25:精霊騎士と賢者
母が姿を現し、朝を知らせてくれる。
目覚めた私はスメイラワースの外に出て、砂の精霊の集落…その入口があると言われている地点まで駆けていた。
あの後、無事に眠りについた私は、砂の精霊からの襲撃に遭うことなく朝を迎えられた。
『勇者なんだから。必ず守ってみせるわ。だから…』
金髪の、私より何十倍も若くて、幼い勇者の少女に救われた。
騎士である私が、だ。
「アリアっ…!」
夜、目覚めていた者達の情報によると、太陽の精霊の踊り手と似たような姿をした少女は、砂の精霊に捕獲されたそうだ。
———私のせいで、彼女は捕まってしまった。
鎧を着込み、彼女が預けたアヴァンスを片手に空間の裂け目を通り、砂の精霊が住まう空間に入り込む
敵だらけの環境だ。私は戦えないが、防御には自信がある…!
勢いで突っ切ることができれば…自ずと中心まで行けるだろう。
「あれ?パシフィカ?」
「アリア!無事だったのですね!」
そんな私の勢いを、助け出したかった筈の存在が一気に引き落としてきた。
…予想とは大違い。出会った時と同じ様相のアリアが、入口付近で予想外の存在と共に立っていた。
「太陽の原初。母の教育係パークスの忘れ形見。パシフィカ・グラウゴスか。話には聞いていたが、目覚めてすぐに駆けつけたか」
「…」
「返事が出来ないのか「忌み子」」
「…そんなことはありません」
「ソレアの奴は教育もまともにしていない訳ではないだろう。友好的にしろとは言わないが、挨拶ぐらいしたらどうだ。品位を問われるぞ」
「…太陽の精霊、パシフィカ・グラウゴス。越権の機会をお与えいただき、感謝を申し上げます」
「よろしい。できるではないか」
「しかし…砂の精霊女王。ピリカ・ミョリス。なぜこんなところにいるのですか?玉座にいるとばかり」
アリアを中心に、対立する者同士睨み合う。
ここにアルシア殿がいたら…きっと、悲しまれる。
そう、心の片隅で考えながら———。
・・
睨み合う二人の真ん中で、私は狼狽えることしかできなかった。
外はもう朝が来たらしい。パシフィカが動いているということはそういうことなのだろう。
「ぱ、パシフィカ…」
「アリア、私の後ろに。今度は私が…」
「砂の精霊の集落なのだから…ピリカがいて当然でしょう?」
「呼び捨て!?」
「…至極真っ当であるが、今回は現在に至るまでの説明した方がいいぞ。アリア・イレイス…」
「ざっくりでもいいから、とにかく今は和解済ってことを伝えた方がいい」
「わ、わかったわ!あのねパシフィカ」
現在に至るまでの事をパシフィカにしっかり説明しておく。
こうしてピリカと並んでいることも納得してくれたらしく、剣を収めてくれた。
ふと、パシフィカの視線がノワに向けられる。
なんだかんだでこの二人、初対面なのよね…。
けれど、なぜだろうか。
初対面なのに、なぜか、凄く…険悪そうな気がする。
ノワはともかくと言える。彼女は仲間の加入を阻止するために立ち回っているのだから。
けれどパシフィカはなぜ?
「さて、パシフィカ・グラウゴス。貴殿の目的は?」
「勇者様を、アリアを探しに」
「そうか。見ての通り勇者は無事だ」
「砂にされた上に、変な特性も身につけたけどねぇー…」
「別に困るものじゃないから」
「何!?変なことをされたのですか、アリア!おのれ砂ぁ…!」
「なぜそこで食いついてくるのか理解できないわ、パシフィカ」
「身体に異常はありませんか?動かしにくいとか、かゆいとか…」
「大丈夫だから!汚いから触っちゃだめ!」
服はともかく、私自身は元砂だ。
全身はまだ砂っぽさが消えていない。早くお風呂に入ってさっぱりしたいぐらい。
それに全身汗だらけだし、今のパシフィカどころか、ノワにも時雨さんにも…他の誰にも触らせたくはない。
「ぐっ…穢された後だったか。おのれ砂…!」
「汚された?まあ、そうかも」
「おい、精霊騎士。なんか違う気がするぞ。思考回路が私と一緒に感じたぞ」
「何か違うことでもあるのか」
「事情をちゃんと聞いていたのかな?アリアは砂の精霊に、砂に変化させられていた。時間も短かったし、術も綺麗だったから普通に動けているけれど…元砂だよ。全身砂だらけだし、汗だくなわけ」
「あ、ああ…」
「つまりのところ…普通に汚いだけ。そういう意味じゃない」
「そ、そうか…盛大な勘違いをしていたようだな。申し訳がない」
ノワとパシフィカはなぜかお互いに納得したように、うんうんと互いに頷いていた。
…勘違いをする場面なんてどこかにあっただろうか
「…?」
「アリアさん、どうされました?」
「時雨さん、私は全くわかりません。二人は何を勘違いしていたのでしょうか」
「言わぬが花という言葉があります故、ノーコメントでやり過ごさせていただきます」
…彼女から意見を聞くことは叶わない。
では、もう一人はどうだろう。
「パシフィカの勘違いは、その女がよく抱いていそうな思考と一緒だよ。性的なことさ」
「ノワ」
さりげなく、ノワが私に抱きついてくる。
時雨さんに取られたと思ったのだろうか。彼女らしからぬ行動で、少し驚く。
…距離が近いと、何度も何度も思い出して、意識をしてしまう。
「むう…」
「精霊って女王以外は無性らしいね。そうなってくると交配も人間のそれとは異なるだろう。なぜその手の知識を得ているのか、私はそこが引っかかるけれどね…アリアは何か知らない?」
「う、ううん。全然」
「そっかぁ。娯楽とかで認知されていたりするのかなぁ…」
さらに、ぎゅうっと抱きしめられる。
嫌な気持ちはしない。本当は抱きついてほしくないけれど。
…綺麗なローブが、汚れてしまうだろうから。
彼女はもう汚れているから気にならないとかいいそうだけれども、私としては気になってしまうのだ。
「ノワ、離して。汚れちゃう」
「今更だよ」
「それでも。なんでこのタイミングでくっついてくるの?」
「牽制かな」
「パシフィカ相手でしょ」
「察しがいいね。その通り。アリアも成長しているんだね。私、嬉しい!」
「嫌でも察しがつくわよ。勇者と二人仲良し。お前が加入する間はない!って意味でしょう?」
「…そうじゃないんだけどな」
「?」
「まあ、アリアもいつかわかるよ」
さらに力強く背後から抱きしめられる。
それと一緒に、一瞬。ほんの一瞬だけ…パシフィカの方から嫌な気配がした。
鎧で隠されているから、表情は読み取れないけれど。
何か、嫌がっている?
それもそうか。なんならここは敵の住処。
パシフィカとしては、早く出たいところだろう。
「ノワ、とりあえずここから出ましょう。ピリカもパシフィカもそれでいい?」
「構わない」
「私も、問題ありませんが…お二人は何をしようと?」
「それは、外に出てから話すから」
「わかりました」
合流したパシフィカと共に砂の精霊の集落を後にする。
そして私は久々ではないはずだけれど、久々な感覚と共に都市外の砂漠へ足を踏み入れた。




