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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第2章:要塞都市「スメイラワース」/精霊たちの条約

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27:愛と象徴

アルシア・オージェンスは彫刻家だった。

芸術都市の出身であった彼女が旅をしていたのは…罪を犯して追放されたという訳ではない。

ただ、芸術都市で高名な彫刻家となってしまった彼女にはもう、あの場所で「作りたいもの」がなくなってしまっただけだったそうだ。


「皆は、新しい作品を作れと言うけれど、私はここで作りたいなぁって思えるものがなくなっちゃった」

「だから、新しい「作りたい」を探しに行くんだ」


生まれてから一度も、芸術都市から出たことがなかった彼女はその日、旅に出た。

新たな作りたいものを探すために。

そして彼女は———スメイラワースに辿り着いた。


・・


「なにこれ。作りかけ?」


スメイラワースとなる村に辿り着いたアルシアの第一声は、こうだった。

当時、私は生まれて百年程度の精霊で…子供の姿をとっていた。

そんな私の隣にいたのが精霊女王———太陽の精霊女王だったソレア様。

彼女みたいな立場を持つ精霊が、こうして幼い精霊の側にいるのは非常に珍しい。

数が少なかった太陽の精霊は、どんなに上位の立場である存在でも、積極的に後続の育成に携わっていたのです。


「そうね、まだ作りかけ。できたてとも言えるわね」

「君は?」

「ソレア。太陽の精霊女王でこの村の…村長みたいな存在かしら」

「へえ精霊。初めてみたや。初めまして、私はアルシア・オージェンス。ただのしがない旅人さ」

「そう。まあ、まだ何もない場所だけれども、旅の疲れを癒やせるよう、私たちも手を尽くさせて貰うわ」

「ありがとう。では、しばらくの間、滞在をさせて頂きます」

「ええ」


最初の挨拶は、こんなものだった。

ただの旅人と村長。たった一時の交わりであり、あっという間に過ぎ去るものだと誰もが思っていた。

それはもちろん、幼い私も同じだった。

ふらりと現れ、ふらりと消える。

いつの間にか忘れる存在。

そう、思っていた。


・・


翌日、私はアルシア様と出会った。


「やあ!いい朝だね!」

「おはようございます…ところで、なぜ全裸なのですか?」

「私は寝る時は全裸だと決めていてね」


陽光に照らされた、水に滴る曲線美。

正直、目のやり場に困る。

他の都市では、こういうのは当たり前なのだろうか…。


否、ソレア様は言っていた。

こういうのは「ひわい」だと。


「周囲の目も、あると思うのですが」

「構わない。私は私を貫くだけだ」

「…別都市でそれをすると、卑猥罪とか、視界猥褻罪とか、破廉恥罪とか、色々な理由で逮捕されると思いますので」

「その心配はいらないよ」


自慢するかのように肌を露出する彼女に、苛立ちを覚える。

恥じらいというものは、ないらしい。


「スメイラワースが完成した暁には、猥褻罪を制定しようと思います」

「あはは!君は法の番人にでもなるのかい?」

「いえ、私は将来、ソレア様の護衛に」

「君の性格じゃ無理そうだ」

「なぜ、そんなことを?」

「君は優しすぎる。他の精霊が私を遠巻きにする中、唯一声をかけてきて、私の格好に指摘を入れられる。君は他者に寄り添える子だ。精霊女王だけに寄り添うべき存在ではないよ」

「変なことを言う人です」


考えを否定され、どこにでもいる子供のように頬を膨らませた私。

そんな私の両頬を手で挟んで、アルシア様はにっこりと微笑みかけてくれる。


「私以上に生きていそうだけど、子供っぽいんだね」

「まあ、もう百年は生きていますが…我々の世界だと、まだ幼い部類ですから」

「うっそ。私より年上なのに」

「精霊の寿命は長い。それ故に、自我を持たない…人で言えば赤子のような状態が百年以上続くのが当たり前ですから」

「なるほど。そうなると君は特別な個体のように思える」

「ソレア様の教育の賜物というものもあるのでしょうが…私は、精霊の中でも特異な個体ですから」

「なるほど。君たちの精霊女王はなかなかのやり手のようだ」

「ええ。そうです」

「それに君は、自分の気持ちを定めることができれば、人に近い存在になれそうだね」

「…さあ、どうでしょうか」


アルシア様は周囲を見渡して、うんうんと数回首を縦に振る。

この人間は全裸で何をやっているのだろうか。

それに、なぜ気がついたのだろうか。

私が、純粋な精霊ではなく、混ざりものだということを。


…もしかしたら、気がついていない?

彼女特有の感覚とやらで、気がついた事象だったりするのだろうか。


「決めた。私、しばらくここへ滞在するよ」

「え?」

「ここにはまだ、形成されていない自由がある。そして未完成という名の可能性もね」

「…?」

「見応えのある場所だから、しばらく見ていようと思うんだ」


言っていることはよく理解できないことだった。

けれど彼女がまだしばらく、ここにいることだけは理解できた。


「何を言っているのか全然理解できませんが、しばらく滞在されることだけは理解しました。ソレア様に伝えてきます」

「君、言い方きっついねぇ…ところで、名前は?」

「ありません」

「ご両親は?」

「母は…名付ける前に死んだと聞かされています。父は原初でありながら異種族と交わった罪で処刑を」

「うっそ。君混血!?」

「…」


気がついていなかったらしい。深く考えすぎたことを後悔している。


「このご時世珍しいねぇ」

「気味悪がってもいいのですよ。そういう生き物なので」

「かという私も、妖精と人間の混血だ。近しい存在を気味悪がる事はしないよ。それに、禁忌を犯した重大さは私の方が上であり、殺されても文句は言えないものだったりする」


今でこそ混血児は生存権利を得ているが、当時は忌まわしい存在として認定されていた。

同族は同族同士…そういう固定観念がついていたから。


「でもね、私はその考えは古いと思うのだよ」

「ふむ」

「私はね、愛は美しいものだと思っている」

「急にどうしたんですか」

「その結果である私たちも忌むべき存在ではなく、他の存在と同じく美しい存在なんだよ。我々子供は言うなれば愛から作られた芸術作品なんだ」

「はぁ」

「つまりのところ、私が言いたいのはどんな出生であろうとも「誰もが平等に愛される存在であるべき」ということだ」

「…なるほど、理解できました」


愛がどうたらこうたらの部分は、幼い私には理解できませんでした。

もちろん、今は「なんとなく」理解できましたけれど、完全に彼女の言葉を理解したという結論には至っていません。


けれど、これだけは今も言葉に残っています。

誰もが平等に愛される存在。

母を失い、父を処刑された私。

そしてソレア様以外からは忌み嫌われていた私にとっては、当時一番欲しかった言葉でした。

私は、産まれてきてはいけない存在だったと教え込まれていたけれど。

誰からも愛されることはないと言い聞かせられていたけれど。

お前が誰かを愛することは許されないと言われていたけれど。

…私だって、愛される権利があって、誰かを愛する権利があることを、理解できたのだから。


「優しい君、私と同じ立場にあり、まだ誰かの愛情を知らない君に、誰もが最初に享受すべき「愛」を、私から捧げよう」

「…何を?」

「名前だよ。君のご両親は、君に何かを授ける前に亡くなってしまったようだからね。だから代わりと言っては何だけれども、君にこの名前を贈らせてほしい」


砂の上に描かれた綴り。

精霊にも読めるように、精霊特有の言語を用いて書かれた名前こそ…。


「パシフィカ。私が住んでいた場所では、平和を意味する単語なんだ。君にぴったりだとは思わないかい?」

「いえ、そんなことは」

「では、名前負けしない活躍ができる存在になるといい。そうなれば、精霊女王の護衛だって余裕で務まるさ」

「…善処します」


表だって喜びを表現することはなかったけれども、誰もが持つ名前を得られたことを、私は心の中で喜びました。

それから私は、アルシア様に懐いて彼女と共にスメイラワースの様々な場所を巡り、彼女の芸術に触れました。


そんな日々が続く中、私たちは「あるもの」を見つけました。

そうですね、賢者…貴方たちがアリアを救うために立ち入ったあの歪みです。

偶然開いていたそこに立ち入った彼女は、好奇心が赴くままにどんどん進んでいきます。


「…アルシア様、ここは危険です」

「どうしてだい?面白そうな場所じゃないか」

「そこは!砂の精霊の集落ですから!入っちゃ駄目です!」


アルシア様が砂の精霊の集落を見つけ、ピリカ様と出会う事になり———「アルシアの彫刻」ができるきっかけになる日が、やってきました。

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