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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第2章:要塞都市「スメイラワース」/精霊たちの条約

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17:落日の砂上

つま先だけで回り始めた姿を眺める。

煌びやかな装飾品。そして半透明の布。

それを軽やかに舞わせ、パシフィカは優雅に舞い踊る。


「装飾品はお母さんからの恵み。布は時の流れを示しているんだ」

「布、意外と早く舞っているだろう?」

「そうね。ゆっくり舞わせた方がよさそうなのに」

「時の流れを示すそれは、朝はゆっくり舞わせる。けれど夕方は早く舞わせるんだ」

「早くまたお母さんに会いたい。そう伝えるためにね」

「なるほど。そういう意味があったのね」


布と共に舞うパシフィカの背から、見慣れない半透明が現れた。

形状的に羽根だろう。精霊にも生えているとは聞いていたが…。


「ねえ、貴方たちも精霊だから羽根は生えているのよね?」

「うん。でも、普段は隠しているよ」


声をかけたと同時に、子供たちも含めて周囲のスメイラワース住民である精霊たちは自身が持つ羽根を展開する。


「どうして隠しているの?出した方が楽そうに私は思えるけれど…」

「この都市の成り立ちを知れば、俺たちが羽根を使わずに暮らす理由も自ずとわかるんじゃね?」


スメイラワースができた理由は、太陽による多種族の死を防ぐため。

言ってしまえば、他種族を守るため…。

そして太陽を悲しませないための都市。それがスメイラワースだったはず。


「要塞都市は数多の事象から他種族を守るために作られた都市」

「それは「母さん」だけじゃない。目線的な問題もある」

「アリアは考えたりしないだろうけど、中には羽根を持っている事とか、飛んでいることが気に食わないと言う種族もいるんだ」

「つまり、俺たちはそういう種族が「怒り」を得ないよう、心を守るために、飛ばないようにしているってわけだな。必要な時は、その限りじゃないけど」

「へえ…」

「けれど、お母さんから賜った身体の一部を、お母さんと対話する際に隠すのはよくないこと。だから、この挨拶の時だけは皆、羽根を広げるんだよ」


周囲は羽根をはためかせ、鈴のような音を奏でる。

パシフィカの羽根は少しだけ特徴的。瞳と同じような、透き通る赤。

でも、周囲の羽根とは違って…小さな羽根が大きな羽根に重なっている。

あれではきっと、飛びにくい。


パシフィカが羽根を揺らす度に、心が穏やかになる。

優しくて、穏やかな響き。ついついつられて欠伸をしてしまう。


「私たちはここで寝ちゃうけど、君は夜も活動するんだよね」

「耳栓つけておいた方がいいぞ。ほれ。羽根を規則的に揺らすことで、眠りを誘うんだ。聞いていたら姉ちゃんも寝てしまう」

「ありがとう」


耳栓を手渡され、それを耳の中に押し込む。

羽音が聞こえなくなったのは残念だけど、見ているだけでも幻想的な光景だから不満はない。

改めて、ファンタジー小説世界にやってきたんだなと感じさせられる光景だ。

でも、少しだけ落ち着いたら…この羽音に耳を傾けて眠ってみたい。


そうこうしている間に、パシフィカの舞もそろそろ終わりらしい。

周囲の精霊たちは目を閉じると同時に、光の球体になる。

太陽の精霊の活動時間は日中のみ。

それぞれに家をもっているけれど、帰ることはないようだ。

ここで、再び太陽がやってくるのを眠って待つらしい。


「…耳栓をして聞こえないと思うけど、おやすみなさい」

「また明日な」


隣で解説してくれていた子供たちも、同じように光の球体になる。

眠ってしまったらしい。


「ええ。また明日ね」


二人に手を振りながら、私もまた挨拶を済ませた。

そろそろ日が沈む。

遠くに見える太陽が山間に沈んだ瞬間、パシフィカの挨拶も終わりを迎えた。


「…ふう」

「パシフィカ。お疲れ様」

「ああ、アリア。どうでしたか?」

「凄く綺麗だったわ。朝も貴方が舞うの?」

「いいえ。明日の朝は明日の当番の者が舞いますよ」

「そう。凄く綺麗だったから、朝も貴方の舞を見たかったわ」

「…お褒めいただき、ありがとうございます。嬉しいです」


「そういえば、貴方は眠らないの?」

「もうしばらくしたら。眠る前にこれを見ておきたくて」

「精霊たちが眠った光景を?」

「ええ。綺麗でしょう?」

「そうね。幻想的な光景だわ」


スメイラワースに精霊がどれほど住んでいるのかはわからない。

けれど、ここに集まった精霊以外にもこの場所は太陽の精霊が溢れている。


「スメイラワースには、街灯がありません。理由は何故かわかりますか?」

「これがあるから?」

「いいえ。設備を導入できる立地ではないからです」


砂漠地帯のほぼど真ん中。周辺には魔物が多く、大きな荷物を搬入できる状況ではない。

街灯の設備なんて遠い話と言わんばかりに、パシフィカは目を細めた。


「ここは要塞都市。我々太陽の精霊は…スメイラワースにやってきた方々を守るのが使命です」

「家に帰って眠らないのは、夜を照らすため?」

「ええ。我々が街灯の代わりとなり、旅人達の夜の歩みを守る。その為に、外に集って眠ります」

「…貴方達が眠っている間、誰がこの都市を守るの?」

「この地に住まう友好的な他種族に委託していますよ。私達が眠っていても、問題が無いようにしています。宿まで送りますよ、アリア。安心して眠ってください」


けれど、それだとおかしい部分があると思う。

眠りかけのパシフィカに聞くのはなんだけども、疑問は解消しておきたい。


「でも、貴方は昼間、水を求めていた人を実質敵だと見なしていたわよね」

「…」

「市場の精霊もそうだった。旅人は身元の保証がされているから安心だなんて、変なことを言っていたわ。まるで、貴方たちには敵がいるみたい。あの人もそうだったの?」

「それは、そうですね。守るべきではない害は一定数存在しています」

「…それがどういう存在なのかは、教えてくれたりする?」

「また明日、と言いたいところですが…今、伝えておきましょう。貴方の夜の無事の為に。この地に巣くう邪悪の存在を」


意を決したように、パシフィカが敵の存在を伝えてくれようとする。

その瞬間、パシフィカの後ろにある砂がなぜかパシフィカを狙って飛来する。


「危ない!」

「ひゃっ!?」


パシフィカに飛びかかり、体勢を崩して飛来した砂に視線を向けた。

まだ、動いている、

魔法の類い?もしかしてノワ…ではないだろう。彼女の魔力は一切感じない。

じゃあ、これは一体———!


彼女なら、高らかに自分の存在を主張しながら魔法を放つだろう。

おうおうおう!アリアに手を触れるなよぉ不埒者ぉ!この方がどういう存在かわかってやってんのかあぁん?…とか、小物ムーブをかましつつ現れそうなのは、何でだろう。

一咲ちゃん…私が抱いている一咲ちゃんの印象って何なのかな。最近わからなくなってきた。


それに彼女ならパシフィカの顔を知っているはず。忘れていなければに限るけれど…私が側にいるのだ。ホイホイ攻撃を行うわけがない。

いたずら程度の魔法なら使うだろうけど…こんな攻撃性の高い魔法を使うわけがない。


「パシフィカ。砂が動いている現象に心当たりは?」

「敵…砂の精霊なら、砂を操れる。奴らはいつも夜になるとスメイラワースに侵入してきます」

「目的は、窃盗かしら」

「それもありますが、一番は壁の破壊。アリア、もう少ししたら夜間防衛を委託している他種族が来てくれます。だから」

「逃げろと言いたいのね」

『いたぞ!眠っていない太陽の精霊だ!』

『殺せ!』


周囲にパシフィカを見つけた砂の精霊が現れる。

大丈夫。ここまで私だって…何もしてこなかった訳じゃない!

聖剣を抜き、パシフィカに襲いかかってくる精霊を切り刻む。


「幼いのに、戦えるのですか…アリア」

「太陽の精霊は、眠ればその場に固定されるのかしら?」

「え、ええ…そうです。目覚めるまでは、何人たりとも手出しはできません」

「じゃあ、眠るまで貴方を守ってみせるわ」


襲撃してくる精霊の相手をしつつ、パシフィカと今後の相談をしておく。

眠ればこちらの勝ち。パシフィカが眠った後、ノワと合流して対策をとろう。

できればその委託しているらしい夜間防衛の組織とも話したいな。協力できると思うし。


しかし、この砂の精霊たちの目的は何だ。

砂ということは大地の関係。女神に関係しているのかもしれないけれど…。

物語としては些細な出来事を覚えている訳ではない。

せめてパシフィカから聞ければいいんだけど、今は眠って貰うのが先だ。

事情は後で夜間防衛組織やノワに聞いてみよう。何か知っているかもしれないし。

…できれば早めにノワと合流したい。宿屋の方に回りたいが、流石に向かわせてはくれないか。


「パシフィカ!移動するわよ!」

「え、ええ…でもアリア、それ…アヴァンスで…え?え?」

「そういうわけよ。詳しい話は明日にでも。今は貴方が安全に眠れる場所を探すわ。眠るまでに何分かかる?」

「落ち着ける場所で、十分…ごめんなさい。私、他の精霊より寝付きが悪くて」

「それぞれの個性よ。気にしないで!」


パシフィカの手を掴み、私たちは砂がうごめく音を背に、落日都市を駆け抜け始めた。

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