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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第2章:要塞都市「スメイラワース」/精霊たちの条約

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1:追憶と砂漠の旅

「…ん」


あの魔法使いさんに心残りを託した後、私は迎えに来てくれた二人と共に次へ旅立った。

光の先にあったものはゴールであり、次に目が覚めた先は終わりを迎えた者しか立ち入れない場所。

そう思い込んでいた時期が———私にもあった。


「んっー…!」

「ほぁ…あれぇ…?二人ともいない…?」


一緒にいたはずの二人の姿はどこにもなかった。

おかしいな。今度は一緒に逝けると思っていたのに。

また、離ればなれだ。


「…あの世界の魔法使いは約束を違えることはできない」


だからこそ、これが一種の「予定外」であることはすぐに理解した。

どんな魔法使いでも、誓約の枷からは逃げられない。

あの魔法使いさんだって同じ。どれほど強くとも、彼もまた魔法使いであるのならば、誓約から逃れることはできやしないのだ。


「とにかく、まずは状況把握からですね」


懐かしいと思える軽い足取り。

末期は車椅子で移動していたから、歩くのは本当に久しぶり。

何十年も歩いていなかったはずなのに、昨日まで当たり前に歩けていた人のように、私の足はきちんと動いてくれた。

それに身体のどこも痛まない。杖も使わなくたっていい。

かつては当たり前だと思っていた全ては、とうの昔になくしてしまって、今ではその当たり前を懐かしく思えるようになってしまっていた。


「ああ、よかった。そこの方」

「…」


歩いていると、人影を見つける。鎧を着込んだ大男だ。

しかしきちんと声をかけたはずなのに、その人は私を一瞥もせず通り去った。

鎧が分厚くて、声が聞こえなかったのでしょうか?。


また人影を見つける。

今度は近づいて、きちんと目線を合わせて問う。

今度はハープを持った女性。こちらの方なら、きちんと私の声は届いてくれるはずです。


「すみません」

「…」

「あ」


こちらの方も同様。私は視界に映っていないどころか———。

———私自身も、見えていないらしい。

その人は私の身体を通過して、何事もなかったかのように前へ進んでいく。


「ふむ。遂に私も幽霊というわけですね。未知なる体験をしている今、これを題材に一作行きましょう!蒼時さん、新しい連載は幽霊ものなんてどう…で、しょうか…」


ああ、そうでした。ここには相棒が、蒼時さんがいません。

雑誌連載の話をしても、それを聞いてくれる存在がいないのです。


「…あれ?」


記憶がおかしい。

最期まで歩いたはずなのに、最期の…いや。

———この姿相当以降の記憶が、全部抜け落ちてしまっていないか?

周囲を見渡し、ちょうどいいところで川を見つける。

そこに映るのは、袴姿の女学生。

記憶を確かめるために、真っ先に思い出したことを口に出す。


「私は鴇宮紫苑ときみやしおん…大正生まれ昭和育ちの、劇団舞鳥所属の戯曲作家で…今は、鳩波家に居候しながら、暮らして…」


———それ以降は?

私にはそれ以降があるはずなのに。

全然、思い出せない。


「あっ…ああっ…」


とても大事なことを忘れてしまった気がする。

忘れてはいけない存在のことや。

私の願いに関わる存在のことも。

何もかも、記憶に存在しない。

それにここはどこだろう。

私はなぜこんなところにいるのだろう。


「…私は、何を成すためにこんな場所にいるのだろう」


川上にある城壁に囲まれた場所を眺めながら、小さく呟く。

大きな教会だろうか。あんな立派な建築は初めて見た。

海外にでも来たのだろうか。


「んー…不安ですけど、何もせずにうつむいていてはどうしようもありません」


歩いているうちに、私の存在を認識できる存在も現れてくれるでしょう。

それに私の姿が見えないということは、わりと自由が保障されています。

服が怪しいとかそういう理由で捕まったりする心配はありません。


「とりあえず、適当に観光でもしておきましょうかね…」


その場から立ち上がり、とりあえず目の前にある都市へと足を踏み入れてみました。

文字は…なんか読めました。

聖教都市メサティスという場所らしいです。文字や言語は問題なく通じるみたいですねぇ。

便利です!超便利!


「ふんふんふ〜ん!」


鼻歌交じりに町中を闊歩する。

いずれ来る「出会うべき人たち」と巡り会うまで、私の「誰にも認識されない観光」が幕を開けた。


・・


「…暑い」

「暑いね」


あの後、私たちはすぐにウェクリアを発ち、北側の砂漠方面を歩いていた。

本当は観光とかしたかったのだけれど、そんな空気ではなかった。

何も考えずに外に出たら「勇者様」と人に囲まれて、外出をするような空気ではなくなってしまう。

都市を発つ前にはもう、食事すらままならず…ノワに魔法で食事を出して貰ってしまったほどだ。

とにかく、都市を出られなくなる前に都市を出た方がいいだろうということで、消耗品の買い出しや次の目的地に適した服など整えることなくウェクリアを出発したというわけだ。


そんな無謀な行為のツケが、これである。


どんなときでも、下調べと準備だけは怠るべきではなかった。

消耗品は最悪ノワが魔法で代用できるからいいとして…道中の魔物も厄介だったけれど、剣の練習台になってくれる程度の強さだったから問題ないとして…。

…服装だけは、ちゃんとすべきだった


ウェクリアは過ごしやすい気候だったけれど、やはりここは暑苦しい。

全身から汗が噴き出しているような感覚さえ覚える。

ケープは鞄に押し込んで、ブラウスの袖は折り曲げ半袖に。

みっともないと言われるかもしれないけれど、第一ボタンも開けて、少しでも涼しくなるように工夫を凝らした。


「ひぃ…」

「…」


暑いのは私だけじゃない。

もちろんノワも同じなのだけれど…彼女は普段と変わらない厚着のまま。

汗だくで、今にでも倒れそうなほど顔を真っ赤にした彼女は魔法の杖を歩行補助用の杖のように扱いながら、砂漠を進んでいた


「いい加減ローブを脱いだら?暑いでしょう?」

「やだ。目立つ」

「周囲に人はいないし、問題ないと思うのだけれど」

「それでも…嫌なものは嫌みたいで、身体が言うことを聞かない。心配してくれてありがとう」

「大変だね…」


その身のコンプレックスは理解できる。

一咲ちゃん自身はどうやら脱ぎたがってはいるらしい。

けれど、ノワとしては薄着になりたくないらしい。

…理由はわからないけれど、大変そうだ。


「そうだ、魔法で氷を出したら?少しは涼しくなるかも」

「んー…そうだね」


彼女は無詠唱でまず革袋を二つ出す。

その後に氷を出し、それを革袋の中に押し込んだ。


「はい、これ」

「いいの?」

「いいって。暑いでしょう?これ、首に当てるだけでも多少はマシになるから…」

「ありがひゃっ!?」


そのまま手に乗せて貰えるかと思ったら、彼女のいたずら心が発揮されたらしい。

革袋は私の手ではなく、首筋に押し当てられ、驚いた私は変な声を出してしまう。


「なにするの!?」

「あはは!ごめんごめん。今度はちゃんと渡すから」

「本当よ…次、そんなことしたら追放だから」

「あ〜はいはい。追放ノルマお疲れ様」

「ノルマ扱いしないでくれる!?」


今度こそ氷袋を受け取りつつ、周囲を見渡す。

ふと、西側に城壁らしきものが見えた。


「ノワ、あれじゃない?」

「ん…砂埃で見えにくいけど、確かに次の目的地だ」

「先に都市に入り込んでしまいましょう。中に入れば、今よりはマシになるかもしれないわ」

「了解。もう少し頑張ろうか」

「ええ」


次の目的地は当初の予定通り、要塞都市「スメイラワース」

勇者パーティーを作るために必要な僧侶と魔法使いの加入がダメになった今、今度の仲間である騎士には必ず加入して貰いたいところ。

一咲ちゃんには悪いが、一人でも加入していたら、多少なりともノワの目的は阻止できるだろうし。

追放も、容易になる可能性も高い。


ただ、一つだけ懸念すべきところがあるけれど…。

それはお互いに我慢するしかない。物語でも、ここでも。


「とりあえず、都市についたらやらないといけないことがあるわ」

「うん。そうだね。凄く大事なことだ。一応聞いておくけれど、教会に立ち寄って女神に挨拶なんて無粋なことはしないよね?」

「ええ。今回ばかりは優先すべきことがあるわ。まずは」

「「水浴びして、着替えたい!」」


同じことを考えながら、私たちは要塞都市の入口へと向かいだした。

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