40:貴方と物語の終わりまで
瓦礫を足場にして安全地帯へ舞い降りる
一咲ちゃんは怪我一つなし。うん、任務成功ってところかな
「と、とわちゃんさん・・・」
「どうしたの、一咲ちゃん」
「私をお姫様抱っこするほどに腕力が・・・」
「鍛えましたので。しばらくそのままでいて」
「う、うん・・・あ、他の皆は?」
「この子に頼んだ」
足を差し出すと、その子はもけけけけっと私の肩へ登ってきてくれる
「・・・この子誰」
「森の大妖精モケケ。この裏山に住んでいるんだって」
「・・・つまり、となりのモケケ?」
「もけっ(そうだけどなんか違うぞ)」
「うわ喋った!」
「一咲ちゃんにもわかる?」
わからない人には「もけもけ」言っているように聞こえるらしいけれど、聞こえる人にはちゃんと言葉がわかるようだ
ただ、モケケ側には私達の言葉は理解できていないらしい
永羽ちゃんはモケケ語を操れるらしく、私とモケケの通訳を買って出てくれた
「うん。で、君はどういう経緯で永羽ちゃん達に協力を?」
「もけもけ(私に協力した経緯を話してくれる?)」
「もけもけけ(元々、この家の息子は私と召喚契約を交わしていた)」
「もけっ(あいつ、死人でありながら私を異世界に呼び出したり滅茶苦茶でなぁ)」
「もけぁ(まあそれは置いておいて、私は人工魔獣に混ざって愁一からご飯を貰っていてな)」
・・・デブ鳥に混ざって、餌を貰っていた?
こいつ大妖精としてのプライド無いのか?
「もけもけ(まあ、一宿一飯の恩義というものだ。奴を手にかけた人間が現れたら問答無用で殺そうとしていたところを・・・お前に目をつけられたな、霧雨永羽)」
「なるほどなるほど。でも、永羽ちゃんはどこでモケケの存在を知ったの?」
「柊さんの動きに気がついた頃かな。モケケが紅葉さんの家に現れたんだって」
「もけっ!」
「話せる人間を話していたところで、私が話せることが分かって・・・そこから、彼の復讐計画と椎名家周辺に配置されたモケケセンサーの話を聞かせて貰ったんだ」
「じゃあ、永羽ちゃんって曾お婆ちゃんがこの家に潜んでいたこと」
「ノーコメント」
「あっ、はい」
「それから色々やって、モケケに柊さんがここに近づいたら連絡するように取り決めをした。ヴェルからも予めここにいく連絡は受けていたから、これはまずいと思って私だけ先行したんだよね」
「ヴェルにまで手を回していたとは・・・」
「現状、私は常に一咲ちゃんの側にいられるわけじゃないし、一緒に暮らして、行動が一緒になる頻度が高いヴェルに頼むのは当然だよ」
「・・・私が狙われていること」
「あの人、私と顔を合わせる度に一咲ちゃんの事聞いてくるんだもの。警戒するに決まっているでしょう?」
なんということでしょう。最近妙にヴェルが「一緒に遊ぼ、ご主人」と、色々我慢した顔で言って来るのは何かしらの理由があると思っていたが・・・
まさか私自身が春風柊に捕捉されていたなんて思わないじゃないか
「・・・言ってくれたらよかったのに」
「言ったら一咲ちゃんは一人でどうにかしようとするでしょう?自分の師匠の悪いところばかり受け継いでいるから」
「一人でって・・・まあ、永羽ちゃん達を巻き込めないし。でもそれが師匠と何が」
「あの人は、一人で復讐の道を歩んだ。事情を話せばこれだけの人が春風柊という人間を合法的に狩るのに協力してくれる人望と信頼を持ちながら」
「それは」
目の前で事後処理に走る大社の面々はこの半年間、さらに関わったことで今まで知らなかった一面も垣間見た
永羽ちゃんはより親密に関わった分だけ、彼らの生きた時間に触れたはずだ
「一人で戦うと死ぬリスクが上昇する。二人で協力したら?」
「それは?」
「十二歳の彼は紅葉さんと夜雲さんの前でそう言いきったらしいよ」
「・・・言っていることと、自分がやったこと真逆じゃん」
「そう。真逆なんだよ。見える?あれだけの人達が、春風柊が椎名譲の復讐対象だから討伐に手を貸してほしいと・・・証拠さえ揃えれば私が言うだけでも動くんだよ?」
「すげえな第二部隊」
紅葉さんと夜雲さんと和夜さんは勿論だが、本来なら現場に来なさそうな葉桜さんや伊依さんの姿もある
非常勤枠の浩一さんや千早さんもいる
顔と名前が一致するほど第二部隊の面々と関わったわけでは無いからわからないけれど、こんな場所に全員集結しているのかもしれない
「凄いのは信用の稼ぎ方だよ。伊達に人の人生変えてないね」
「そうだね。私達も変えられた身に、な」
「でも私、やっぱりあの人苦手だな!」
「ストレートに言うねぇ!」
晴れ晴れしい笑顔で告げるあたり、永羽ちゃんは何も言わないだけで師匠のことは結構苦手だったようだ
まあ、彼女目線だと師匠はかなり不審者やってる気もするし、仕方ないかもな
積極的に私との縁を繋いでくれるいい人ではあるけれど、目的も理由もさっぱりわからず、親の暴言に対して暴力を代行したり、入院費用代わりに払ったり
挙げ句の果てには記憶を代償に運命を作り上げる他人とか気色悪いにも程がある
「優しいのは美徳だよ。だから巻き込みたくない気持ちはわかるけれど、巻き込まれずにモヤモヤしている人達の気持ちも考えたら?って思う」
「ごもっともで」
「そういう師匠の悪いところを、一咲ちゃんも継いでるの自覚ある?」
「そんな訳ないじゃん」
「アングスフェアリレンへの身代わり・・・」
「けどあれは運命をねじ曲げる為に必要な」
「必要な犠牲なんてものはないから」
「うっ」
「あの時は、仕方がなかったかもしれない。けれど今後は?何も定められていない今後はどうなるの?」
「・・・」
永羽ちゃんは私を抱きかかえたまま、ゆっくりと移動を始める
腕は微動だにしない。しっかりと私を固定した彼女はブレること無く、まっすぐに
「私はこの半年、自分でも分かるぐらい強くなった」
「そうだね。舞鳥の称号まで得てきてるし・・・どれだけ、何度、繰り返したの?」
「動けるときはひたすら。おかげで最短記録を塗り替えたよ」
やだこの子、目を離した隙にいつの間にとんでもない功績を成してきちゃってる・・・
「まあ、一人だけの力じゃ無いけれどね。紅葉さんは能力が近いから色々参考にさせて貰って、優梨さんや理樹さんには何度も模擬戦に付き合って貰って、光輝さんには粗探しを常にお願いした。伊依さんの治癒にも何度もお世話になったかな」
「無茶しすぎでは」
「時間が短いからね」
「どうして、そこまで」
「このままじゃいけないでしょう?今後、何が起こるかわからないんだから」
「・・・」
「私は今まで能力の使い方を何となくしかわかってなかったひよっこだったから。一咲ちゃん達に守られて、皆の力に頼りっぱなしだったでしょう?」
まあ、確かにそうかも?しれないけれど・・・
私はそんな永羽ちゃんに助けられてきたし、これ以上はと思う部分も少なからずあるわけで
「皆に守られるのは嫌?」
「嫌じゃ無いよ。嫌じゃ無いけれど、私もパシフィカやヴェルみたいに前へ立って、皆と戦いながら、支えたいなって」
「・・・」
「どうして、そこまで考えるようになったの?」
「私には、必要としてくれる人が、大事にしてくれる人が側にいて・・・それに、家族になっていいよって言ってくれる人がいるって自覚したから」
「そっか」
「だからね、一咲。私はちゃんと貴方を守るよ。皆に力を借りながら、貴方と物語の終わりまで、一緒に駆け抜けるから」
「ありがとう、永羽ちゃん」
「・・・いつもは「はわわ」ってなるのに、今日はシカト?」
「?」
「・・・まあいいや。ここからも長いんだから」
不意に呼び捨てをされたものだから、本当に驚いた
彼女から呼ばれるのはいつだって「一咲ちゃん」その符号が崩れることはないと、心乃どこかでは考えていたのかもしれない
呼び捨てにされた事自体は嬉しいのだが、どこか物寂しさを感じてしまう
けれど、これは前に進むために大事な符号だ
私も・・・
「あ、ご主人達帰ってきた」
「無事か、一咲!永羽!」
「なかなか戻らないから心配していたんですよ!」
「ごめんごめん。友江一咲、無事に帰還しましたぜ!」
三人はどうやらモケケの誘導で外に出ていたらしい
巻き込まれたのは私と、曾お婆ちゃん・・・あれ?曾お婆ちゃんは何処?
まあいいか。なんだかんだで無事だろうし
永羽ちゃんから降ろして貰った私は、ヴェルからの抱擁と頬ずりを受ける
「永羽、取り決め、果たした」
「うん。報酬は後で支払うね」
「大社食堂の日替わり定食六月分の奢り。楽しみにしてるね」
私の安全、日替わり定食一ヶ月分で取引されていたらしい。やっす
ヴェルの護衛が親切価格で受けられたと割り切るべきか
「私は今から大社の職員として事後処理に入るから、皆は先に戻っていて」
「頑張ってね、永羽」
「うん。ありがと一咲・・・え」
「どうしたの、永羽」
「ううん。なんでもない。じゃあまた後でね」
永羽の後ろ姿を見送り、私達は家に戻らず・・・大社の事後処理をぼぉっと眺めることにした
やることもないし、それに現実を受け入れる時間という名の「頭を整理する時間」というのも必要だから
それに、ここに文字が読める面々が集っているのはちょうどいい
私達には、まだやることがあるのだから
「ベリア、とりあえず・・・師匠の部屋にあった手紙とか諸々読んでみようか」
「ああ」
「私にも手分けをさせてください」
「じゃあ、エミリーとベリアはノートを頼むよ。私は手紙を読んでみるね」
私がこの選択を後悔するのは、永羽が仕事を終えて私達に合流した頃
手紙とノートに残された師匠の両親の記憶は
私達の精神を、ぐちゃぐちゃにする威力がしっかり存在したことを永羽が知るのは・・・もう少し後の事だ




