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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第2章:要塞都市「スメイラワース」/精霊たちの条約

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4:スメイラワースでの挨拶

スメイラワースに存在しているシルフェリードの教会は、小さな場所だ。

ここで主に信仰されているのは、大地の女神「グラウシュペリア」

中央区に存在しているグラウシュペリアの教会は立派に建てられているが、シルフェリードの教会はこぢんまりとしている。


立地の関係か、補修も追いついていないようで、建物の中は少しおんぼろ。

壁にはヒビが入っているし、穴が空いている場所もある。

ヒビはともかく、穴が空いた理由は聞かない方がいいかもな。


「…ふう」


今回も無事に別都市に移動できたことを報告し終える。

しかし隣にノワがいるわけではない。

相変わらず挨拶をすることもなく、教会内をうろうろしていた。


「ほじほじ」

「お待たせ。今日は何をしながら待っていたの?」


しかし、これ以上は何も言わない。

ここには、本来ミリアがいるはずなのだが…残念ながら彼女はここにいない。

本来なら咎める役目は彼女になるのだろう。けれどミリアはいないし、私としても咎める必要はないと感じている。

ノワが好きなように、させておくのがいいと思っているから。


「———壁の穴に指を突っ込んで遊んでいた」

「お祈りをしろとは言わないし、勇者パーティーの一人として挨拶しろとも言わないから、せめて大人しく椅子に腰掛けて待っていてくれない?」

「それは考えておきたいけれど、今回は無理そうだ…」

「どうして?」

「調子乗って奥まで押し込んだら抜けなくなっちゃった」

「そう。その行動を戒める為にも…私は貴方を放置して、宿屋に向かうべきかしら?」

「お願いします。助けてください」

「はいはい…」


なんてことをしているのでしょう。

指と壁が一体化しているノワの身体を掴んで、引っ張ってみる。

しかし彼女はびくとも動かない。

穴とぴったり、ハマってしまっているようだ。


「んぅううううううう!」

「ヤべ!やべやべだよアリア!指が伸びる!やべぇ!」

「うるさいわね!自分でも抜けるよう努力しなさい!壁に足をつけて力を入れるとか!」

「抜けた時、一回転しそうだからやだ!」

「しっかり受け止めてあげるからやりなさい!」

「受け止めてくれるの!?」

「勿論よ!…あれ?」


ふと、力を緩めて考える。

私、慌てていたせいで肝心なことを忘れていたわ。


「と、いうか貴方…魔法使いでしょう?」

「まあ、そうだけど」

「指だけ小さくできないの?」

「出来るっちゃできるけど、難しいかな」

「どうして?」

「全身を小さくする魔法とか、大きくする魔法とかある意味「定番」だけどさ、あれってかなり身体に負担がかかるんだよ。身体に関わる魔法は全部ね」

「そうだったの?」

「そうだよ。身体の大きさを少しだけ変えるとしても、それは摂理をねじ曲げている行為。魔法使いは何でもできる。けれどねじ曲げてはいけないものが二つある」

「誓約と…それこそ摂理?」

「うん。誓約は首についている枷を見たらわかるとおり、破れば命に関わる時もある」

「そんなものなの!?じゃあ、摂理は…」

「まあね。でも、摂理はねじ曲げたペナルティがそれに比べたら小さい。まあ、行使する魔法で差はでるけどね」

「もしも今、身体を小さくしたら…」

「しばらく使い物にならないね。一週間はまともに動けなくなることを見込んでほしいかな」

「そう…」

「魔法は基本的に不可能がない。けれど、使用者の得意不得意だってあるし、ペナルティがつきまとう魔法もある。そのあたり覚えておいてくれると助かるよ」


それじゃあ、身体を小さくして指を抜く作戦はダメだ。

ノワが動けなくなるところなんて、見たくない。


「…自分の意志で動けなくなるのは嫌だもんね。ごめんね」

「いいって。それに私は、必要な時ならその魔法を使う覚悟はできているから」

「わかった。そんな魔法を使った後は動けるまで世話するからね」

「一生動けなくてもいいかもって思っちゃった」

「それはよくない。気を取り直して、さっきと同じように力を込めて引き抜きましょう」

「お願いします」


今度のノワは壁に足をつけて力を込められる体勢に。

私は先ほどと同じように彼女の腹に腕を回し、足に力を込める。


「うんとこしょー!」

「どっこいしょー!」

「まだまだ指は抜けません、というところでしょうか」

「うんとこしょー?!」

「どっこぎゃあああああああ!?」


ノワの叫び声がしたタイミングで、指がスポンと壁から抜けてくれる。

勢いあまって、私をクッションにノワは床へと倒れ込んでくる。

…受け止めるとは言ったけれど、この勢いは想定外だ。


「あああ、アリア!ごめんね!すぐに回復魔法かけるから!」

「ありがとう…ところで、どうして急に」

「間違いなく私が原因でしょうね、霧雨永羽さん」

「…なぜ、私の名前を」


一咲ちゃんだけじゃなくて、私まで知る女性。

胸元近くまで伸びた黒髪を揺らすこの人は一体…。


「貴方から見て、前世の世界からやってきた存在だからです。この馬鹿のことも、いやというほど理解はしていますので…」

「馬鹿とは心外だね」

「…その歳になって、壁の穴に指を突っ込み「抜けない」と喚く人間が馬鹿でないと?」

「たまにはいいだろ」

「…よくないでしょう。それに今の立場も考えてください」


回復魔法をかけ終えたノワは時雨と呼ばれた女性に向かって杖を向ける。

会話からして、この人は椎名さんの関係者のようだ。

だからこそ私たちの存在を、前世を知っているのだろう。

しかしなんだろう。この人から漂う「心の底から面倒くさい」と言わんばかりの感情は。

感情を隠そうともしないうんざりした表情を浮かべ、彼女は大きなため息を吐く。


「まあ、今回はいいでしょう。誰もいませんし」

「へいへい。で、あんたはなんでこんなところにいるの?師匠の隣、離れるの死んでも嫌でしょ?」

「死んでも嫌ですが、譲さんの頼みなので」

「師匠に頼まれたら何でもするとか、マジで都合のいい女ですね」


一咲ちゃんらしくないとげのある話し方。

もしかしなくても、彼女のことが嫌いだったりする…?


「譲さんから「都合がいい」と思われているのなら何よりです。私はあの人の糧になるために生きているのですから。本望です」

「うわ、相変わらずだね。人生損してそ〜」

「…弟子風情が、私たちの間柄に口出しをしないで頂けます?」

「弟子だから頭のイカれている女から引き離したいんです〜。これは師匠への親切心ですぅ〜?」

「親切心…?譲さんは自分の意志で私を選んでくれています。無用な親切心は別の方に使ってはどうですか、友江一咲?」

「…口約束婚約者なくせに。なんなら師匠の顔、テレビで散々出てたのに忘れていたくせに!」


…ナチュラルにノワ=一咲ちゃんだって断言しないで貰いたいな。

私だって、許されている環境なら今すぐにでも名前で呼びたいのに。

…なんだろう。悔しいな。

って!それどころじゃない!ノワと時雨さんの間に火花が散っている!

止めないと、最悪殺し合いに発展しそうな怒気を渦巻く環境に立ち入るのは気が引ける…。

でも、やらないと。


「…二人とも、落ち着いてくれますひゃっ!?」

「へっ!?」

「…」


恐怖で足がすくんで、思わぬところに着地してしまう。

本当なら真ん中に立って、格好良く止めるはずだったのに。

バランスを崩した結果、ちょうど近くにあった支え…ノワの腕に抱きついて、二人の言い争いを休止させた。


「だ、大丈夫…?」

「大丈夫…。それよりも、言い争いをしている暇はないと思います。時雨さん、椎名さんの側にいる貴方がなぜこんな場所に?何か問題が起こっているのですか?」

「そうですね。言い争うよりもみっともないところをお見せしてしまい申し訳ありません。とりあえず、ここで話をしましょう。人払いは済ませていますから」

「お願いします」

「…」


落ち着きを取り戻した時雨さんは、笑みを浮かべて普段通り?な振る舞いをしてくれる。

普通にしていたらいい人だと思うのだが…一咲ちゃんとの間に、何かあるのだろうか…。

…忘れていたと怒っていたこと。そこに何か、あるのだろうか。


「で、なんであんたここに来たんです?」

「…喧嘩腰なのはダメだよ、一咲、ちゃん」

「なんか久しぶりに呼んで貰えた気がするよ。超嬉しいよ、永羽ちゃん…!」

「あー…いちゃつくのは結構ですが、話をしても?」

「よ、よろしくお願いします!」


「そうそう、二番弟子」

「なんです?」

「貴方は正座でメモを取りながら聞きなさい」

「なんで!?」

「貴方すぐ忘れるでしょう?忘れては困るぐらい重要な事なので」

「…わかりました」


一咲ちゃんは言われるがまま床に正座をして、手帳を構えながら話を聞く体勢を取る。

それを確認した時雨さんは胸ポケットから手帳を取り出し、ゆっくりとここに来た事情を語り始めてくれた。

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