14:天才の仕事
パシフィカと共に水源へ向かう
話によると、当時から存在している井戸を使用して地下水をくみ上げるタイプらしい
水はきちんと飲料できる代物であること、身体に異変を起こすような作用はないことは葉桜さんが調査してくれている
問題は・・・
「壊れてね?」
「見るも無惨なレベルで壊れていますね」
なんということでしょう
昨晩までは無事に使えていたはずの井戸が滅茶苦茶です
地震があったとかそういう訳ではなさそうだ
「ふわぁ・・・ゆうりー・・・あと、ごふん・・・」
「光輝、ちゃんと起きてくださいまし。しゃきっとしますわよ。貴方、顔を洗わないと起きない癖どうにかした方がいいと思いますわ」
「・・・んぅ」
「でも、顔を洗えば一発で起きるのは素晴らしいと思いますわ。あら?」
「おはようございます」
「おはようございます、優梨さん。誤解しないでくださいね。私とパシフィカが来た時にはこうなっていました」
攻撃されないため、とりあえず弁解から始めておく
あっけにとられた優梨さんは絶賛寝ぼけ中の光輝さんを抱き枕のように抱きしめた後、井戸があった場所を呆然と眺めながら・・・私達に声をかけてくれた
「あら、早いですわね。一咲、パシフィカ。おはよう。どうなっているかわかりませんが、とりあえず光輝を海水で起こして来ますわね」
「貴方もまだ寝ぼけていますね・・・」
「み、水ぐらい出すんで海水はやめてあげてください・・・」
遺灰回収後、ご機嫌斜めの師匠から何故か容器の綺麗な作り方を教えて貰ったので、桶を作成するぐらい楽勝だ
「杖、出さなくても魔法が使えるんですね」
「うん。師匠カスタムの一つ。収納状態でも魔法が使える。まあ、強化はかからないし、威力自体は落ちるんだけどね」
「しかし、それは杖を隠しながら戦えるということですよね。貴方の得意戦法を考えると、正直相手にしたくないのですが・・・」
私の得意魔法は支援と回復
回復はともかくとして、支援はミリアみたいに味方を強化するタイプではなく敵を弱体化させるタイプ
戦術は隠れながら支援魔法で足止め。効果が出るまで逃げ回る
杖を収納した状態で魔法が打てるとなれば、私が考えるのは隠密のみ!
けどこれが一番厄介なんだよな
あ〜あ。なにか都合の良いアイテム用意してくれないかな。ベリえもん
いやいや。今はこんなことを考えている場合ではないね
「どうしてこんなことをされたのでしょうか」
「単純に便利ってこともありそうだけど、杖を失った後、悪魔を倒すため腕に埋め込んだのを根に持たれてるっぽい」
「それ、滅茶苦茶危険な行為だと聞くのですが・・・」
「エミリーに言わないでよ。殴られると思うし」
「ええ。内緒にしておきますね・・・」
二人分の桶を用意し、適温の水を生成し・・・二人に差し出した
パシフィカは自分のマジックポケットからふわふわタオルを二人分出してくれる
「準備が良くて助かりますわ。ありがとう、二人とも」
「・・・助かる。とりあえず挨拶はカットで。状況は?」
顔を洗った瞬間、いつもの葉桜さんが帰ってくる
彼はささっと周囲の解析をした後・・・周囲を見渡し、ため息を吐いた
「一咲、そこの草むらに向かって拘束魔法」
「いいんすか?」
「やれ」
「あっ、はい」
指輪から元リュミエールを出現させる
今回は狙いが重要なので杖に出現して貰った
「ほう。これが今のリュミエールですか・・・」
「魔石部分が青いな」
「司令の影響が強くでている気がしますわね」
「ええ。師匠、私用にカスタムしてくれたらしくて、かなり師匠の影響を受けています」
「・・・一咲、今回はなぜ杖を出現させたのですか?」
「拘束とか、狙いが肝心じゃん?」
「確かに」
「それにこの子、師匠がカスタムする前から照準補正が入り込んでいるんだよね。収納時だと発動しないから、出てきて貰った方が正確に打てるかなって」
「司令がカスタムする以前・・・って、なぜわかりますの?」
「術式にも刻んだ人間の癖っていうのが出てくるんですよね。師匠の術式はお手本みたいに正確かつ最善・・・綺麗なんですよ。けれど照準補正魔法の術式は控えめに言って汚い」
「「「汚い」」」
「雑で汚いけれど、式は師匠のより最適化されているんですよね。短縮化されている分、発動も早い」
計算式で例えると、師匠は問いに対し、途中式までしっかり書き込むタイプ
けれど照準補正魔法を刻んだ人間は、途中式を飛ばして解を出すタイプ
とてもじゃないけれど、現代の魔法使いがホイホイ真似できるような代物ではないし
複製や模倣できる代物でもない
「・・・天才の仕事ですよ。これは」
「シルヴィアの遺産か」
「ええ。あの「天才様」はやっぱり凄いですね」
こんなのを見せられたら、周囲のやる気とか魔法の矜持とか無数にたたき折っていそうだ
図書館での修業時代、シルヴィアとは何度か会話をしたことがある
自分の事を天才天才と自称するヤバい奴だったが、実力は確かな代物だ
『天才な俺が作った産物にお前か今後触れられるかどうかはわからないが、一つ教えておいてやる!』
『俺は天才だが、苦手なことがないとは言っていない』
『天才もまた人だ!苦手な事ぐらい一つや二つある!』
『一番近い人の心を、推し量ることができなかったのも欠点だ。お前はこうなるなよ』
『・・・戦争だったとはいえ、親友とその家族を殺すような・・・俺のような魔法使いになるな。周囲を見ながら戦わないと、大事なものをお前自身が手にかけてしまうだろうから』
『しーさん。暗い暗い』
『すまないな、時子。とにかく、一咲。俺は生前苦手なことがあって、それを補正するため、杖に術式を仕込んだんだ。お前も苦労する事があれば杖に術式を仕込んでおけば大抵の事はどうにかなる!覚えておけ!』
『ちなみにしーさんは狙いを定めるのが非常に下手くそで、使用していた全ての杖に照準補正魔法を仕込んでいました。あと、文字が読めないレベルで汚い』
『やめろ時子!それをバラすな!』
奥さんだった時子さんが場を和ませてくれたおかげで全てを聞き出せた
シルヴィアは狙いを定めるのが苦手。照準補正魔法を仕込んでいる
元々聞いていたとはいえ、照準補正魔法を見た瞬間・・・こうしてその産物を目にした瞬間・・・私はこの杖の重みをさらに実感するのだ
「・・・天才と秀才、魔法使いとして歴史に名を残せる存在たちと共に歩み、その歩みと魔法を刻み続けた光は、とても重いっ!」
狙いは自動で定まり、私がやることは魔力を込めて拘束魔法を発動するだけ
「ぎゃぼっ!」
「んぐっ!」
「ぐべっ!」
三回発動させたそれらは全て標的を拘束してくれる
これで私の仕事は完了・・・いや、もう一つあるな
「・・・そんな杖を構えてやる最初の大仕事は滅茶苦茶格好いいものでありたかったんですけど、まさかあんたの拘束が最初とは思いませんでしたよ、陽雪さん」
「あはは・・・おはよう一咲ちゃん。そのむかつく杖見せつけないでくれる?」
「じゃあ今すぐ起きろ」
「拘束解け」
「すぐに結界圧縮してきますよね?絶対、嫌ですよ?」
「・・・光輝。俺は?」
「別に拘束解いていいかも」
「いいんですか?!この中だと八坂さんは主犯格候補では!?」
確かに、こんな大規模の被害を生み出せるのは浩一さんぐらいだろう
しかし現場を見る限り、そうではないらしい
「落ち着きなさい、パシフィカ」
「現場を冷静に分析しろ。これは落雷の被害で生み出されたものに見えるか?」
「いえ・・・」
「昨日の晩、落雷は観測されていませんわ。轟音で飛び起きることはなかったでしょう?」
「確かに。これは落雷の被害というか・・・なんですかね。周囲の木が引っこ抜かれて、地面の形が大幅に変わっているような気がするのですが・・・この場にはそんなことができる能力者はいませんよね」
「・・・仲間を売るようで申し訳ないのだが、一人だけ能力抜きでやれる人間がいる」
浩一さんは目を伏せて「すまない・・・」と謝った後、その人物の名前を出す
勿論、優梨さんと光輝さんは検討が付いている状態だ
「もしかして〜あ・に・で・し?結界で周囲持ち上げました?」
「そんなことできないよ・・・こんなことができるのは」
「「「伊依」」」
「「・・・へ?」」
出てきた名前はこの場では一番やりかねない人物
回復能力を持つだけの彼が、こんなことを
「・・・怪力なんだよ、あいつ」
「生粋ですわ。普段は抑えているとはいえ、酔うとやはり解放されていましたのね・・・」
「あの、回復術士の・・・あの、え?」
「しゅぴー・・・」
「こ、拘束解かれた!?」
「ワイヤーにするからだ」
「伊依君に物理は無効だよ」
「ほら、寝ながら木を引っこ抜いたぞ」
「あらあら。今度は大岩を真っ二つ。やりますわね」
「ぱぱぱぱぱぱパシフィカ、あの人全部無音でやってるよ。少なくとも音するような事じゃないあれ!?」
「かかかかかかか一咲、落ち着いてください、何かしらの術があるんですよ!多分!絶対!おそらくぅ!?」
「「「「種も仕掛けもないんだよな、これが」」」」
「・・・すぴぃ」
すやすやと寝息をたてつつ、伊依さんは近くに生えている木や岩を無音で持ち上げては、どこかに運んでいく
「とりあえず一咲。あいつは自然に起きない限り全自動で攻撃してくる。離れたタイミングで時間遡行なりで井戸を修復してくれるか?」
「わ、わかりました・・・。戻せるかなこれ」
私が時間遡行魔法で戻せる時間範囲内で破壊されていたら良いのだが・・・
まあ、やれるだけやってみよう
師匠の手記④「僕らの医務官様」
卯月伊更は第二部隊の専属医務官をしてくれている獄卒
夏乃さんとは大学が同じ。旦那さんも確か同級生だったはずだ
そういう縁もあり、夏乃さんが大社にいる間は伊更に頼むなんて言い出して・・・僕の情報を横流しされた。こういうの法律でしょっ引けないのだろうか。心配なのは分かるけどさ
おかげで朝昼晩ご丁寧に連絡がかかってきて「お前薬飲んだか?」とわざわざ連絡してくる
無視しても問題ないのだが、3日に1度は緊急連絡もやってくるので無視はできない
伊更の能力は「医療行為を拒む馬鹿を押さえつける」願いが形になった拘束具
僕も含め、彼女の星紋に押さえつけられた回数は数知れず
彼女のおかげで、助けられた命も数知れず・・・というところだ
大社にいる間は仕事だけではなく、私用でも気にかけてくれていた
けれど、そういうのは実の息子だけにしておいてほしい
親の人生を奪った僕には、他人とはいえ親の立場にいる人の優しさを享受する権利はない
・・⑥「僕の同級生」
卯月伊依は第二部隊の専属医務官をしてくれている卯月伊更の一人息子
大社の附属病院で精神科医をしている父親と、大社の暴君共の治療に勤しむ母親の背中を見ながら成長した彼は、同時に二人が仕事で疲れ切った姿もよく見ていたそうだ
そんな彼は「両親と傷ついた人を「全員」癒やしたい」という願いを抱き、あの包帯を手に入れたそうだ
ちなみにこの包帯、所持者である伊依もきちんと治療してくれる。願い方が良かったようだ
そこは、一安心だ
大社に属したのは忙しそうな母親のサポートに入るため。元々能力に目をつけていた別部隊の医務官をしていた職員にスカウトされ、入社
大社内で伊更に説教された後、彼女と同じ第二部隊に所属した経緯がある
ちなみにだが、怪力はどうやら父親似らしい
いつも笑みを絶やさない同年組のムードメーカー
大型犬のように僕へ抱きついてくるのだけは、辞めてほしい
なんだかんだで伊依とは中学、高校、大学まで一緒だった
高校では「紅葉君は学力的に無理だし〜、光輝君は予め工業系で進路決めてたでしょ?優梨ちゃんは女子校で、夜雲君は男子校とか嫌がると思ったから。譲君と一緒に行くのは自然と僕かなって」と、謎に心配され
大学はもっと上を狙えたはずだし、伊依は本土だって視野に入れることができていた
けれど、一緒だったな
「進路が一緒なだけだよ?本土の医大も狙える?いや、僕は鈴大の医学部がいいね。理由は尊敬する人がいるからだね」と言っていたが、彼の尊敬する人らしい人とは結局会えなかったな
・・・誰だったんだろうな。伊依の尊敬する人




