24:鴇宮漂流記
『永羽さん永羽さん。随分射出が上手くなった永羽さん』
「どうしました、椎名さん」
『光をさ、こんな細く・・・針みたいに作れるかな』
「ええ。こんな感じですか?」
椎名さんの要望通り、私は光を針のように作り上げる
小さくて細いそれは、ふとした瞬間に見失いそうになるが、針以上の丈夫さは存在している立派な武器だ
・・・そう、武器なのだ
『針穴、ないね・・・』
「針としての昨日は皆無ですが、投擲には最適です」
『君、光で武器しか作れないんだね・・・。紅葉みたいに武器が固定化されていない分、君は応用力高そうな能力なのに』
「確かにこの能力は応用力が高いですが、私に応用力があるわけがないので」
『一咲さんみたいな言い草しない』
「あだっ・・・ちょっと、杖でたた・・・は?杖?」
自分でも言っていて何を言っているか分からなかったし、視界に映ったそれを凝視することしかできなかった
椎名さんの手には間違いなく杖が握られている
しかもそれは、一咲にあげた筈の代物
『ああ。一咲さんが名前をつけたから、リュミエールとしての杖はもう死んだも同然だからね。ここに戻ってきた。一咲さんには内緒だよ?』
「そんななんでも有なんですか・・・」
『ありなんだよ。死ねばなんでもありなんだよ。この世界における死の法則は全くもって理解できないけれど、とにかく何でもありなんだ』
「は、はあ」
『とにかくね、そういう苦手だからできないって言い訳は良くないよ。まずはやってみなきゃ。繰り返しているうちに上手くやれる方法が見つかるだろうから諦めないで。魔法のようにその力だって万能に近いのだから、上手く付き合ってあげてほしい』
「わ、わかりました」
『よし』
椎名さんは杖を降ろし、それをいつも通り収納させる
名付けにこだわっていた理由は、何となく理解したかもしれない
リュミエールとして死んだその杖は、新たにステラルクスとして生まれ変わった
では死んだリュミエールの物質概念というのは、どこに行くのだろうか
その疑問に対する答えこそこれ
リュミエールとしての主のところへ、帰るだけらしい
『ちなみにその針は生成までに何秒かかる?』
「一瞬に近いと思います」
『それを至近距離の不意打ち運用は可能かい?』
「不意打ち・・・できると思います。ただ、不意打ちとなると、一瞬で急所を的確に狙わないと行けませんよね」
『そうだね。なるべく致命的なものを狙うべきだ。その訓練にうってつけの現場を昨日の探索で見つけて貰っている。紅葉たちは食事の準備に、エミリーさんと永羽さんは引き続き訓練といこう』
「私もですか?」
「で、でも今から夜で」
『夜だからこそだよ。さあ、行こう』
そこで紅葉さん達と一時的に別れ、私達は椎名さんに着替えるよう促された
これから行く場所は、水着で行くような場所ではないらしい
着替えた私達は、椎名さんへとある場所に案内される
砂浜から、岩場へ
立つのがやっとレベルの暴風が吹き荒れるそこで、私達は異様な光景を目にした
「魚、ですよね」
『正確には魚型の魔獣だね。名称は「夜トビウオ」。普通のトビウオに似ているけれど、こいつらは夜に活動を開始する。滅茶苦茶な跳躍をかましてうるさい。見た目は普通のトビウオと相違がほぼないから無害だと思われがち。初心者向けの討伐対象として名前が挙がりやすい。が、そこまで簡単に討伐できる存在じゃない』
「・・・!」
一匹、私達をめがけて飛来する
とっさに避けたが、私のスカートは何か鋭利なもので切られたように、一閃の穴が空いた
「永羽の飾りスカートは柔らかい生地で作られているとはいえ、布を簡単に切断ですか。素早い上に、攻撃性の高そうなヒレ。特に胸ヒレは殺傷性が高そうですね」
『そうだね、エミリーさん。これから永羽さんには針型の舞光、エミリーさんには魔弾のみで奴らを仕留めて貰う。ちゃんと狙わないと、逆に自分達が狙われるよ』
「・・・やろう、エミリー。この人は終わるまで逃がさない」
「わかりました。では、私は左を。永羽は右をお願いします」
「うん!」
私は手をかざし、光を生み出し・・・針を形成する
エミリーは杖を構え、周囲に魔弾を形成し、夜トビウオの群と対峙した
・・
「・・・ひぃ」
「・・・ふう」
『命中率ひっく・・・。二人で一桁しか狩れないのは僕も想定外だよ』
しばらくして、やめの合図がかかった
私達はその場に座り込んで、休憩を取る
そんな私達を見下げる椎名さんの目は「なんだこれ」と言いたげな程に、残念なものを見る目だった
それもそうだろう。私が3匹、エミリーが5匹。計8匹しか仕留められていないのだから
「だ、だって・・・あんな小さい上にすばしっこい的に当てるのは」
『これから君達の相手はどんどん格上になっていく。この先に通用する組で具体例を挙げると、ヴェルとパシフィカはもっとすばしっこい。今の君達じゃ、接待レベルの手加減をしたあの二人に攻撃を与えるのも難しいよ』
「「ううっ・・・」」
『今まで君達の的は大きすぎた。ここまで小さい存在なんて、まとめてケリをつけていたのではないかい?ねえ、エミリーさん』
「ぎゅっ!?」
『ちょうどいい。先程ここに流れ着いた戦闘狂から近接戦の鉄則でも聞いてみよう。こいつ、銃弾も避けられる上に、切ったことがあるらしいからね』
「「・・・誰」」
『誰とは失礼な。永羽、猫ちゃん』
「「うわでた!」」
頭にわかめのアクセサリーを飾り、華やかな袴は海水を含んで色濃く
一咲によく似た容姿をもつのも当然。なんせ彼女の曾祖母なのだから
鴇宮紫苑はふてくされた顔を浮かべつつ、重り付きブーツを高らかに鳴らす
「・・・ここまで泳いできたんですか、鴇宮さん」
『ええ!ええ!泳ぎましたよ!皆して私のことを忘れて旅立って!少しは思い出す素振りとかしてくれてもいいんじゃないですか!』
「・・・舞園さんは、覚えていてくれましたよ」
『逆に言えば舞園弟以外は全員私の事忘れていたんですよね!?薄情!』
仮に泳いできたとしても、この人なら驚かない
しかし彼女の足には、とんでもない重さの重りが装着されている
正直これは、人間離れをしているのではないだろうか
『例え幽霊だろうが、ここは泳いで侵入できる場所ではないのだけれど・・・まあ、とりあえず無事に合流できて良かったですね』
『本当ですよ。全く、最後だからと言わんばかりに色々な事を押しつけてくれやがりましたね。親が親なら、子も子ということですし・・・心配性なのは、親子共通のようですね』
『・・・?』
『まあいいでしょう。それで、今度は私に何をさせる気で?』
『とりあえず、袴を乾かし、武器を貸し出すので・・・二人の前であのトビウオを狩ってきてくれませんか?』
『ああ。あれですか。美味しいですよね。生でもいけました。泳いでいたらお腹が空いたので、途中で囓ったんですよね』
『この近海、人が一人休めるような場所はなかったけど。君どこで食事を・・・』
『食事の為に休憩なんてしたら、サメに食われるでしょうが。ずっと泳いでいましたよ』
『・・・何を言っているのか分からないけれど、とりあえず了承してくれたのならこれで。武器は?』
『そうですねぇ。では、小石でどうでしょう』
鴇宮さんが選んだのは、その辺に落ちているただの小石
彼女の答えに私とエミリーは唖然としたが、椎名さんだけは違った
『あり合わせのものでいいのかな』
『ええ。その場にあるものでどうにかする・・・そういう経験は多々ありますし、私の人生そういうものだと思っています。ただ、この辺には石がないので、生成するのは小石ということでどうでしょう』
『承りました。では、これでどうでしょう』
『ん。この程度で問題ありません。それから、二人の為にも特定部位を狙い続けた方がいいですかね』
『そこは貴方の判断に』
『了解です。では目を狙い続けましょう。わかりやすいでしょうから』
彼女が小石を軽く手の上で弄んだ後、それを夜トビウオめがけて投げる
私達がいくら狙っても躱されたのに、鴇宮さんが投げた小石はトビウオの目に思い切り当たっていた
もちろん、二回目も三回目も同じ
彼女が投げる小石は全て夜トビウオの目に命中していく
「・・・!」
『こんなものでいかがですか?』
「凄いです。魔法とかそういうものを使っているのではないですよね?」
『ええ。私の中にあるのは戦い続けた経験のみですから。ほっ!』
『常習的に他者の目を潰していないとできない所業だよね、それ』
『ふふふ。先手は大事ですよ』
鴇宮さんは笑顔でそう述べながら、私達の方へ向く
『コツは「相手の軌道を読む」。特定部位への力の込め方など、瞬時に相手の動きを観察することが大事です』
「そんなことができれば苦労しませんよ!?」
『のんのん、猫ちゃん。別に私は他人の筋肉がどう動こうとしているのか見ろと言っているわけじゃないんですよ』
・・・てっきりそうしろと言っているのかと思っていたが、どうやら違うらしい
でも、どうやって他人の動きを読めばいいのだろうか
予知能力でも芽生えさせる?
けれど、鴇宮さんは一応カテゴリー一般人だ。魔法や能力の類いは使えない
彼女はどうやって、他者の行動を読んでいるのだろうか
『も〜。難しく考えなくていいんですよ。私が狙った場所です』
「め、ですか?」
『そう。目です。目は口ほどにものをいいます。私の持論では目は思考を映す。大体の事は目が語りますから』
どこに行こうとしているのかも、どこで攻撃を繰り出すかも、全部全部見せてくれているのにどうして悩む必要があるのか
鴇宮さんの持論は、現状の私達には理解しがたい
が、彼女がこれでずっと戦ってきたのだろう
数多の戦闘経験を積んだであろう舞台戦争。その場所で
『目がない、見えない相手や、病気だかなにかで片目がおかしな方向に行っている人間は例外ですがね』
『・・・とりあえず、一応信用できると思うから、意識してやってみてはどうかな』
「そう、ですね。エミリー、試してみよっか」
「はい!」
とりあえず、鴇宮さんの言うとおりに目の動きを観察しながらそれぞれ攻撃を当ててみる
なかなか当たりはしなかったが、それでも先程より収穫量は増えていた
午後八時。紅葉さんが「夕飯ができた」と呼びに来たタイミングで今度こそ訓練を切り上げ、私達は夕飯にありつく
今日は予告通り新鮮な刺身をふんだんに使用
煮付けや焼き、様々な調理方法を用いられた魚介類が食卓に並び、エミリーはテンションを上げながらその全てを実食し、満足そうに腹を膨らませていた
が、全部魔獣であることを忘れてはならない
・・・今日のフカヒレスープは、濃厚かつぷりぷりで、凄く美味しかった
そういえば、普段ならいの一番に現れ、最後まで粘っていそうなヴェルと一咲ちゃんの姿を見ていないな
二人は今、何をしているのだろうか




