29: 植物系魔獣を食べよう!
『今日は君に植物系魔獣を討伐して貰うよ』
「たべるぜんてい!」
『食べるよ〜』
「食べるぞ〜」
「食べちゃうぞ〜」
「「・・・」」
杖を掲げる椎名さんの隣で湊川さんは鎌を、五菜さんは自身の星紋である大剣を構えて、ノリノリで滅茶苦茶なことを言ってくる
勿論だが、彼らの従者と私は頭を全力で抱えていた
「あの、五鈴家の当主って魔獣食が好きじゃないとなれないみたいな決まりがあるんですか?」
「「そんな決まりは、ありませんが・・・あってもおかしくなさそうですよね」」
「ちなみに、二ノ宮さんのお兄さんと綾波さんはいかがなのでしょうか」
「・・・綾波様は、魔獣食の第一人者です。例の資格試験も主催はうち・・・ああ、湊川家も噛んでいますが、綾波家と共同なので」
「湊川さんの話だと、葉太さんも結構ノリノリで魔獣の試食会に挑んでいるとは聞きますがね・・・弟君ほどではないでしょう」
そういえば紅葉さんも一応五鈴家の末席扱いになるんだっけ・・・
五鈴家には変人しかいないらしい。鈴海の将来が心配だ
「そういえば、こうしてお会いするのは初めてですね、霧雨さん。俺は久世智久。五菜の兄です」
「苗字が一緒だからてっきり親戚だと思っていたのですが・・・実のお兄さんだったとは」
「ええ。兄です。実の、血のつながりがある感じの兄です」
「それならどうして、久世の当主は彼女なのでしょうか。単純に考えたら、当時中学生だった貴方が・・・」
年上の方がとか、兄だからとかそういう理由で五鈴の当主は抜擢されないらしいと紅葉さんから聞いた
それぞれの家に選抜理由があって、該当する者がいなければ親戚から養子を迎えることもしてくるそうだ
それでも該当者がいなければ、条件を満たした外部の子供を養子にすることだってあるらしい
この、久世兄妹のように
「俺は能力がそこまで強くないんです。俺たちを引き取った先代当主・・・御爺様も、最期の方は実の孫らしく接してくれましたが、引き取る前は五菜がごねるから俺もついでに引き取った・・・みたいな感じでしたから」
「五鈴家には、それぞれ当主の選抜理由があるんですか?」
「あると聞きますが・・・そうですね。ここだけの話ですよ」
春雨さんがこっそり教えてくれたのは、五鈴家当主の選抜理由
どうやら五鈴家にしか共有されていない秘密らしく、話したことがバレたら厳罰級の代物らしい
けれど、あと数日でここを発つ私は別に話しても当たり障りないと思ったらしい
一応、湊川さんと五菜さんと椎名さん、紅葉さんには知ったことは内緒にしておいてくれと言われたが
「二ノ宮と綾波はそれぞれ長男と長女が強制的に当主に選抜されるらしい。理由は選ぶのが面倒くさいからだとか」
「なんか、普通ですね」
「他の三家に比べたら普通ですね。次に湊川は移動系の星紋を使用できる人間が選抜されます」
「なぜ?」
「湊川は第一区域を収める立場。あのだだっ広い田舎で災害が起これば、大社が派遣されるまで湊川が対応を任されます。当主として、第一区域の管理者として責務を果たせる能力を持つ人間が起用されるという認識ですね」
「マジで?そういう選抜理由だったんだ。知らんかった〜」
「なるほどなるほど」
「久世は第五区域・・・居住地域を任されている家だ。土地の管理から住民間のトラブル対処などなど、何かやっていることの規模は小さいが、やることは沢山ある。五菜に求められたのは求心性と強さ。人々の目を引くキャラクターにトラブルが発生した際に迅速な対応ができる能力者。流石に俺には「町内アイドルごっこ」はできないな」
「誰が町内アイドルなのかな、お兄ちゃん?」
『で、椎名の当主は鈴海創始の象徴として、シルヴィアと似た容姿を求められるんだ。僕と父さんの選抜理由は髪が青い状態で生まれたから。先々代は紫紺の瞳だからって理由だね』
「「「・・・」」」
さりげなく、間に入り込んだ五鈴家当主様の三人は私達を見上げるように座っている
湊川さんと椎名さんはついてきただけで、単純に面白がっているだけのような気がするのだが・・・
五菜さんはその・・・完全に目が笑っていない
「ん?どうした鈴谷」
「お兄ちゃん、話をしたことは特別に見逃すから、町内アイドル云々は後でお説教ね」
『内緒話は結界の魔石ぐらい使用しようね。じゃあ早速訓練に取りかかろう。五菜ちゃん。春雨さん。今日は君たちの戦い方を主に見せてほしい』
「・・・あの、椎名さん。五菜はともかくとして私は爆弾で、霧雨さんは剣ですよ?類似性が全くない能力を見せても、彼女の為にはならないのでは」
『なるよ。だって君の能力と永羽さんの能力は元を辿れば「光」だからね』
「・・・まさか、いえ。わかりました。それならば私も尽力させていただきます」
「がんばろ〜!」
ご機嫌斜めになりかけだった五菜さんを椎名さんが誘導して、そのまま戦闘へと誘導する
どうして、あんなにあっさり機嫌が・・・
『五菜ちゃんは「かなり強くて」「戦いが好き」なんだよね。紅葉達が遭遇した事件は聞いた?彼女が一人で前を張ってくれたっていう』
「ええ。少しは・・・」
『あれさぁ、紅葉もプライドがあるのか「成り行き」「偶然そうなった」みたいな言い方してるけど、五菜ちゃん自ら志願して前衛張ったらしいよ。伊依が言ってた』
「う゛ぇっ」
「も〜。譲お兄ちゃん。それ、五歳の時の話じゃ〜ん」
草色の魔法陣を足下に出現させた彼女は、構えた両手に収まるように、自分の身長より大きな大剣を出現させる
同時に目の前には木の形状をした魔獣が出現した
ものすごい大群なのに、彼女は怯むことなくどころか・・・嬉しそうに前へ駆け、大剣と共に回り出した
「あの時は伊依お兄ちゃんありきでの戦いだったけど、今はそんな戦い方しないもん」
舞うように風を切り、魔獣を切る姿
大剣の重さなんてないように軽々と扱い、飛び跳ねる彼女の動きは心から戦闘を楽しんでいる人のそれ
こんな戦い方をする子は、今まで出会ったことがない
『あはは。でも、楽しそうに戦う姿はいつ見ても変わらないらしいね』
「当然。戦いは楽しんでなんぼだよ。たとえ殺し合いでもね」
「殺し合いでも、ここまで楽しくやるんですか?」
「当然だよ。ねえ、お姉さん。もしも今から私と殺し合いをしようと言ったら、どう思う?」
「・・・ちょっと、厄介かも」
戦闘訓練は大分積んだ。彼女の動きは変則だが、やり合えないことはない
けれど、今まで戦ってきた相手の誰よりも・・・怖い
「だって、楽しむことは「余裕の証」だと思わない?永羽お姉さんが今まで戦ってきた相手って、皆真剣で、必死で・・・死に物狂いだったんじゃない?」
「・・・そうだね。だからこそ、貴方を相手するのが怖い。楽しむ余裕がある貴方と戦うのは、何があるのか予想できない」
「あはは。お褒めいただきどうも!」
「・・・完全に恐れられているよな、五菜」
「でもでも智影お兄ちゃん、その得体の知れない恐怖って不必要な戦闘を避ける手段でもあると思わない?現に永羽お姉さんは私と戦いたくないって思ったでしょう?」
「そう、ですね」
「で、実際に戦わないといけない状況になっても、何が出てくるか分からない余裕が動揺を誘える。本来の力を発揮させにくくするって言うのも狙いだね」
「・・・色々、考えているんですね」
「まあね。私だって五鈴家の当主・・・その一人。戦うのは好きだけど、一番大事なのは私が収める区域の人々を守るための最善を選ぶことだから。できることは、なんだってする気持ちでいるんだ」
「凄いですね。こんなに小さいのに」
「小さくても、責務があるからね。私とお爺ちゃんの取引」
少し離れた場所で、春雨さんに指示されつつ爆弾を抱える智久さんへ視線を向ける
見ていたことがバレないように、一瞬だけ見た後・・・彼女は目を伏せて静かに語る
「・・・本当の両親は物心つく前に死んでいて、私達は孤児院にいたんだって。そこで久世のお爺ちゃんに才能を認められて、私だけが久世の養子になることになった。でも私は、唯一の家族だったお兄ちゃんと離れたくなかった」
「それで、久世の先代当主を説得して・・・」
「お兄ちゃんを引き取ること。私が頑張った報酬で、久世に両親のお墓を作ることと、お兄ちゃんが大学を卒業するまでの面倒を約束した。これが私とお爺ちゃんの取引。全てが完了する前にお爺ちゃんが死んじゃって、私が当主に就任したから・・・もう形だけのものなんだけど・・・守らないといけないんだ」
どうしてかなんて、聞くのは野暮だろう
取引の約束を守ること。それは才能ありきとはいえ、彼女を家族に選び、兄と引き離さない道を用意してくれた先代当主に向けた敬意と感謝を示すため・・・だと思うから
「さあ、永羽お姉さん。次はお姉さんの番。譲お兄ちゃんも性格が悪いよね」
「私?じゃあ、がんば・・・」
「違う違う!いつもの短剣じゃなくて、私と同じ大剣を能力で作り出すの。永羽お姉さんの能力は形状の変化が可能なんでしょう?」
「そうですが・・・」
「譲お兄ちゃんがわざわざ私と鈴谷お姉ちゃんを指名したってことは、私達の能力を模倣した戦いをしろっていうことなんだよ」
「・・・わかりました。じゃあ、まずは大剣を」
「大剣のイメージは重いだろうけど、軽くしていいよ。だからと言って軽くしすぎると戦いにくいから、ほどほどの重さ。振り回しても自分の身体が持っていかれない程度がおすすめかな」
「う、うん。でも、その重さじゃ大剣の良さを引き出せないんじゃ・・・」
「私は敵に当てる直前、剣に魔力を一気に通しているよ。そうすることで、威力はそのままで攻撃力だけ剣に載るの」
『だから基本的に「振り下ろす」か「振り回した直後」が彼女の「攻撃」になるんだ。慣性で当てているんだよ。今も変わらないんだねぇ』
「・・・。今は成長途中だから。これでいいの。いつかはちゃんとした重さで当てるよ」
『永羽さんの場合は元々が魔力集合体みたいな代物だから、浮かせて舞わせることもできるだろう?同時に聖剣へ光を纏わせて、細剣を大剣に疑似変化させるのも可能ではないかな』
「それはそうですが、やってみますね」
椎名さんの言うとおりに
五菜さんが持つ大剣のような剣を出現させる
しかしいつも作らない大きさだからか、魔力ががっつり持って行かれる感じがする
・・・ちょっときついかも
「永羽お姉さん、一本一本に魔力を込めすぎだよ。大剣が本物の大剣らしく重くなっちゃっているかな。浮かせるのにも魔力が必要なんでしょう?これじゃあ燃費悪いよ」
「は、はい」
『これじゃあ軽すぎる。いつもの短剣だ。切れ味は良さそうだけど、大剣としては脆すぎるね』
「ぐぬぬぬぬ〜・・・!」
「永羽お姉さん大丈夫?」
「大丈夫・・・これはどうでしょうか」
自信作の一本を五菜さんに見て貰う
険しい顔でそれを振り回し、叩いてみたりして色々と確かめてくれた彼女は、一息吐いた後・・・にっこり笑った
「・・・うん。いい感じかも。これなら切れ味も耐久も問題ないと思う」
「それに、敵から攻撃を受ける直前で魔力を流せば、耐久も補完できると思うんですよね・・・」
「そうそう。攻撃力を補完するみたいにね」
『じゃあ永羽さん。休憩を挟んだ後、癖になるよう生成の特訓、攻撃直前の魔力操作、全部身体が覚えるまでやろうね』
「・・・はい」
「・・・譲お兄ちゃんの鬼」
『まあまあ。魔力は僕が補充するからさ。こうやってね』
椎名さんは私の頭に杖を乗せる
するとそこから魔力が降り注ぐように私の中へ入り込んでいく
息切れするほどきつかったのに、今では訓練前と同じぐらい・・・いや、それ以上に身体が軽い
『自分の魔力を他人に譲渡する術だね。送り先が苦しまないように、魔力を最適化する必要はあるけれど・・・覚えたら魔力関係で悩む必要ってほとんどないんだ。ただ』
「ただ?」
『君達七人は魔力の余裕というものがない。強いて言うなら、魔力タンク役に一咲さん・・・ノワやエミリーさんが該当するだろうけど』
「二人は魔力を提供される側であるべき、ですよね」
『そうだね。けれどこの手段は「持っていて損するものではない」この術は君にだけに伝えておく。しかしこれだけは覚えておくんだ』
「・・・はい」
『君は魔力を送る側ではなく、受け取る側だと。次に魔力を送るとき、僕はノワを想定した魔力量で君に魔力を送る。あの子のことだから無理して最適化しようとして最適化できていないだろうから、君は自分の魔力として受け取ったそれを最適化しつつ・・・僕の魔力を取り込もう』
「そ、そんなことまで・・・」
『必要だから。やるんだよ』
「はい・・・」
「・・・譲お兄ちゃんの悪魔」
泣きながら大剣を作り出し、魔力が枯渇したら調整の訓練をさせられる私の横で、五菜さんは先程倒した魔獣から採取した木の実をもしゃもしゃと食べていた
思えば・・・これ、午前の部なんだよね
目の端に時々入り込む、準備中な春雨さんの姿を見ると・・・申し訳ないが気分が憂鬱になってくる
一咲も私と合流する前はずっとこんなスパルタ修行を受けていたのかな・・・とてもじゃないけれど、一咲みたいに軽口を叩く余裕は私にはないかも・・・
けれど、必要なこと・・・なんだよね
最悪これは、あの時彼が稽古をつけると言ってくれたミドガルの時にやらされていたことかもしれない
そしてなによりも、これが最後だ
色々な可能性と戦い方を提示してくれる師匠がいる時間は限られている
・・・それなら、最後の一瞬まで
その知識を最大限に利用するまでだ




