10:異なる意味の褒め言葉
一方、着陸地点周辺
不自然に空いた大穴へ引きずり込まれた私は、張り巡らされた鉄の糸を足場にしながらその「出先」を狙う
「もぐもぐ・・・次から次へと出てくる。うざい」
『・・・』
しかしその糸は私の邪魔をしないとは言っていない
無数に、まばらに、私をめがけてやってくる糸に乗せられているのは殺意のみ
やはり鈴海という世界は魔境なのではないだろうか
かつての私ならば、この環境を喜んだだろう
しかし、今の私は・・・
「んっ。ご主人達が心配だからお前邪魔。さっさと死・・・あ、もう死んでるか」
グローブを突き出し、魔力を流してカセットに反応を呼ぶ
本来であれば二ノ宮のカセットを使用するのが筋だと思う。殺せはしないだろうけど、すぐ奴を無効化できる
でもあいつのカセットは悪魔にもダメージ入る感じの・・・強い代わりに自傷する呪いのアイテム
従って、私にダメージが入らないミリアの魔力から生成されたカセットでの戦いこそ最善
・・・だと使うときまでは思っていた
「もぐ・・・」
ミリアもそこそこのダメージを入れてくると言うか
二ノ宮よりダメージの深さがエグいというか・・・
二ノ宮が全身ズタズタに切り裂いき弱らせてくるタイプの浄化だとしたら、ミリアの浄化は心臓を握りつぶすような・・・そんな力がある
あまり使いすぎるのは得策ではないが、幽霊にダメージを与えられるのもこれしかない
「・・・困った。へるぷみ〜ぱ〜し〜ふぃ〜か〜」
そろそろ上空組もここへやってくると思ったので適当に助けを求めてみる
私では足止めが限界というところだろう
今回は相性が悪い
能力者同士の戦いというのはそういう部分が存在するのだ。仕方がない
だからここは無様と言われようが助けを求める
なに。私は一人で戦っているわけでもないし、仲間がいないわけでもないのだ
とりあえずパシフィカならどうにかしてくれるだろう。持つべきものは身体を半分にされようが生きている精霊の戦友だ
しかし現実というのは非情である
残念ながら、ここにやってきたのは・・・
「あっ!ヴェル!ちょうどよかった!受け止めてください!飛べましたよね!?」
「ごめん。私飛ぶの下手くそ」
「それ、ベリアでは?」
「残念。私だよ」
「ひょえっ!?」
「ところでエミリー・・・箒どこやったの?」
「マジックポケットの中で引っかかっちゃって・・・!」
「取り出せないのかぁ」
慌てて取り出そうとして、何かに引っかけたのだろう
相変わらず残念なところが光る魔法使いだ。そういうところも彼女の愛らしい部分なのかもしれない
が、今回はちょっと落胆。肝心なところぐらい決めてほしい
「じゃあ杖」
「杖を箒代わりにするのは抵抗感があるます!」
「ご主人達は平気な顔でしてるのに・・・?それにこんな有事の時に抵抗感云々の話する?」
「あれは特殊な例です!って、ヴェル!貴方戦闘中じゃないですか!なに呑気に話してくれてるんですか!?」
「今気づいたの?エミリー鈍感・・・」
「とりあえず!援護します!爆撃しますね!」
『「え」』
私と交戦していた光城とかいうのも素っ頓狂な声を出す程度には、エミリーの選択に度肝を抜かれた気がする
『あ、あの・・・私、幽霊なのでノーダメなんですよね。だからその、避難した方が』
「話が分かる幽霊で助かる」
『さあ、早く!』
こいつが私を巻き込んだ状態で爆撃を受けたくない理由は嫌というほど理解している
エミリーが私の持つカセットを破壊してしまえば・・・周囲に浄化の力が蔓延する
こいつが動き回れる環境ではなくなるのだ
私がこいつなら、こうやって体よく逃がした後・・・油断した一瞬を襲撃する
「あばよ。光城椿。感謝する」
『ええ。また会いましょう。悪魔さん』
「ん。私は悪魔。姑息で性悪な存在」
正々堂々戦うとか、そういうのは考えていない
グローブからミリアと二ノ宮のカセットを外し、光城がいる爆心地に投げ捨てる
「私は人間体でやり過ごすけど、お前はこの二人の浄化をどうやり過ごす?」
『・・・』
「私、悪魔。外道戦法、上等」
『きさっ』
断末魔をあげる間もなく、光城は爆撃の渦へ飲み込まれていく
私はそれを依代人形でやり過ごし・・・空気の震えがなくなった瞬間、再び悪魔体に戻る
私の背には壊れてしまった依代人形
なんだかんだで長い付き合いのあるそれに別れを告げながら、空中を蹴り上げ、まだまだ落下を続けるエミリーを抱き留めに向かった
・・
そして次に地下入口付近
川辺伊織の猛攻に前回のメンバーに加えて智久さんと私が加わった状態で対処を行っているのだが・・・
「本体が幽霊になった分、動きがさらにわかりにくくなったね。智影お兄ちゃん」
「まあ、うちにも幽霊特効の浄化持ちがいるから十分対処は可能だよ。ただ、向こうも浄化の危険性には気づき始めたはずだ」
「ミリアお姉ちゃんの浄化強いもんねぇ。紅葉お兄ちゃんぐらいの威力があるように見えるよ」
「それは、なんというか」
嬉しい言葉だと、思える
この世界に来て、繋がりに触れ・・・私に残された魔力紋と浄化は確かに二人との縁を結んでくれた
本当の家族ではないけれど、本当の家族のように
この浄化という力だって、本来は別のものかも知れないけれど
彼に似ているね。そう言われるだけで受け継ぐものを受け継いでいるような嬉しさを覚えるのだ
「・・・ちなみに五菜、これ褒めてんのか?」
「褒めてない。凶悪だねって方向性。紅葉お兄ちゃんよりあれは高いよ。殺意」
「だよなぁ。だって、あいつの浄化を受けた川辺滅茶苦茶苦しんでたって言うか」
「心臓発作起こしてた感じだからねぇ・・・死人とは言え、その苦悶っぷりは怖かったよ」
「どうしたの、二人とも」
「「いや、なんでもない。この後も浄化よろしく」」
「わかったわ!」
何か聞いてはいけないようなワードが聞こえたような気がしたけど、気のせいよね
今後も浄化を頑張っていこうっと!
「ふんっ!」
『隙だらけだよ。浄化能力者・・・お前さえ潰せば!』
「何が「隙だらけ」ですって?」
「ふぇ?」
これからも頑張っていこうと気合いを入れた瞬間、背後から強い風
その風に吹き飛ばされそうになったところを、器用に回転しながら飛んでくる「風を生んだ当事者」
パシフィカは額に血管・・・いや、流血しながら、先程まで私が立っていた場所を・・・
否、半透明の何かが転がっている場所を睨み付けていた
「・・・ひゅう、やるなぁ」
「うわぁ・・・これはちょっと可哀想」
「智影様、この辺に仕掛けた爆弾がごば・・・いえ、違いそうですね」
「何の音かと思えば・・・こんな」
他の四人がドン引きする様子を見られる機会があるとは思わなかった
少なくとも湊川さんと春雨さんはアルバイトの斡旋でよく顔を合わせた訳だ
知らない仲ではないし、よほどの事がない限り表情が動くような存在出ないことも理解している
「・・・パシフィカお前、山の中では滅茶苦茶手抜いてたんだな」
「まあ、山火事は嫌ですし・・・責任を負うのもですが」
「ここに残ってほしいなぁ・・・」
「嬉しいお言葉ですが、無理ですね。私にはちゃんと帰るべき場所があるので」
「だよなぁ。残念だ」
「さて、ミリア。意識は問題ありませんか?」
「へ?あ、うん。大丈夫だと思うわ」
「その「思う」というのが一番不安なのですが・・・」
「大丈夫。気にしないで」
「それなら構いません。では、私達も地下に向かいましょう」
「いやぁ。その心配はいらないんじゃないか?」
湊川さんと久世さんが私達の肩を叩き、その方向へ視線を促す
その先には、舞光を足場にしながら一行を先導してきた永羽
後ろには無傷の一咲とベリア、それから三人に同行した紅葉さんと千早さん、夜雲さんもちゃんといる
それに、その中には先生の姿もあった
二人は、きちんと目的を果たせたらしい
「せん・・・」
「ミリア、今から行くのは危険です」
「どうして?」
「だってそりゃあ・・・」
先生の姿を確認したのは何も私達だけじゃない
葉桜さんから招集を受け、第二部隊の面々が一気にこの場へ集結するのだ
そもそも、私達は忘れてはいけないことが一つある
鈴海大社特殊戦闘課第二部隊の全員がこの作戦に参加・・・否、協力してくれたのは、何も一咲が椎名さんの弟子だからとか、そういう特別な理由ではない
第二部隊の総員が、彼にもう一度会えるチャンスだからとこの作戦協力に乗ったのを、忘れてはいけない
「何勝手に死んでくれてんだ!置いていくな!」
『すまないね、和夜。でも置いていくよ。死んでほしくないからね』
「司令、お会いしたかったですわ!」
『もしかして優梨かい?あ、でも槍を突き出すのはやめて貰えるかな。危ないよ。後ろの紅葉が』
「おいこら優梨!生きている人間の事忘れんな!お前の槍が当たるだろうが!千早、大丈夫か?」
「平気よ?」
「夜雲と千早さんは一咲の結界に守られているからな」
「守って貰わなかったお前が悪い」
『よく見ているね、浩一。変わりがないようで』
「これでも五年が経過してやがるのです。だから、全員何かしらの変化はあるのです」
「変わっていないのは貴方と、貴方に執着した私達の総意のみと言ったところでしょうか」
『夏帆と理樹だね。相変わらず仲がいいねぇ』
攻撃ができる能力を持つ面々は先生を囲い込んで、再会の喜びで能力をぶつけていく
あの場に我先にと駆け付けたらそりゃあ危ないな・・・
「しかしこれ、風物詩みたいなもののようですね」
「そんなわけ」
「怪我人は僕のところにおいで〜」
「死にたくない子は僕の結界内においで〜」
「準備がいいじゃないですか」
「嫌よこんな暴力が当たり前のように存在している部隊!」
おそらくあの渦の中で一咲をはじめとした五人は結界内で自衛し、結界に漏れた紅葉さんは周囲と混ざって洗礼を受けているのかもしれない
無事に帰れるように祈りつつ、周囲が落ち着くのを静かに見守った




