16:星の光を背負ったそれは
「どうですか、一咲」
「うん。これは、ぴったりだよ。元リュミエールも納得するし、これに気がついたらこれ以外にあり得ない」
「エミリーさんもだけど、その単語に気がついた瞬間、それしかあり得ないって言い出すね。なんで?」
「実はこの単語にステラを合わせたら、師匠が私と出会ったときに見せてくれたマジック・アソートの名前になるんです」
「へぇ。だからその名前だと認められるという訳なんだね」
この名前なら、杖が提示している「継承」という意味を果たせるだろう
初めて師匠から貰ったものの名前をつける
これは、師匠と私の縁が構築された事象
杖もそれなら、認めてくれるはずだ
「でも、ここには一人で辿り着けませんでした」
伊依さんが色々と提案してくれて
パシフィカが辞書を広げてくれて
エミリーが紅葉さんと夜雲さんがしてくれた昔話を覚えていてくれたから、この名前に辿り着けた
そもそも、紅葉さんと夜雲さんが覚えていてくれなかったら、私はここへ辿り着けなかっただろう
「ありがとうね、エミリー。パシフィカ」
「いいんですよ。力になれて良かったです。しかし、これで解決!おしまいというわけではないでしょう?」
「杖へ確認を取らなければ」
「・・・納得してくれたらいいんだけど」
納得してくれるだろうとは思う
しかしまだ、杖にその名前でいいか問いていない
「・・・ステラルクス。師匠が私に最初にくれて、最後に贈ってくれたものの名前。師匠の歩み、そして過ごしてきた時間を背負うには・・・いい名前だと思うけど、君はどう?」
杖へ静かに問いかける
勿論、返事は予想通り。それから小言を数点
・・・そうだね。本来であればこれは自分だけで辿り着かなければならなかった
けれど、私は残念ながら記憶が欠けている
家族や親友との思い出はもちろん、生前師匠と過ごした思い出だって、ほとんど残っていない
マジック・アソートのことだって忘れていたし、そもそも小さい頃に師匠と出会っていたことも忘れていたわけだし
・・・でもね、私はこれでいいと思うんだよ
自分一人で何でもやれるほど、私は「先代達」のように強い魔法使いじゃない
その代わり、先代達に必要だった「共に戦ってくれる存在」を認識した上でここにいる
先代達のように、一人でどうにかやっていける魔法使いではない
私は誰かに頼り、頼られながら戦う魔法使いとしてこれからもやっていく
私は先代達のような、攻撃魔法に長けた存在じゃないことを伝えておこう
私は回復と支援に特化した魔法使いだから、それらしい戦い方を君としていくことになる
「・・・君はそのサポートを全力で行って欲しい。ステラルクス」
「納得して頂けたようですね」
「うん。え、なにステラルクス。ふむ・・・」
ステラルクスは私に自分が保持する魔法を教えてくれる
名前をつけた報酬ということだろうか。ありがたく受け取っておこう
「・・・祝福の光星。なにそれ?ひぎゃっ!」
「どうしました、それ」
「急に旗の部分が煌めきだしましたが・・・伊依さんは見たことがありますか?」
「うん。何度か・・・この光が現れた後、僕らが身につけているこの羽根も連動するように光り出していたんだ」
伊依さんは私達に見えるよう、制服の胸元につけていた羽根のアクセサリーを見せてくれる
真白の羽根に、うっすらと青がかかったそれがかつて光り出した理由は杖にあるのだろうか
「けど、今は・・・」
「光らないね。ちなみにだけど、この光の後、僕らは能力の全てが強化されて普段の倍ぐらいの威力を放てるようになっていたんだよね」
「「「え」」」
「おそらくだけど、その旗には支援付与の術式が練り込まれているんじゃないかな。何かしらの条件がありそうだけど、それを満たせば強力な支援を味方に付与できるって感じの」
「なるほどなるほど・・・後で師匠に確認してみますね。ちなみに伊依さん。その羽根って」
「これは第二部隊の証。譲君のお手製なんだよ。自分の部隊の人間だってわかりやすくする目的もあったのかもしれないけれど・・・支援付与の存在を聞くと、これは発動条件を満たすために必要なアイテムだったかもしれないねぇ」
伊依さんは大事そうにその羽根に触れる
その瞬間、彼の端末から部隊招集のアラームが鳴り出した
「・・・呼び出しみたい。僕はもう行くね」
「ありがとうございました」
「どういたしまして。早めに発動条件分かると良いね」
伊依さんは急いで招集先と思われる場所へ向かっていく
残された私達もまた、目的は果たしているのでここにいる理由はない
パシフィカは井戸汲みに苦労している人のサポートに入ると離れ、エミリーはお腹が空いたからと朝ご飯に向かった
私も朝ご飯は食べていないのだが、お腹が空いていなかったのでエミリーの誘いを断り・・・一人になれる場所へ向かう
杖の名前も決まったけれど、新たな課題が増えた
静かな場所で色々と考えを纏めておきたいのだ
人気のないところを探し、そこに腰掛けて手帳を出す
その上に、頭の中に渦巻く出来事を一つ一つ整理していった
そうして最後に、今後の課題
支援付与の発動条件
確かにステラルクスも発動条件がいくつかあると教えてくれた
伊依さんの言葉通りなら、付与を行いたい相手に何かをする必要もありそうだ
具体的な例を挙げると、師匠や八坂さんのように能力値が倍になって危険な存在はうちにはいない
この付与はできるだけ欲しい代物だ。ここにいる間に発動条件を明確にしておきたい
「とりあえず、師匠を探してみようかね」
一番手っ取り早い情報源に再会するため、私は野営地に戻ることにする
・・・なんとなく落ち着いたからか。お腹も空いたし朝ご飯から始めようかな
・・
野営地に戻ると、そこには・・・
「もぐもぐもぐもぐ」
「ほら、ソースが口元に付いているわ。拭いてあげるから食事を一時中断して?」
「もぐ・・・」
「はい、よくできました」
「ありがとうママ。もぐもぐもぐもぐ」
「ママじゃないからね〜」
そう言いつつも、ヴェルの口元に付いたタレらしきものを拭ってくれるママ・・・じゃなくてミリアは文句を言い返している気になっているようだが、全然言い返すことができていないことに気がついてほしい
「おはようミリア。ヴェルも」
「おはよう一咲。元気そうで何よりだわ」
「そっちこそ。疲れが多そうなのに元気そうだ。特にミリア」
エミリーは井戸で私達を認識するまでまだ眠そうにしていた分、昨日何らかの形で戦った面々はそれなりに疲れていると思っていたのだが
パシフィカを含め、ミリアもヴェルもとても元気そうだった
「私だって、この半年間色々頑張ってきたのよ?」
「子育て?」
「魔力操作や体力作りよ・・・貴方もママ扱い?」
「いやいや。実際、千葉瑠ちゃんの面倒を見ていたんだよね。主に子育てだと思ったから!他意はない!」
「まあ、そうね。千葉瑠の子守がメインだったけど、私だって・・・そのね。能力のこと、色々と引っかかっている部分があったのよ」
「まあ、確かにミリアは保有している魔力が少なめなのに、発動する魔法は全部魔力消費が多いよね・・・」
「それで無茶をして、先生や時雨さんにお小言を貰った話をしたら・・・能力関係も面倒を見てくれて」
「二ノ宮夫妻から直々に?」
「ええ」
関係性はパシフィカから聞いていたから良好だとは確信していた
まさか能力関係の相談まで乗って貰っていたとはなぁ
「あの二人は本当に凄いわ。浄化は勿論だけど、発動中の魔力コントロールとか、少ない魔力で持久戦をやりくりする方法とか。卯月さんにも話をつけてくれて、回復魔法の的確な使い方も見て貰ったし・・・」
「へえ」
「時間がある時、一咲にも共有するわね」
「いいの?」
「勿論よ。私だけの知識にするつもりはないから。同じ事ができるし、貴方だって魔力総量が多いとしても・・・将来それだけで足りるかどうか分からない時がでるだろうし、覚えていて損はないってやつよ」
「ありがとう。おかげで沢山暴れられそうだ」
紅葉さんも千早さんも魔力総量は多い部類に相当するだろう
師匠と私ほどではないが、純度も高い部類の筈だ
「もう、暴れたらだなんて・・・仕方ないわね。怪我をしたら任せてね。そういえば、ここに来たってことは」
「あ、うん。朝ご飯」
「・・・引き留めてしまった手前、こういうのはなんだけど。もう遅いかも」
「どうして?」
「もう皆朝ご飯を食べた前提だったから、ヴェルが残りを全部平らげているのよ。ここにあるので全部」
「・・・」
「・・・ご主人、そんな目で見られても、今咀嚼しているものしか私には出せない」
運悪く、朝食は先に来ていた面々に分配され・・・残りは全てヴェルの中に詰め込まれたらしい
まあなんだ。つまりのところ、私の朝ご飯はなしということだ
・・・仕方ない。昼ご飯まで我慢できないほどではないし、ここは我慢を
「出した方がいい?」
「いや、いい。口移し使用とするのはやめようか。流石に抵抗ある」
「ほふうはひほひ、ふはんはへははひふーふひひ(余裕ないとき、手段は選ばない方がいい)」
「極限であれば考えたけど、今回は昼ご飯があるからね。手段は選ぶよ。気持ちだけ、気持ちだけ受け取るから、その気持ちもとい食べかけを口に流し込もうとしないで・・・!頼むからぁ・・・!」
「ほふひんほふへはへほいほほ、ほほひほふふへ・・・!(ご主人を飢えさせないのも私の役目・・・!)」
「飢えてない!大丈夫!魔法で出すから!ミリア助けて!」
「はいはい。ヴェル、お行儀悪いから、ちゃんともぐもぐぱっくんしましょうね」
「もぐもぐ、ぱっくん・・・はっ!ご飯飲み込んだ!」
「はい。もうおしまいね。ちゃんとごちそうさましましょ」
「・・・ご主人を飢えさせないためには、戻すしか」
「もっと嫌だから絶対にやめてね。隷属使うよ」
「下僕には、たとえ罰を受けてもやり遂げなければ」
「・・・主人として命ず。今日一日、私に食事を提供しようとするの、禁止。破ったら首ちょんぱね」
なんだかんだでヴェルには隷属の命令を使用したことがなかったのだが・・・まさかこんなところで初めて使うことになるとは
兄弟子といい、ヴェルといい・・・もう少し格好良い場面を用意してほしいのだが、無理なお願いなのだろうか
「のおおおおおおおっ!!!」
「ごめんね。本当に気持ちは嬉しいからね。そこだけは分かってほしいね」
泣き崩れたヴェルを私が慰める横で、ミリアはヴェルが使用していた食器を洗いに行ってくれる
彼女が戻ってきた頃、ヴェルはいつも通りに戻り、懐からパンを・・・
「パン持ってんじゃんヴェル!」
「む?あ、そうだね。いつものがあったや。忘れてた」
「そ、それ・・・恵んで」
「隷属の命令使ったから無理」
「ミリアに恵んで!ミリアを介して私が受け取るから!」
「おう、隷属の穴をつく行為。流石ご主人・・・外道だね。痺れるぜ。ほい、ミリア」
「それ、褒めているのかしら・・・はい、一咲」
「ありがとう!あ、後三つぐらい頂戴!」
「我が儘ねぇ・・・ヴェル」
「もちのろん」
「ありがとー!」
「それからこれは私から。パンだけじゃ飽きるでしょ?」
「コーンスープじゃん!残ってたの!?」
「ええ。大社の備蓄食料の中にカップスープが一つだけ残っていたの。それをお湯で溶かしただけ。本当はジャムとか用意したかったんだけど、これもこれでパンと一緒だとちょうどいいかなって。どうかしら」
「ミリアもありがと〜!最高の朝食だよ!」
ヴェルからミリアへ、ミリアから私へ・・・本来なら必要のないリレーをこなして、私は少し遅めの朝ご飯を頂く
夏らしい暑さもあるだろうけど、今日の朝食はいつも以上に暖かく感じた




