだ。そんな訳のわからない意志を放棄し、彼の者の意志をきちんと読み解くことができるのならば———」
「――――こういう未来も、あるのかもしれない。アルシア様はそう述べながら、この彫刻を作り上げました」
彫刻の名は「精霊円舞」
色がついていないので、飛び回る精霊は砂なのか太陽なのか判別できないようにしてある。
それもきっと、この作品の狙い。
種族もなにもかも関係ない。こんな風に仲良く飛び回れる世界があるのかもしれない。
そんな願いをこめて、作られた作品の元に…私たちは辿り着いた。
・・
パシフィカの案内でアルシアの彫刻…精霊円舞の元に辿り着いた私達。
そこで話の終わりはして貰ったのだけれど———。
「なっが。もう少し簡潔にまとめられないの?」
「これでもかなり短縮した方ですし、まだまだ話したりないことがあるのですが…それでも長いというのですか賢者」
「うん。長いね。超長い。サブの過去編に一話半使うとか冗談じゃない」
「いちわはん…?何を言っているのかさっぱりなのですが?」
聞いていたら頭が痛くなるワードと共に、何故かノワが抗議を述べだす。
これは止めた方がいいのだろうか。
不安になって、傍観者をしていた時雨さんに目を向けると…。
「ブツブツ…師匠が師匠なら弟子も弟子。またメタネタを扱い始めて。処理するこっちの身にもなってくださいよ。記憶を消すの、大変なんですからね…ブツブツ」
駄目だ。あの人もあの人で何かダークサイドに落ちている。
光を宿していない目で文句を言う姿は正直、怖い。
「あのねパシフィカ。君は周囲から何を求められているか知っているか」
「え、え?」
「求められているのは私とアリアのイチャイチャコメディだよ」
「イチャイチャした記憶はないから、少し黙って」
「あうっ!?」
そんな彼女を見ていた後ろでさらなる暴走を行おうとしていたノワの首に手刀を入れて、彼女を気絶させる。
大丈夫。素人の手刀だ…数分で目が覚める、はず。
「…本題に、入れないから」
「あ、あの…アリア。私に求められている事って、その、邪魔をしないことなのでしょうか…?」
「それはノワの戯言だから。けれど、そうね。貴方が求められていることはあると思う」
「それは、何でしょうか」
「アルシアの意志を読み解き、この場所を今後どうすべきか…彼女がどんな世界を求めていたのか。貴方は、アルシアを知る者から聞いた過去を元に読み解く必要がある。私は、そう思うわ」
そうして出来上がるのが、この彫刻のような世界。
上手くいく保証はどこにもない。
けれど、やらなければ…スメイラワースも砂の精霊も、本来の作中通り崩壊の道を辿るだろう。
「しかし、あの…パシフィカ」
「なんでしょうか?」
「アルシアと出会ったのはもう数百年単位も前の話、よね?」
「ええ。そうなりますね」
「アルシアは、ご存命なのかしら」
「いえ。彼女はこの地に墓がありますよ」
「砂の精霊側にも懇意にしてくれているからな。墓は私たちが作り上げた」
「そう、なの…やはり寿命、かしら」
「そんな可愛らしい死に方ではないぞ。あの馬鹿は…」
「酒に酔い、スメイラワースの外に出て、砂漠の上で寝ているところをサソリに刺されて…」
「つまりのところ、毒で死んでいる…ということかしら」
「ああ」
「はい」
「「正直、らしい死に方だなと思ってしまった自分が憎い…」」
パシフィカとピリカ様。うんざりした顔でアルシアのことを述べる姿はよく似ている。
彼女に相当振り回されたと見える。
「さて、そろそろ雑談を切り上げて…ソレア様を呼んできます。それまでに、賢者を起こしておいてくれると助かります」
「もう起きてるよ」
いままでうつ伏せでいたはずの彼女は、顔面に砂をつけつつ私たちに意識があることを伝えてくれる。
それを見たパシフィカはソレア様の元に向かい、私たちはその後ろ姿を見守った。
「アリア」
「ごめんなさい。手刀」
「あ、いや。そんなどうでもいいことは本当にどうでもいいから。それよりも、さっきパシフィカに言っていたこと」
「どれ、かしら…」
「まあ、詳細は後で話すとして…君も、辿り着いていることに安心した」
「だ、だからどれに対してよ!?」
「話す手間が省けて楽そうだ…」
しみじみと嬉しそうに頷くノワと、何を言っているのかわからず、理由を問う私。
それを見たピリカ様は小さくため息をつく。
「…確かに貴殿らが置かれている状況は私たちによく似ているが、言葉が足りないぞ、友江一咲。きちんと説明したらどうかね」
と、小さく呟いていたが…もちろん、私たちの耳には届いてはいなかった。




