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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第2章:要塞都市「スメイラワース」/精霊たちの条約

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10:賢者様の些細?なおねだり

「…なにこれ?」

「ミルク粥よ」

「詳細の説明をよろしくお願いしたいところ」

「スメイラワースの郷土料理ね。ここでの病人食という扱いよ」

「ふむ。見た限り米を使用しているようだけど…」

「ええ。ココナッツミルクで米を炊き、それに特産品であるサボの実を混ぜて味を調整しているそうよ。意外にも甘さは少ないらしいわ」

「へ、へえ…ココナッツなら、いけるかな」


ふと、ノワの表情が緩められる。

そういえば、一咲ちゃんは牛乳が苦手だったな。

ミルクと聞いて身構えていたのかもしれない。


「ふふっ…」

「何?」

「今も昔も苦手なものが全然変わっていないなって」

「まあね。今も全然ダメ。これも牛乳で作ったと思って焦ったけど、ココナッツミルクなら牛乳とは味が違うだろうし、いけるかなって」

「食べたいと思って貰えて嬉しいわ。サボの実もココナッツミルクも栄養豊富だそうだから、今の貴方にはちょうどいいと思うし、ほら」


スプーンでミルク粥を一口分すくい上げ、ノワの口元へと運んでみる。

けれど彼女は湯気立つそれから顔を逸らした。


「何よ」

「食べさせてくれるのは予想外。でも、熱いのは嫌だから、ふうふうしてよ」

「…さっきも言っていたわね。ふうふうをご所望だって」

「定番じゃん」

「何の定番なのか全然わからないけれど、やらないわよ。自分でやりなさい」

「さっきはしてくれるって言った」

「適当に相槌を打ったのは申し訳ないと思っているわ」

「その申し訳なさは、私へのふうふうに還元して?」


…なぜそこまで「ふうふう」にこだわるのだろう。

そこまで大変なことじゃないけれど、ここまで熱くリクエストされたら、逆にやりにくい。


「…どうしてここまで」

「甘えたいお年頃なもので」

「私より年上でしょう?」

「年上でも甘えたい時があぐべば!」


全てを言い切る前に、スプーンを彼女の口に突っ込む。

熱々のそれは彼女の舌の上に落ち、彼女自身も舌も踊り出してしまう。


「あつつつつつつうつつつつ!ほわぁ!ほわっ!ほわああああああっ!」

「でも中身は同い年」

「ほうはへほ…」


ノワは黙り込んだ後、杖を手に取り、足下に魔法陣を出現させる。

何らかの魔法を使っているようだが…何を使っているかはわからない。

しばらくすると舌も慣れたのか、話を再開してくれる。


「それは言えてるけどさぁ…唐突に熱いのを口に入れるのはやめた方がいいよ?」

「物わかりの悪い子には、多少痛い目を見せた方がいい」

「師匠みたいな事言わないでよ…」

「けど、あんまり我が儘ばかりだと、私は流れで追放しちゃうわよ」

「流れで追放って何!?」

「相手が面倒くさくなったら、その心に任せて追放しちゃうかもってこと。追放したい私が言うのもなんだけども、貴方は追放されたくないんでしょう?だったらもう少し利口に生きて」


「善処はするけど、そんなことよりさぁ…まだ私を追放したがっているんだ」

「それが私の役目だから。相手が一咲ちゃんでも手加減はしない」

「…それは困ったね。これは私も必死にしがみついてやらないと」

「かかってきなさい。きちんと追い出すから」


威勢を張ってみる。気で負けたらその時点でおしまいだから。

けれど、一咲ちゃんと一緒にいたい気持ちと、ノワを追放しないと行けない気持ち。

どちらも同じぐらい大事で、捨てたくなくて。

———いつか必ずどちらかを捨てなければいけない。


「…」


迷いがあるから、彼女の追放が上手くいかないのだろうか。

彼女みたいに「追放されない」ことに一心であれば…私も。


「…アリア?」

「なんでもないわ。それから、これは今回だけよ」


悩みを考えないように、別の行動に入る。

スプーンで再びミルク粥をすくい、今度はそれに息を吹きかける。


「ふう…」

「え、え、え、え、え!?」

「ふう…これぐらいで、いいのかしら?」

「マジでしてくれたんですか」

「今回の、これっきりだけ。火傷させたお詫び…」

「怪我の功名とはこういうことを言うのかもね」

「さあね…」


差し出したスプーンに若干の重みが入る。

先端はすでにノワの口の中。表情から察するに、熱さはほどよいものだったらしい。


「うん。さっきより甘さがよく感じられるよ」

「それはよかったわ」

「え、アリア。お盆ごと押しつけてどうしたの?二回目は?」

「これっきりって言ったでしょう?後は自分で食べなさい」

「甘くないねぇ」

「いいでしょ、別に」


今いるこの時間が心地よくて、手放しがたい事は理解している。

ノワと…一咲ちゃんと過ごす時間は私にとって当たり前なのだから。

前世では途中で終わってしまった時間の続きを、今望むことは…おこがましいことなのだろうか。


それもそうか。私は、来年には死なないと行けない。

ノワを追放して、物語を始める。

転生していたときから覚悟はしていたでしょう?

これから先も、一咲ちゃんと一緒に過ごす事は叶わない。


こんな私に出来るのは、彼女を無事に始まりまで送り届ける事。

追放したくない。一緒にいたい。

心がぶれるのは…許されない。


「…少し、外に出てくるわ」

「また外に行くの?」

「食事のお礼もしに行かないといけないから。それに、街の探索だってまだ途中だし」

「具合、よくなってきたから私も…」

「貴方はまだ本調子ではないでしょう?しばらくここに滞在するのだから、体調を万全に整えなさい。それも立派な仕事よ」


彼女の身体を気遣っているフリ。

本当は、一人でいたいから。今は一緒にいたくないから。

ゆっくり考える時間が欲しいから…私は彼女に優しさという嘘を吐く。


「アリア。君は聖剣を使って戦えるようにはなったけれど、まだまだ見習い剣士並みの実力だ」

「わかっているわよ。戦闘は避けるわ」

「うん。それから人通りの多い道を歩くんだよ。夕方、明るいうちには帰ってくるんだよ」

「口うるさいわね。貴方は私のお母さんかなにかなの?」

「それぐらい、心配だってことだよ」

「心に、留めておくわ」

「うん。気をつけてね」


彼女からの心配を背に、私は宿の部屋を出て行く。

心の底から、ノワは心配をしてくれていた。

彼女なりに何か直感で感じ取っていたのかもしれない。

または、師匠と同じ事ができていたのかもしれない。


———今晩、私はこの部屋には帰ることができなかったのだから。

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