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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第7章中:「鈴海」/福音と幸福の断片

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32:3月3日。私はずっと待っていた

ひな祭りという日は、友江家にとって特別な日だ


鳩波志郎。一ノ瀬さんの時渡りで幼い彼に出会ったが、私にとっての鴇宮志郎は「お爺ちゃん」

決して、母親に縋る幼い男の子では無いのだ

そんなお爺ちゃんは、ひな祭りの朝に友江家にやってきてお雛様を出して一泊

4日に片付けて本土の自宅へ帰還するという謎の習慣を毎年続けている


理由は、お父さんとお母さんにもわからない

更に言えば、私が死んで五年が経過しているのに、これまた毎年お雛様を出す習慣を続けているそうだ


「お母さん、本当に来るの?」

「絶対に来るわ」

「入院中も脱走してきたからねぇ」

「流石曾お婆ちゃんの息子だねぇ・・・」


「しかし、何を待っているんだか」

「待っているって?」

「お父さん、ずっと「待ち続けているだけ」だって言っているのよね」


待っている、か

お爺ちゃんは口癖のように「何度でも待っているからね」と言いながら、私の頭を撫でてくれるんだよな


「何を待っているか、わからないの?」

「うん。お爺ちゃん、そのことに関しては何一つ言ってくれなくて」

「噂をしたら到着したわよ。あの人」

「あの人・・・」


お母さんが指し示した先にいたのは、杖をついた白髪の男性

記憶の中のその人より年老いて、更に痩せただろうか

それでもその足取りは、九十歳ぐらいの老人にしては軽い部類だ


「おーい、優月!昭彦君!」

「お父さん、大声出さなくていいから」

「お久しぶりです、お義父さん」


お母さんとお父さんがお爺ちゃんの元へ駆ける後ろで、私と永羽ちゃんは二人についていく


「それからね、お父さん。今年は・・・」

「今年は、どうしたんだい?・・・おや」


お母さんは私たちをお爺ちゃんに見えるように立たせて、目を泳がせる

流石にお母さんであろうとも五年前に死んだ娘が色々あって一時的に帰ってきました・・・なんて言いにくいよな

ここは私がきちんと伝えないとだよな


「・・・ええっと、その」

「君にとっては、たったの数日程度かな。しかし私にとっては何十年も前のことだ」

「・・・」

「私はあの日、母と共に見せて貰った魔法を覚えているよ」


お爺ちゃんはくるくると指を回し、魔法を発動するような仕草を決めた後、子供のような笑みを浮かべる


「え、なんでその話題、覚えて・・・」

「覚えているさ。忘れるわけにはいかないと、紙にあの日の思い出を書き留めて、今日まで・・・君にもう一度会える日まで待っていた」


お爺ちゃんは「孫にそっくりな私」に、記憶の中にある表情で語りかける


「また会おうねと言っただろう?私は「君」に会えるのを待っていたよ・・・一咲お姉さん」

「・・・覚えているとは予想外だよ、志郎君」

「魔法も特殊能力も使えない私が、魔法使いである君を驚かせるには長生きをして、再び君のことを覚えている状態で再会することだと思ったからねぇ。頑張ったさ」

「たった一瞬の為に?」

「ああ」

「私が死んだ時、驚いたでしょ」

「そうだね。でも、必ずまた会えると思っていたよ。私が知っている一咲お姉さんは、十六歳で亡くなった一咲より年上だったからね。まさか死後五年の世界からやってきた存在だとは思わなかったよ」


幼い彼は何十年、この記憶を抱えて生きて

いたのだろうか

忘れないようにと記憶を書き留めて、私に再び会う日を何度も思い浮かべてくれていたらしい


「あの、二人とも。何を話しているの?」

「「少し思い出話をね」」

「思い出って・・・お義父さん、なぜこの子が一咲だと」

「話せば長いから、続きは家に行ってからでいいかい?それから、一咲」

「なに、お爺ちゃん」

「隣にいるこの子の事を、そろそろ教えてほしいな」

「うん。この子はね、霧雨永羽ちゃん。私の親友だよ。心の友って奴さ」

「は、初めまして・・・霧雨永羽です」

「こんにちは、霧雨さん。私は鳩波志郎。一咲のお爺ちゃんです。一咲がいつもお世話になっています」

「い、いえ。こちらこそ・・・一咲ちゃ、さんにはお世話になっておりまして」

「いいんだよ。砕けた口調で。他人行儀は嫌いなんだ。私の事は実の祖父のように思っていい。私も孫だと思うし」

「さ、流石に・・・」

「いいんだよ?嫌なら友達で行こう」


戸惑う永羽ちゃんに、私は耳元で「うちのお爺ちゃん、こんな感じなんだ。曾お婆ちゃんより常識があるけど、やっぱり押し強めだから・・・流されてくれると」と、お願いしておいた


「わ、わかった・・・この押しの強さ、鴇宮さんの身内だね」

「君は母のことも知っているんだねぇ。一咲、一体永羽・・・だけじゃないな。べっさんも含めて何に巻き込まれたんだい?」


やはり曾お婆ちゃんの息子だけあって、色々と勘が鋭い

意地で私の事を覚え続け、この時代まで長く激動の人生を歩んできた祖父には、二つの人生経験を合わせたとしても勝てそうになかった


・・


友江家に移動し、お爺ちゃんの習慣である雛人形を出すのを手伝いつつ、私達は互いに何があったか永羽ちゃんに伝えておく

まず、私は朝比奈さんと一ノ瀬さんがやってきた日に一ノ瀬さんの能力で時渡り・・・時間旅行を行って、若かりし頃のお爺ちゃんと曾お婆ちゃんの元へ行ったこと


「じゃあ、ベリアが持っていた福音書の守り手・・・鴇宮さん分の原稿って」

「現地収穫」


若かりしお婆ちゃんが、福音書の守り手を書けていなかったから・・・私達は更に未来へ飛んで、年老いた曾お婆ちゃんから福音書の守り手の原稿を貰ったこと

その先で事故があり、生きていた師匠の両親に出会ったことも伝えておいた


「あの一瞬で色々な事があったんだね」

「うん。実に13話分。いやぁ。大変だった」

「じゅうさ・・・?」

「たまにうちの母さんも言っていたよ。こういうのは気にしない方がいい言葉らしい」

「は、はぁ・・・」


やはり曾お婆ちゃんの息子!曾お婆ちゃんのメタネタさえもスルーし続けたらしい

私のも華麗にスルーして、お爺ちゃんは何事も無かったかのように素早く雛人形を箱から取り出していく

長年一人で作業しているおかげか、私達がいなくともお爺ちゃんは一時間で全て設置し終えてしまった

綺麗に飾られた立派な雛人形を見上げ、私と永羽ちゃんは感嘆の声をあげる


「「わぁ・・・!」」

「これでよし」

「きれい・・・」

「早いねぇ、お爺ちゃん」

「慣れだよ。慣れ。これでも随分衰えたほうさ」

「・・・雛人形設営RTAとかされてる?」

「ギッネス記録持ってるよ」

「あるの!?」

「冗談だよ。この前更新されたから」


つまりのところ、更新前は持っていたということだ

本当に何をしてきたんだ、お爺ちゃん


「しかし、なぜこれを毎年出しているのですか?」

「雛人形は厄払いの役割があるんだよ。出すだけで雛人形が持ち主の厄を追い払ってくれると言われているんだ」

「・・・」

「厄を追い払えば幸だけが残る。一咲に健やかな成長と幸せが沢山やって来ますようにと飾っているんだ」


永羽ちゃんは無言でお爺ちゃんの話を聞いているが、私としては複雑だ

健やかな成長?幸せ?

それは生きていて初めて享受できるもので・・・


「お爺ちゃん、私死んでるんだけど・・・」

「死んでいても、一咲は私が鳩波志郎である限りずっと孫。姿が変わろうが来世の君も一咲の魂があるのなら私の孫みたいなものさ。来世の君が元気にやれるようにと祈るぐらいいいだろう?」

「お爺ちゃん〜!」


昔からたった一人の孫だから私の事をとても可愛がってくれていたお爺ちゃん

忘れてしまった思い出の方が圧倒的に多いけれど、そのぬくもりは忘れていない


「・・・一咲ちゃんのこと、大事にされているんですね」

「そりゃあ可愛い可愛い孫だもの!それにね、一咲は特別なんだ」

「「特別?」」

「ああ。さっきも言ったけれど、一咲があの日、幼い私がいた時間に来てくれたおかげで、お母さんは目的を見つけたのか元気になって、蒼時さんとの関係も落ち着いた」

「そうなの?」

「ああ。「玄に悪いから」と二人は再婚こそしなかったけれど、蒼時さんは死ぬまで僕の育てのお父さんをしてくれたし、お母さんもそれを認めてくれていた。おかげで私は産まれる前に父親が死んだ身だけれども、父のぬくもりというものを知る事ができた」


「あの日がきっかけで?」

「君とべっさんが現れた後からだからね。偶然かもしれないけれど」


少なくとも、曾お婆ちゃんは私の魔法を見てから、お爺ちゃんとの時間を多く作ってくれるようになったらしい

ベリアと何かを話してからは目的・・・おそらく、福音書の守り手の執筆を持ったことで、仕事や燕河さんと真摯に向き合うようになったそうだ


「あの日、私の家は将来私の孫になる女の子に救われたのだろう。いつか必ずお礼を言わなければならないと心に決めて、必死にあの日の出来事を記憶へ留めていた」


数え切れないだけの紙に記憶を描き

夢の話じゃ無いのかとか、冗談だと笑われながらも口頭で伝えてきたそうだ

曾お婆ちゃんと燕河さんは信じてくれていたらしい。当事者だからということもあるだろうが

志郎が嘘を吐くわけが無いと、最後まで信じてくれていたそうだ


燕河さんは私が産まれるのを見届けることはできなかったけれど、曾お婆ちゃんは私と対面し「ほら、志郎は嘘を吐かなかった」と言ったらしい


私が十三歳の時に病気で亡くなったお婆ちゃんは、最後まで信じてくれなかったそうだが、他の誰かのように否定すること無く聞き入れてはくれていたらしい

もちろんお母さんも信じていなかったが・・・

私が産まれた後、魔法の才があることに面食らっていたそうだ


「身内からしたら超絶怖くない?」

「怖いだろうねぇ。一咲がいる今、笑い話で済んでいるけれど、当時は気が触れたんじゃ無いかって言われていたんだ」

「それでも、覚えて・・・誰かにその日の事を伝えていたんですか」

「ああ。大事な思い出だからね。私の転機と言ってもいい」

「いいなぁ」

「だろう?それにね、私の話を信じてくれた人とは未だに交流があるんだ。この歳だから死んでしまった人も何人かいるけれど、晩年も会いに行くような関係を続けられていたよ」

「一咲ちゃんは、志郎さんにとって良縁を運ぶ存在だった・・・と?」

「そんな感じだね!」


私が知らない場所でも、私はお爺ちゃんに幸をもたらしていたらしい

だからこんなにも、お爺ちゃんは私にご執心という訳か・・・


「・・・友江家は・・・いい、家族ですね」

「うん。自慢の家族だよ」


間髪入れずにそう告げたお爺ちゃんは、私と永羽ちゃんを纏めて抱きしめてくれる

不安そうな永羽ちゃんの顔も、一瞬で驚きに変えるその行動に私も動揺してしまうが、すぐに意図をくみ取った

お爺ちゃんは全部わかっている

幼い頃から大人の顔色を伺ってきただけはある


「一咲と一緒にいてくれる君も、自慢の存在さ。私の事は実のお爺ちゃんと思ってくれていいと言っただろう?私も君を孫だと思うのだから」

「他人ですよ」

「他人でもさ。一咲の大事な親友なら、私にとっても大事な存在だよ」

「ありがとう、ございます・・・」


お爺ちゃんは静かに目を伏せ、作り笑いを浮かべる

永羽ちゃんが目を閉じたタイミングで朗らかなそれを解き・・・

彼女の後ろにあるものを睨み付けるように、目を鋭く光らせた

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