9:教会の勇者
一方、私とノワとパシフィカは都市に訪れたとき、必ずやっている挨拶をしに教会までやってきていた
「こういう宗教だからこそ、ですかね。他の都市に比べて気合いの入り方が違いますね」
「元々、聖教都市に建築されている建物のほとんどは芸術都市にいる建築家や設計、芸術家がデザインしたものが多いんだ。だから、ここにあるのは聖教都市・・・それ以上に力が入った代物が多かったりするんじゃないかな」
「よくご存じで」
ノワが淡々とパシフィカと会話する様子を、私は背後から見守ることしかできない
二人の間に入るべき、なんだろうけど・・・
「自分の世界の事だから。当然。そういう貴方は?この世界に長くいる割には、知らないことが多いようだけど」
「私は元々スメイラワースに籠もっていましたので。外の世界の事は二百年ほど生きていますが知らないことの方が多いんです」
「そう」
なんだか、ピリついているんだよなぁ・・・
言葉の節々がきつく、声はいつもより高くて、二人とも笑っているのに、心の奥底は全然笑っていないし和やかからほど遠い
ノワとパシフィカが怖すぎて、周囲は道を開ける始末
・・・私、ここにいていいんだろうか
いや、いないとそもそもこの移動すら成り立っていない
じゃあ、この状況って一周回って私のせいということでは・・・
・・・早く終わらせて、さっさと帰ろう
この空気は流石に持たない!
「と、いうか・・・二百歳、超えていたんだ」
「知らなかったのですか?」
「独り言拾わないでよ」
「聞こえたので。で、私の実年齢を貴方は知らなかったんですか?」
「興味なかったのもあるけれど、そもそも私はパシフィカと全然会話をしなかったから。スメイラワースって今も残っているんだっけ」
「ええ」
「・・・私の時と違うんだね」
「貴方の時は、確か壊したんでしたよね」
「まあ。砂と太陽、両方止める方法と言えばあれぐらいしかなかったし・・・」
「・・・対話とか、しようと思わなかったんですか」
「する必要はない。どうせ双方共に自分達へ都合がいいことしか言わないから」
「・・・」
ノワがどんどん前に進む後ろで、パシフィカが背後を歩いていた私の方へ寄ってきてくれる
「どうですか?」
「どうって、その・・・」
「物語ノワの動向です。貴方とは会話こそしますが、表面的な事ばかりなので。私との会話で少しでも本心を引き出せたらと思ったのですが・・・」
「なかなかに深そうだね」
「ですね。まさか対話が嫌でスメイラワースを破壊していたとは思いませんでした。本を読んで、私のノワへ抱く殺意やっば・・・と、自分に対して思っていたのですが」
そういう背景を聞いてしまうと、申し訳ないが・・・物語パシフィカの方に感情移入をしてしまう
物語上でミリア、パシフィカ、エミリーが加入した背景はざっくりとしたもの
そして三人はそれぞれノワに並々ならぬ恨みや怒りを抱いていたことは、読者側の私も理解をしていた
しかし、賢者ノワは良くも悪くも「ノワ視点」の話
ノワが興味を抱かないことは、読者側も知らない話になってしまうのだ
「・・・流石に、こんな話を聞いてしまえば、思うところがあるよ。それにどうして物語のアリアは彼女を止められなかったのかなって」
「彼女の性格だと、アリアの言うことは聞きそうな気がするのですが・・・物語アリアは「世間知らずの我が儘お嬢様」でしょう?特に何も考えず、ノワにおまかせしていたのではないでしょうか」
「た、確かに・・・」
「私も本を読むまで、アリアと言えば貴方と同じな印象を抱いていましたので・・・。心優しい少女かと思いきや、あんな我が儘な」
「・・・アリアは優しいよ!今と同じぐらい、優しい子だ!馬鹿にするな!」
無音の教会に響くほど大きな声で、ノワはそう言いきった
私とパシフィカは呆然として、彼女が先に進む姿を眺めることしかできなかった
「・・・あんな声出せるんだ」
「一咲が入り込んでいるときにしか出せないと思っていました」
やはり、物語上でノワとアリアには何かあったはずだ
だからこそ物語ノワはアリアに執着する
彼女が死んで、手記に残した言葉以外にも・・・何かあった筈なんだ
「アリアがアングスフェアリレンになった後で公表された手記・・・あれにはノワに対して「貴方ならできる」「ごめんね」としか書かれていなかったんですよね」
「・・・それだけで、何か通じるのかな」
「彼女には通じた。だからこそ、その先の物語が存在した。ここも原作四巻の舞台です」
「四巻では、何があるの?」
私はあれから原作を読み進めることができなかった
パシフィカ達は半年間で最新刊まで読み進めたらしい
今はもう、彼女達の方が「物語」の知識は深いのだ
ちなみにだが、最終刊の原稿も鴇宮さんの遺品の中から見つかっている
けれどこれは、一咲がギリギリまで伏せて、最後に全員で読み込んで「この先の戦いをどうするか決めよう」と話をしている
「四巻では、襲撃をかけて来た悪魔が洗脳した魔法規制派組織の面々をノワにぶつけた話でしたかね」
「なんとなく、オチが読めるんだけど・・・」
「規制派もろとも、悪魔をぶっ殺しているんですよね彼女」
「やっぱり・・・。悪魔の名前は分かっている?」
「いいえ。最後まで下級の悪魔としか書かれておらず。ネームドエネミーではないようなんです」
「悪魔はただの舞台装置で、本命は魔法規制派組織との対立・・・だったのかな」
「そうとも考えられますね」
まさかここに来て人間を相手にすることになるとは
でも、やらないと先には進めない
「・・・一咲は、無血勝利の道を探してくれると思う。私達がやるのも、致命傷を与えずに戦うこと」
「そうですね。スメイラワースでもそうしてくれた。ノワが全てを破壊するしかないと決めた種を、彼女は残す道を選んだし、選べた。あの魔法使いなら成し遂げられると、私も思いますよ」
「信頼してくれているんだね、一咲の事」
「信頼をしてくれているからこそ、私もその信頼に応えたいと思うぐらいには、信頼していますよ」
「そっか」
最初はギスギスしていた一咲とパシフィカも、いつの間にか打ち解けていた
時間があれば、ノワとも打ち解けられるのかな
そんなことを考えていると、周囲から何かが響き渡る
「・・・悪魔が進入した警報音」
「来ちゃった・・・」
「アリア、この音って・・・」
存在は知っていたけれど、初めて聞くことになった悪魔の進入警報
今回、対面する相手が早速お出ましのようだ
とりあえず外にでて状況を確認しよう
ノワとパシフィカに目配せをした後、私達が教会を出ると・・・
「もぐーん。私、大地に立つ」
「ヴェル!?」
「さっきぶりだねアリア。全員無事であらせられるようで」
「う、うん。ヴェルはどうして」
「ご主人から指示を受けてきた。ミリアと曾ばあばはマジックポケットだから安心して」
「本当に便利ですねそれ・・・」
「警報は聞いたと思う。ご主人とエミリーは今、お姉ちゃんの回収を行うために図書館に向かった。私達も行く?」
『アリアー。アリアー』
「どうしました、鴇宮さん」
マジックポケットの中から、鴇宮さんが呼んでくるので耳を傾ける
ポケットの中にいても、会話はできるらしい
『図書館の方へ向かってください。気になることがあります』
「どうして」
『先程、べっさんが髪を足下まで伸ばしたみたいな感じの少女が図書館に向かう姿を宿から見ていました。他人のそら似と言えばそうなりますが、このタイミングの悪魔警報にべっさんに似た存在・・・何か繋がりがある気がして』
「ベリアによく似た、髪が長い少女・・・?」
「・・・うちのお父さんかも。特徴が合う。でもなんでここに?物語上でもお父さんは出てこなかったのに」
「とりあえず、鴇宮さんが言うとおり図書館へ向かいましょう。もしもがなくても、一咲達と合流はできますから」
「うん」
パシフィカが羽根をシャンっ!と、出し、ゆっくりと宙に浮く
「アリア、お手をどうぞ」
「お願い、パシフィカ」
「ノワは飛べる?」
「自前の杖があるから・・・」
「お前も杖を箒扱いするタイプ・・・まあいいや。ついてきてね。うちの精霊、アホみたいに速いから」
「ん・・・あ」
パシフィカの手を取り、彼女から抱きしめられながら、空に向かう
トップスピードで図書館への空路を駆けるパシフィカ、それに併走するようにヴェルが飛んでいく
「パシフィカって、飛べたんだ・・・」
その後を、杖に乗ったノワが追いかけてくる
私達が一咲に合流し、今回相手すべき存在と対面するまでもう少し




