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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第7章下:鈴海第零区域/福音の鐘は星の光と瞬く

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???:再起動導線を超えて

7歳の時に、能力に目覚めた。


鈴海は能力者が住まう島だ。こうして後天的に能力が発動するケースも珍しくはない。

だけど、それは一般家庭の話。


「我が家から能力者が出現しただと…!?」

「…紅葉が、能力使えるようになっちゃったみたいなの」

「お前…っ!」

「ち、違うわ!二ノ宮を裏切ることはしていないわ!紅葉が生まれる前後、私はずっと葉太と一緒にいたもの…!そうよね、葉太…!」

「う、うん…お母さん、僕のお受験のお勉強でずっとお家にいたよ…!」

「じゃあこれはなんなんだ!」

「わからないわよ!」

「…お母さん、お父さん。喧嘩し」

「寄るな化物!」

「来ないで!」


揉める両親を止めるために声をかけた。

だけど、両親は俺の歩みを拒絶する。

見たことがない歪んだ顔。

目の焦点がブレる程に怯えきったその表情を、俺は忘れることはできやしない。


二ノ宮家は、鈴海唯一の「能力者を拒絶する家」

非能力者家庭として本土とのパイプを繋ぎ、鈴海の発展を担う家。

非能力者である事をひがむと同時に、誇りに感じている我が家にとって、見下すべき能力者が家系から誕生したというのは許される事態ではない。


「…お兄ちゃん」

「…紅葉」


助けを求めるように、葉太兄ちゃんに視線を向けた。

どんな時も優しくて、出来の悪い俺を可愛がってくれた葉太兄ちゃん。

葉太兄ちゃんなら、味方になってくれると信じていたから———。


「…ごめん」

「———っ」


だからこそ、見捨てられたことが酷く堪えた。

葉太兄ちゃんは耳を塞ぎながら、リビングを後にする。

それからは両親の罵声を耳にしながら、家を追い出された。


「開けて、お母さん。お父さん。俺、何か悪いことした?」

「悪いことしたならちゃんとごめんなさいするから!」

「だからお家に入れてよ!」


両親に懇願する声は聞こえない。

何度もドアを叩く。

手が血だらけに、声も枯れ始めた頃に警察も来たけれど、二ノ宮の事情を知っているから…同情はするけれど、両親の説得をすることはなかった。


二ノ宮家は能力者を拒み続ける。

例えそれが血縁者でも。

ついさっきまで兄弟をしていた相手でも。

自ら腹を痛めた子供であろうとも。

———俺の存在はこの家にとって呪いであり、許されるものではなかった。


だけど俺はこの境遇を恨んではいない。

能力者を拒んでくれたからこそ———あいつと出会えたのだから。

家族から呪われた紅鳥と、自分を呪い続けた青鳥が出会うまで、もう少し。


◇◇


10歳の時。

両親に捨てられた事を理解して、外を彷徨う内に裏路地に辿り着いた。

ここは俺みたいに親に見放された子供が集まる場所。

全員が全員協力して生活しているわけではないけれど、それでも毎日を穏やかに過ごしていた。


「君が…この裏路地を指揮しているのかい?」

「…誰だよ、おっさん」

「…俺は赤城白露。鈴海大社の職員だよ」

「知らねえよおっさん。大人は帰れ」


そんな中、裏路地にやってきた男が赤城白露。

時雨と和夜の父親で、俺の相棒になる男の復讐相手。


「困ったなぁ。二ノ宮の嫡子、滅茶苦茶グレてるじゃん…」

「荒む出来事が沢山あったからな」

「そうだ!その有り余った才能を使える環境があるんだけど!」

「鈴海大社への勧誘か」

「そ、そうだねぇ…なんでわかるの」

「いいぜ。衣食住も手に入って都合が良いからな」

「…物わかりが良い」

「そりゃそうだ。赤城白露。ああ…椎名夫妻殺人事件の犯人。その片割れと言うべきか?」

「…何を言うんだい?」

「別にばらしやしない。その代わり俺の大社入りの支援を全力でやれ」

「…君の目的は?」

「椎名譲との対面を、盤石にする」

「…譲君と?」

「ああ。俺と二人で…今度こそ理想の世界を手に入れるために」

「君達の理想って、なんだい?」

「…俺たちが十二の時に死ぬお前に何を言っても無駄じゃないか?」

「そう…何も知らされず、君の為に行動する者へ最大限利用される、か…ああ、これが俺への罰なんだね…譲君」


適当に子供として付き合う時間も悪くなかったけれど、やっぱりこの男は動きを抑制しておかないと。

柊にいいように利用されて、最後の末路が更に酷くなる。


赤城白露。俺はお前に恩を感じているけれど、やっぱりお前のことが嫌いだよ。

お前が何の為に椎名家を襲撃したのかは、理解を示す。全ては娘の為だということも。

でも、やっぱり。

———許すことは、出来やしない。


◇◇


12歳の時に出会ったあいつは、既に特別な存在だった。

魔力の調整を行う為に、足下まで髪を伸ばしていた女にも見間違う容姿を持つ同い年の少年。

真っ白な髪なのに「青鳥」

能力者だらけの鈴海。能力者達が暴れ回らない為の「圧倒的な強さ」故の「抑制剤」であり、父親と同じようにこの地に安寧をもたらすことを望まれた魔法使い。

それが俺の相棒に与えられた立場。

あいつは元より多忙。関われるようになるまでそこそこの時間がかかるのだが、今回も無事に縁を結ぶことができた。


「…」

「伊奈帆さん、譲また寝てる?」

「おー。ぐっすり」


まともに関わるようになってからも、一緒に過ごせる時間というのは非常に少なかった。

鈴海一の魔法使い。その最大の弱点は生まれつき身体が弱かったこと。

膨大な魔力に苛まれ、それを毎日消化しなければまともな生活が出来ない上に…薬無しでは生きられない。

世界を背負う役目を担う魔法使い。

普通とはほど遠い人生を歩む彼は、もしも魔法がなければもう少し楽に生きられたか…なんて考えた事がある。

最も…「目的」がなくなるせいで早死にするだけだったが。


薬の飲みカスは起きたら処分するつもりらしい。

これからどんどん増えていくそれらを一瞥した後、俺はそれを両手で包んで…ゴミ箱に捨てた。


「紅葉」

「んー?」

「お前、夜雲よりは譲と一緒にいる時間が多いよな」

「俺も譲も室内で過ごす方が好きだからな。対して夜雲はアウトドア…」

「意外だよな。紅葉はてっきりアウトドア派かと思ったのに」

「絵を描く方が楽しいもんで」

「そうかいそうかい。あ、私仕事があるから。後頼むわ」

「ガキに病人の世話押しつけんじゃねえよ」


伊奈帆さんを見送り、ベッドサイドの椅子に腰掛ける。

別に外遊びが嫌いというわけではない。

身体を動かすのは大好きだし、昔はそうだった。

でも、今は…。


「あかば…?」

「あー…起こしたか?おはよ、譲。体調は?」

「まだ怠いかも…」

「じゃあもう少し寝とけ。今日は非番だろ?」

「ん…」


力なく伸ばされた手を握りしめる。

もう二度と離さないようにと誓ったのは、いつだったか。

俺の唯一無二の相棒が生きられる時間は二十年。

すぐにこぼれ落ちる時間をかき集めても、譲が大人になれる時間は掴めないまま。

今度こそ、大丈夫だよな。譲。

今度こそお前は———俺と一緒に、大人になれるよな?


◇◇


十二歳の夏。

譲が変な地縛霊と浮遊霊を拾ってきたらしい。


「…ああ、もうそんな。教えてくれてありがとう」

「譲、そろ」

「桜哉、ケースを取ってくれるかな」


…薬の時間を伝える仕事も、あっけなく奪われてしまった。

薬ケースが宙に浮き、譲の手のひらに載せられる。

…地縛霊の分際で、物質に干渉するなよ。


「ありがとう、桜哉」

「…心配そうにしているね。大丈夫、当たり前の量だよ。一年前よりは、増えたけれど」

「ほら、水もそう言っているだろう?」


もう一人は女の幽霊らしい。

確か、深見水。元々大社附属病院に勤務していた看護師…だったかな。

使う能力は空間を繋ぐ…感じだったかな。あいつの能力はよくわからない。


もちろん俺は幽霊の類いが見えない。

顔も知らない。姿も声も認識できない。

だけど、向こうは俺の事を監視できて、譲に報告できる。

…厄介にも程がある。


それに、二人揃って強さも星紋も申し分ない。

特に舞園桜哉の方は、父親———椎名愁一と似たような系統の星紋を使うからか、譲も非常に懐いている。


結界を構築する能力…ねぇ。

こちらは自らを守れるみたいだけど、譲を守れる強度はあるのだろうか。

俺がいない間も譲は任務に駆り出されている。

…何かあったらすぐに成仏させてやるからな。


譲に声をかけるきっかけを見失い、ふてくされたままスケッチブックを開く。


「…ん?」


ふと、机に転がした鉛筆が持ち上がり…スケッチブックに文字が書かれる。


『こんにちは、二ノ宮紅葉君』

『私は深見水。水ちゃんって呼んでね』

『いつも譲君からお話聞いてるよ』

『私達は幽霊らしい関わりしかできないし、私も桜哉君も「大人」だから、譲君とは同年代らしい付き合いはできないの』

『これからも、あの子が一番信用できる友達でいてね』


それだけ書き終えたら、鉛筆は再び元に机の上に転がった。

…余計な心配ばかりしやがって。

どんな事になろうとも、俺はあいつの友達であり、親友で相棒だ。

その座は誰にも渡すことはない。

俺さえいればいいじゃないか。

…俺を手放さない理由があれば、お前は俺を側にいさせてくれるか?


◇◇


十四歳になった。

譲の仕事は更に増えていく。


ここから先は何があってもおかしくはない。

だから先に、先手を打つ必要がある。

大事な画材を何度も壊して、そのたびに譲に修理を依頼した。

確か五千回目ぐらい繰り返せば…やっと譲側も面倒を覚えて「あれ」を寄越してくれる。


「…また画材を壊したのかい?」

「すまないなぁ。魔法で修理できる?」

「…ん」

「…何これ」


譲から押しつけられた紙は俺が欲しかったもの。

今後、何があっても必ず必要になるものだ。


「魔法陣だよ。一部空白になっている部分があるだろう?」

「おー」

「そこに数字を入れ込むことで、その日付分時間を巻き戻すことが出来る魔法陣」

「すげー。流石譲。そんなこともできるんだなぁ。ありがとう。大事にするよ」

「いいって。いつもお世話になっているし、日頃のお礼みたいな…」

「お礼とか考えなくていいって。俺たち、親友だろ?損得無しの付き合いができる存在」

「…そうだったね。じゃあ、誕生日プレゼントということで」

「まだ八月だぞ」

「誕生日の前払いは許されないのかい?」

「許す!」


背後から抱きついて、じゃれるような時間を過ごす。

小さな部屋の中。互いの趣味で散らかる部屋で笑い合えていた日々を忘れない。

この魔法陣は、どんなことがあっても大事にするから。

絶対に、何があっても。

お前がくれたものは、なにも無駄にはしない。


◇◇


十五歳になった。


「…本当に僕と誓約を結んでいいと思っているのかい?」

「結びたいから、声をかけたんだろうが」


「誓約」という互いに科せる絶対的な約束の魔法。

生涯で一度だけ。心に決めた相手としか結べないそれを誰とやるかは決めていた。

一回り小さくなった譲の肩を叩いて、彼の迷いを消していく。

…今回も、性徴期が遅れているらしい。

最近は療養の為にしていた温泉巡りも拒絶し始めた。まあ、病的に痩せ細った胴体も、遅れている成長も見られたくないんだろうけど。

それでも、友達としての付き合いは続けてくれている。


「でも、どんな誓約を?」

「互いに生き残る誓約」

「いいね。変なところで死なないでね、紅葉」

「お前こそ、病死するなよ。譲」

「「二人で穏やかな老後を過ごそう」」


互いに結んだ誓約は強固に。

その証は互いのネクタイに刻んで、譲は左腕に、俺は右腕に身につけた。


この誓約は大事なもの。

これを結ばなければ、譲から枷が消える。

これから復讐を果たす以外にも自死のリスクを厭わなくなる彼に、誓約で自死のリスクを消すのは、必要なことだ。

十七歳のあれも、必要なことだろう。


また、二人の理想を結べたな。譲。

今度こそ、一緒にお爺ちゃんになって「あんなことがあった」なんて思い出話をしながらひなたぼっこしような。


◇◇


十七歳になった。

高陽奈で能力関係の事件が発生し、俺たちが調査に向かうことになった。


最初は譲が先行して行く予定だったが、あれは呪詛関係の事件。呪いには浄化能力が必須。

だけど譲は何故か知らないけれど、浄化魔法が使えない。

そういう訳だから、浄化能力を持つ俺が先行して高陽奈の調査を担うことになった。


「はじめまして、二ノ宮君。譲から兼々話は聞いているわ」

「俺も聞いているよ、熱海。ここ、初めて来たし知り合いもいないから…色々頼らせて貰っても?」

「勿論よ」


熱海千早。十二歳の時、深見水が合流したきっかけになった事件を譲と共に解決へ導いた「目がいい」能力者。

彼女の目は魔力の流れも幽霊も映し出す。

千早の事は一人の女性として好きだ。知性的なところも、まっすぐなその性格も、俺に無いものを持っているところも…全部愛おしく感じる。

だけど、最近鈍ってきた気がするのはなぜだろうか。

…目的が出来たせいだろうか。


千早は今後、俺の成長に必要な存在でもある。

同時に千早には譲とくっついて貰ったら困るんだ。

八月の花火大会。千早とはぐれたら、彼女は光輝と一緒に遊びに来ていた譲と合流してしまう。

この流れはある意味幸福と言える道筋を作れる。譲も二十六歳まで生きられたけど…。

同時に、壊してしまう時間にもなる。

…やっぱり「綾」じゃないと、あいつを本当の意味で救うことはできやしない。

だから、ここは絶対に避けなければいけない道筋だ。


十二月には勝負を決める。

譲がサプライズ目的で高陽奈に訪れ、俺たちの様子を伺っていた気がついたのは何回目だったかな。

まあ、少し照れくさいが…都合が良い状況だ。


これで譲のトラウマを誘発できれば、元々知り合いの女性以外は苦手だった譲は女性に触れることさえ出来なくなる。

他の女が触れるきっかけを除去し、時雨を近づけやすくなれる。


「…大好きだぞ、千早」

「…本当に?」

「なんで聞き返すわけ?」

「なんというか、義務感を感じた」

「…疲れかな。でも、気持ちは本当だって。俺が単純なこと知ってるだろ?」

「知ってる…けど」

「けど?」

「…ううん。なんでもない。貴方は、貴方よね」


千早の疑念を無理矢理取り去り、普段の時間に引き戻す。

———本当に、勘がいい。


◇◇


十九歳になった。

病院通いをしていた譲が変な交友関係を作ってきた。

俺にも紹介をしたかったらしく、俺もまたそこへ訪れることになった。


「ししょー。誰そいつー」

「…二ノ宮さんだよ。一咲ちゃん」

「そっかそっか。忘れていたよ!ええっと…」

「霧雨永羽だよ」

「ああ、永羽ちゃんか!ごめんねまた忘れていたよ!」

「いいんだよ。そういうことだってわかっているから」


鈴海大社附属病院———終末病棟。

完治の見込みが無い患者の緩和処置を中心に行われる病棟だ。

…譲も元々ここにいたし、なんなら定期的にここへぶち込まれている。


「今日は僕の事を覚えていたんだね、一咲さん」

「記憶にムラがあるもので!」

「ドヤ顔して言うことじゃない」

「へへ〜!」


記憶を失う病を持つ友江一咲。

そして魔力が常に暴発している病を持つ霧雨永羽。


終末病棟で過ごす彼女達と譲が出会う確率というのは非常に低いが、ここは確実な物にしておかないといけない。

友江一咲と霧雨永羽は俺たちの鏡映し。

彼女達の関係を見守ることで、譲は俺との間柄を回顧する事が増える。


そして彼女達が抱く願いこそ、鈴海第零区域への導線。

譲が譲であれば転送魔法の仕掛けを攻略してしまう。

第零区域に彼が出向かないと、湊川智久と久世五菜、そして赤城時雨と江上和夜が死んでしまう。


『ごめんなさい譲君。ごめんなさいごめんなさい…僕だけになって、どうしようもなくて…!』


あの現場で生き残ることができるのは、伊依だけになる。

…あの後、一人だけ生き残った罪悪感で伊依も壊れてしまう。

伊依のような強力な回復術士がいない最終戦は、多大な被害を出してしまったな。

伊依にはきちんと帰還して貰わないといけない。


それでいて、春風柊の暴走を抑えられるのは俺を除けば譲のみ。

あいつは本当に強かった。多くの被害を出した。

俺があいつを殺すまでに、優梨も光輝も、浩一さんも夜雲も全員死んだっけ。


春風柊の相手は譲にしかできない。

そして勝利を確実にするために、譲の枷を外す必要がある。

自分を呪い続ける枷と、椎名久遠が取り付けた魔力制限の枷。

必要なのは、それらを「略奪」できる赤城時雨の能力だけ。

なぁに、思い出は一時的に消えるだけ。

…忘れられるのは、堪えるけれど。仕方の無いことだ。


さあ、その音を奏でて叶えてくれ———久遠。

譲の願いと、俺の願いを。


◇◇


二十歳になった。

久遠を使うきっかけを与えた譲は無事に記憶を失い、養母の計らいで「一久」と偽名を与えられて、残りの寿命を普通の子供のようにのんびり過ごせるよう仕組まれた。

…愁一と久遠。奇しくも、産みの両親の名前を一文字ずつ貰った名前。


「…」

「今回の監視はあの子なの、紅葉」

「んー」


一久の様子を遠目で伺いながら、監視業務を続けていく。

千早と過ごしながらでも行える仕事だ。

…こういう仕事も、何度かやったな。

譲の両親が生きている時間軸。譲はやっぱり病死するけれど…。

護衛として側にいた時間も、悪くはなかったな。


「それにしても、あの子…譲と魔力が」

「気のせいじゃないか?」

「私の目を信頼していないのかしら」

「そうは言ってない」

「…戸村一久。医学部にいるらしいけど、これまで名前は聞いたことないのよね。夏乃先生と同じ苗字だし、なにかあったりしないかしら」


本当に、勘が良すぎる。

千早と一久は、あまり接触させないようにしないと…。


◇◇


二十三歳になった。


「久しぶりだな、紅葉」

「何の御用ですか、二ノ宮葉太殿?」

「…もうお兄ちゃんとは呼んでくれないか」

「呼ぶわけないだろうが。何の用だ」

「いや、最近…結婚したと聞いて。君の奥さんから、伊奈帆さん経由で連絡を貰った」

「…千早の奴。余計な事を」


結婚したのは事実だ。ただし、一年前。

学生結婚をして、式らしい式はしないで、写真と食事会だけにしようと話をしたけれど…それでも譲から「新郎の親友」としてお祝いの言葉を読んでほしくて、それ用の台本を書いて貰ったのは記憶に新しい。

最も、ここでもそれはあいつの声で読まれることはなかったが。

…どうして、譲じゃなくてこいつなんだろう。


「せめてお祝いだけでもと思って」

「あんた状況分かって言ってるのか」

「それは…」

「鈴海創始一族が滅びた直後だぞ!?それにお祝いも迷惑だ!こっちはこの前、嫁の腹の中で長女が死んでんだぞ…」

「それは…すまなかった」

「あんたの都合で、余計な時間を取らせるな」

「…それはわかっている。わかっているからこそ…残された五鈴家の間は強固にしておかなければ」

「それはあんたの都合だろうが!まだ親父もお袋も生きてんだろ!?二ノ宮家に俺が戻れる訳がないとわかってそんな世迷い言を言いに来たのか!」

「俺が二ノ宮家当主になった時点で先代までの意向は排斥している。お前は帰る気はないだろうが…お前の帰る場所はちゃんと作っている。なあ、紅葉。俺たちは、もう一度」

「…俺は親から家系図から消された身。戸籍をとっても俺は家族として表示されていない」

「…」

「あんたは一人っ子で、俺は同じ苗字なだけの他人。それでいいだろ」

「…そうか。時間を取ってもらい、申し訳なかった。二ノ宮君。今後も、君の活躍を祈っているよ」

「…失礼します」


今更兄弟に戻れるわけが無いんだ。

なあ、どうしてこいつだったんだ。

俺はお祝いされるのなら、お前の言葉が欲しかったよ。譲。

どうしてお前は、また死んだんだ?

…俺はどこで、何を間違えたんだ?


◇◇


…二十七歳になっていた。

譲が死んで五年後。

異世界から迷い込んだ一咲と永羽を見送り、鈴海第零区域から帰還した直後。


「ねえ、紅葉」

「んー?」

「早く帰りましょう?明日は千葉瑠を迎えに行かないといけないし…」

「あー…ごめんな、千早。大社に譲の遺灰持ち帰った報告しないとだから。先帰っていてくれ」

「そう…。でもほんの少しでしょう?待っているわよ、それぐらい」

「…いいよ。時間、かかるだろうから。先に寝ておいてくれ」

「わかったわ。じゃあ、先に」

「おう」

「…ちゃんと帰ってくるのよ。紅葉」

「そりゃあ帰ってくるさ」

「本当に?」

「…なんだよ。疑っているのか?」

「いいえ。貴方はいつも正しい。だけど、理想を追い求めすぎて、壊れないようにね」

「…俺バカだから何言ってるかわかんないんだけど。とりあえずわかった」

「…ん」


千早を見送り、俺は大社に向かう。

遺灰を片手に進むのは、大社の本部でも、大社の第二部隊執務室でもなく…地下図書館。

キーコードを入力し、それが隠されている部屋に立ち入る。


「…もうここに来たくなかったんだけどな」


かつてこの島を作り上げたシルヴィアが構築した「世界の法則を書き換える魔法」

———世界構成。

椎名の血族から排出される「鍵」が保有する全魔力を糧に、世界の在り方を覆す魔法だ。


「ええっと…ああ、これだ」


かつて譲に作って貰った「指定日まで「物」の時間を戻す魔法陣」に、譲の命日付近まで逆算した日数を書き込む。


「…なんかいつもの置き場からズレていたのは気のせいだよな」


まあいい。ここはもう終わりだ。儀式の準備を進めよう。

魔法陣の中心には、譲の遺灰。


今回はもうダメかと思った。

なんせ世界構成の起動に必要なお前の遺体がなかったんだから。

これでは世界構成を起動できない。

再びやり直すことすら叶わない。

とにかく、お前の遺灰でもなんでもいいから世界構成に必要なお前を回収しないといけないと焦って…五年も時間を無駄にしてしまったな。

…手のひらぽっちの遺灰じゃ、世界構成は起動できない。

それに今回は柊の妨害もあったから、第零区域に侵入すら出来なかったからなぁ。


できたのは、墓に入れる予定だった譲の遺灰を別物にすり替えた程度。


…月葉をミリアに紹介した時、すり替えがバレたかどうか不安だったが、気づかずにいてくれたらしい。

やっぱり遺灰には魔力も何も宿ってないし、判断材料がないんだなぁ。

千早の目も、誤魔化せているようだし。


本当に、永羽と一咲には感謝しかないよ。

こうして再びお前を取り戻すことができたのだから。


俺の魔力を注ぎ込んで発動させた時間遡行の魔法陣。

その上には———待ち望んでいたものが横たわる。


「ただ眠っているだけみたいだな」

「寒いだろう。ああ…相変わらず痩せ細って」

「…本当に気にしていたんだな。俺は気にしないのに。また温泉巡りやりたかったなぁ、譲」

「———また、お前の遺体を使うな。譲」


白布に包んだ遺体を世界構成の中に横たわらせる。

世界構成の使い方はもう理解している。

何度も、使ってきたから。

俺はこれからも「失敗」したら世界構成で世界の在り方を変えて、繰り返す。

「お前が男で」「魔法があって」「両親が殺されて」「春風柊を復讐対象にして」「俺と夜雲と千早と出会って」「舞園桜哉と深見水と守護霊契約を果たして」「赤城時雨と江上和夜と出会って」「友江一咲を二番弟子にする」

ここまで細かく条件付けをして、やっとお前の寿命を一年延ばせたんだぜ、譲。

だから、諦めなくていいんだよな。

これからも「お前が生きられる世界」を求め続けて、いいんだよな。


「さあ、始めよう。世界を再構成し、理想の未来を掴んで見せよう」


魔法の起動と共に、世界は再起動する。

望む時間の始まりへと戻り、再び繰り返す。

今度こそ、望んだ未来を手に入れる為に。


◇◇


…世界はまた、繰り返す。

十二歳、また再会から。


「よっ、譲。俺は———」

「…馴れ馴れしいね。二ノ宮…ええっと、紅葉…だっけ?」


…そうだったそうだった。また、再会からだっけ。

だったら、初対面らしくしないと行けなかったのに。

また「椎名」から始めないといけないんだ。

また、また…。

何度やれば、俺たちは理想の未来を手に入れられるんだろうな。譲———。


「ああ。二ノ宮紅葉。よろしくな、椎名君」

「…どうして」

「?」

「どうして、君は僕の名前を呼ぶ度に悲しい顔をするんだい?」

「そんなわけ…」


始まりから何度も何度もこなした自己紹介で、こんな指摘が入るのは初めてだ。

だからこそ、期待をしたい。

今回なら、今回なら…また違った結果が出てくれるだろうか。


最後の世界構成が始まる。

やっと、始まってくれる。


◇◇


「一年潜伏したおかげで君の目的が見えてきたよ」

「道理で。俺だけに生きている事が伝えられていなかった訳だ。信用してくれなかったんだなぁ」

「信じていたかったのは本当だよ…でも、君は私欲で何度世界を構成し直した?」

「数えるのもやめた。気が狂いそうだったから」

「…何の為に?」

「全てお前の為に」

「僕は一度も望んだことはない。それを言葉にした記憶もない。どの世界線の僕の話をしている?」

「…こうも文句を言われるとは…どこで間違えたかな。関係が破綻しているのもまた「失敗」」

「…」

「またやり直すか。お前に疑われずに済む世界を掴まなきゃ、今度は上手く立ち回らなきゃな」


俺の顔を見た譲は、酷く険しい顔を浮かべていた。

きっとそうだろうと思った。

だって今の俺は多分、笑っているだろうから。


「…僕は君を親友で相棒であると思うと同時に、君もまた同じ気持ちだと思っている」

「だからこそ、止めなければいけない。これは僕の責任だ」

「世界構成は僕の魔力を使わなければ起動できない。この点では、僕は君の共犯となるだろうね」

「———君が何を求めているのか、全てを以て教えて欲しい」

「その上で、君を止めてみせる。君に世界構成を二度と使わせないように」

「君の罪は僕の罪。だから…おいで、紅葉」

「君の全てを受け入れるから。その全てを、僕に見せてほしい」


全てを知った譲が、俺を止める為に杖を向けるまで———残り十五年。

これは、世界の命運と願いを背負った転生勇者と、誓約と物語を背負い、物語の終結を託された転生魔法使いの、約束と祈りの物語。


そして彼女達の鏡にいる二人。

頼れる上司と、頼れる師匠。

それは祈りという呪いを背負った浄化能力者と、呪いと誓約を背負い、共犯者となった魔法使い。

彼らが歩むのは罪と罰の物語。


いつか彼らが舞台に上がる「再起動」の日を、私は待ち望む。

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