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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第7章中:「鈴海」/福音と幸福の断片

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23:夜想う夢見の悪魔

「・・・」


永羽はかつて言っていた。尾行と偵察にはあんぱんと牛乳があれば完璧だと

こういうのはご主人が言いそうなのだが、今回は永羽だ

永羽がいうなら間違いは無いだろう。幸いにして私の手には今牛乳とあんぱんが握られている

尾行日和というやつだ。ふっ・・・私、尾行も完璧にこなせてしまう完全無欠の悪魔だね


「ずずっ・・・もぐもぐ。ずずっ・・・」

「・・・あれ、反応しろってこと?そんなことない?だよね・・・」


む、偵察対象の日辻彰則。一人で会話をしだした

もしかしなくても頭がやべーやつ?

確かに頭臭いけど、そういう意味で言っているわけではない

中身の方だ。中身が控えめに言ってやばい奴の可能性がある


「もぐもぐ・・・」


まあ、大抵の能力者って頭やばい気がする

魔法使いを見ていたらしみじみと感じる

けれど、あいつは魔法使い達が暮らす島で暮らしている能力者ではない

ここは本土と言われる場所。本来ならば能力者がいない環境なのだ

そんな場所で生活している能力者。何かあるに違いない


「もぐもぐ・・・それを探ってみせる」

「あのー・・・尾行とかされてます?バレていますよ」

「なぜバレた」

「露骨だからですよ」

「おかしい。永羽が尾行にはあんぱんと牛乳があれば完璧だと」

「確かに尾行にその二点セットは王道ではある気がしますが、それを持ったところで尾行が成功する訳ではありませんからね?」

「む?つまりのところ」

「意味はありませんね」

「なん、だと・・・」


おかしい。永羽が意味無いことを言うはずがない

これがご主人経由の知識なら揶揄っていると思考が行き着くのだが、永羽が私を揶揄うわけがない


「永羽という方に貴方がどれほどまでの信用を寄せられているかはわかりませんが、彼女の知識も若干ずれているように感じます・・・」

「なぬっ・・・」


その発想はなかった

確かに永羽はてれびとかいう代物でしかここの知識を得ていないように思えた

ご主人みたいに色々なものに触れているわけではない

本もご主人に読んで貰っていたと言っていたし・・・

偏った知識があるのも頷ける


思えば、永羽って鈴海の事も曖昧で私達とどっこいどっこいのような気がする

彼女は生前のことを多く話さない

ご主人のように生前の知識を活用してここで生活しているわけではない

私達同様、手探りで過ごしているように感じる

それに、ご主人みたいに「両親の元で過ごしたい」ということもなかった

・・・永羽は、親と不仲だった?

流石にこんなのは聞けやしないな


「で、この世界の尾行ってどういうのが基本?」

「え、えぇ・・・それ、僕に聞く?」

「せか・・・いや、本土代表で答えろ」

「本土代表って何!?」

「私は鈴海からやってきた。本土と常識が違うかもだし」

「一緒だよ・・・」

「能力を使用した場合とか」

「それなら、隠密とか透明化とかじゃないかな・・・」

「じゃあ、お前が使える能力で尾行をするならどうする?」

「・・・」


話を切り出すのが早かったか

困惑しつづけていた温和な目つきは一瞬で鋭く細められる


「お前からは私と似た匂いがする。夢を操る能力者だな」

「・・・匂いでわかるって、冗談も大概にしてください。僕は本土の・・・能力者がいない場所の」

「じゃあ、その「女」は何?」


見えていないふりをしようと思ったが、しらばっくれるのならこちらも動く

オーラが禍々しいが、間違いなく日辻とかいう男には変なものが憑いている

ふよふよと浮かぶそれに対処するのは、この体では無理だろう


「・・・」

「・・・角に尻尾。君は悪魔か」

「まあね。さ、そろそろ正体を現してよ」

「んー・・・桜の正体もばれているのなら仕方ないよね」


ぶわっと風が舞い、視界が奪われる

パシフィカが言っていた

舞園がふわふわとした薄ピンクの花弁を飛ばしていたと

それが桜。向こうでは見られない春の花

今は、冬と呼ばれる季節。春は次

まさかこんなに早く「桜」を見られるとは


固められた髪は解け、それこそ羊のようにふわふわ

その側頭部からは私のものと似たような角が生えていた

レンズが歪んでいないメガネを外した先には、縦に細く伸びた瞳孔

堅苦しいスーツから、ふわふわのなにかに身を包んだ彼から解き放たれたオーラは更に禍々しさを帯びた

・・・これは、ヤバい奴をたたき出したかもしれない


「人通りがない場所だから特別だよ。君は神語りでも到達しなかった僕の正体に辿り着いたのだから」

「・・・神語りというのは何かわからない。けれど、お前は何?獣人ではないことは確かだよね」

「そうだね。獣人ではないよ。僕は神を憑けた人間。使う能力も神様のものなんだ」

「・・・この世界は変わっている」

「同感だね。で、これからどうするの?」

「・・・戦ってみようと思ったけどやめておく。私はまだ神殺しの大罪を得るわけにはいかないから」


神殺しはこの世界でどれぐらいの罪状かわからないけれど、少なくとも向こうの世界では大罪だ

神霊族・・・そしてそれに連なる者は「大罪を犯さない限り」殺してはならないという決まりが存在している

破った者は即処刑。こっそり殺しても天にいる神霊族にはわかるらしく、手にかけた瞬間天罰が下されるとか

・・・わかりやすく言えば、私がパシフィカを殺した瞬間、即処刑を受ける感じ


今の私はそんなことで死ぬわけにはいかない

死ぬような自体があれば死に場所ぐらいはちゃんと選ぶし

そもそも死ぬ気は無い


「賢明な判断だと聞きたいけれど・・・その気があれば殺せるんだ」

「うん。私にできないことはない。やればなんでもできる子。わいえぬでぃーけー」

「自分で言うかな、それ・・・でも、殺してくれるのなら今殺してくれてもいいんだけど」

「死にたがりを殺す趣味はない」

「そっか」


視線が窓に向けられる

その先にいたのは、建物を出て行く女性

・・・ふむ。パシフィカのデータを持っている。おそらく彼女がパシフィカの採寸を行ったのだろう

一応見える。私、視力いい方


「・・・立夏」

「知り合い?」

「そんなところ。さて、僕もそろそろ仕事に取りかかろうかな」

「何するの?」

「この会社の人を眠らせて、僕に関する記憶を奪うんだ」

「そんなことできるの〜!」

「できるんだよ。そういえば君、僕と一緒の能力だって」

「うん。私も夢の能力を持つ。対象に見せたい夢を見せられるんだ」

「そっか。本当に似ているね。僕も同じ事ができるから、君も使い方を拡張したら僕と同じ事ができると思うな」

「神の領域に足を踏み入れていいの?」

「踏み入れていいんじゃないかな。地上の民が天に住まう神の領域に到達できるかどうかわからないけれど・・・やってみる価値はあると思う」

「ん」


それから私は日辻にひっついて、能力を見せて貰う

眠らせて、記憶の核に触れて・・・自分の記憶だけ丁寧に消していく

辻褄は残った記憶が勝手に合わせてくれるらしい。便利なことだ


「こういうこと、君みたいなほわほわした子にはできないと思うけど」

「私悪魔ぞ?やってきた」

「やらされてきたの間違いであってほしいんだけど・・・」

「ご主人について行く前は、やってきた。今はやってない」

「強い能力を持ちながら使わせない「いいご主人様」に恵まれたってことでいいのかな」

「うん。凄くいい人。おもしれー女」

「本当に、君のご主人様はいい人って認識していいのかい・・・?」

「いい。うちのご主人、べりーいい人。お姉ちゃんも永羽も、ミリアもパシフィカも、エミリーも皆いい仲間」

「いい縁に巡り会えているんだね。羨ましい」

「日辻は巡り会えなかったの?」


何となくだけど、日辻と同じ気配を持つ人間とはもう出会えている

先程会社を出た立夏と呼ばれた女性も同様。そして伊依の従弟

いい縁に巡り会えていると思う。同じ気配を持つ縁に、ちゃんと

でも、彼の反応は乏しいな。何故だろう


「・・・んー。巡り会えているよ。立夏も、夏彦君も良子ちゃんも、東里君も・・・皆いい人で、いい縁だった」

「過去形?」

「うん。僕はそれを全て断ち切らないといけないから。これから、死ぬために」

「自殺願望がおあり?」

「ううん。家に定められた犠牲として死ぬだけさ。お母さんとお婆ちゃんと同じ道を辿るだけ」

「・・・逃げればいいという選択肢は、ないんだ」

「そうだね。逃げたら、立夏・・・僕のお嫁さんになってくれた人と、大事な一人娘に危害が加わる。これ以上、二人は傷つけたくない」

「・・・そう」


この世界も、なかなかに狂っている

それもそうか。元々私達の世界はこのおかしい世界の人間が生み出した世界なのだ

おかしくないわけが、狂っていないわけがない


「・・・あれ」

「どうしたの?」

「今日、東里君の記憶も消しておこうと思ったんだけど・・・君のお友達に邪魔されているみたい。採寸に来た子・・・じゃないな。金髪のお姉さんかな」

「ミリア?確かに浄化魔法とか使えるけど」

「それだけじゃないねぇ・・・これは「同系統」かも」

「・・・ふぅん」

「君は僕の能力を一通り見ていった。他人の夢から意識下・・・深層に入り、他者の記憶を探ることもできると思うよ」

「私も、お姉ちゃんみたいな事ができる・・・ってこと?」

「お姉さんの能力がどういう代物かは僕にはわからないけれど、能力って遺伝要素が強くてね。僕のこの能力だって先祖代々で記録してきたものなんだ」

「ふむ。つまり、星紋とか魔法とかじゃない純粋な能力だからこそ」

「君とお姉さん・・・能力でできることの差はほぼ無いはずだよ」


「でも、お姉ちゃんは記憶の読み取りしかできない・・・夢を見せるのは私の仕事」

「んー・・・お姉さん、体が弱かったりする?」

「超する」

「なら、丈夫になれば生命維持に回していた力が能力側に傾いて・・・色々使えるようになるかも」

「ほうほう。つまり、お姉ちゃんをいっぱい寝かせて、食べさせればいい感じ?」

「そうだね。病気とかでなければ体を丈夫にするだけでいい」

「なんでそんなこと知っているの?」

「お母さんがね。能力を使い始めた当初は強かったんだけど、衰弱した末期は能力を全然使えなくなっちゃって・・・」

「・・・ごめん」


経験の話をされると複雑だ

日辻は今まで何を見てきたのだろうか

けれどこれ以上は深堀すべきではないだろう

この男に深く関わるべき人間は他にいる

私は一時の客人でいるべきだ


「眠らせてはいるけれど・・・東里君の記憶回収はまた明日にしようかな」

「もう帰るの?」

「うん。仕事をしにね。明日までは、義理を果たさないと」

「義理?」

「うん。僕の大事な友達へのね」


ふわふわの姿を解いて、彼はどこかに立ち去ってしまう

けれど、ふと・・・思い出したように私の方へ踵を返した


「ねえ、君」

「君じゃない。ヴェル・ベリアル。悪魔やってる」

「こ、ここで自己紹介・・・うん、ヴェルさん。一つ聞いていいかい?」

「何?」

「僕と君は同じ夢見の能力者」

「うん」

「君は、自分の夢を見れている?」

「うん。私は夢を見ている。ご主人達と同じ夢を、そして時に自分だけの夢を見る」

「そっか。羨ましいな」


「日辻」

「なぁに?」

「せっかくだから、あの姿での名乗りやってよ。私は記憶を消されずに覚えておくことになる。覚えておきたいから、やって」

「覚えておいても損だよ・・・でもまあ、もう会うこともないだろうしいいかな」

「うん。多分どころか間違いなく私達はもう一生会わない。だから教えてほしい」

「いいよ。僕は日辻彰則。夜想の名を持つ未の憑者神・・・夢を見せる能力を持つけれど」


僕自身は、夢を見たことが一度も無いし・・・死ぬまで見ることはない


そう告げた彼は再び背を向け、前に歩き出す

その背を見送ってから、皆と別れた部屋へと戻っていった


・・


「ぬぁー・・・」

「ぴすぴす・・・」

「・・・」


ヴェルの足取りを追うような夢を見た後、私は皆より早く目が覚める

相変わらず特徴的なエミリーとパシフィカの寝息に笑みをこぼしながら、邪魔にならないところでお菓子を食べていたヴェルの元へ向かう


「もぐもぐ、もぐもぐ」

「ヴェル」

「おはよ、ミリア。よく眠れた?」

「ええ。貴方、それどこから・・・」

「近くのコンビニで買ってきた」

「一人で買い物できるのね。いい子いい子」

「どや。ミリアも食べる?」

「いいの?」

「うん。お腹空いたでしょ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


ヴェルが差し出してくれたパンに砂糖をまぶしたお菓子・・・ラスクというものを食べてみる


「おいしい」

「でしょ?」

「もう一枚、いいかしら」

「勿論」


もう一枚、もう一枚といただいている内にかなりの数を食べていたらしい

「食いしん坊」とヴェルから言われて、顔に熱が上ってしまう

それに、私自身食べ続けている場合ではない


「ねえ、ヴェル」

「なあに?」

「さっき、貴方が私達と別れた後の夢を見たの。貴方、とんでもないものと遭遇したわね」

「まあね」

「あれ、貴方の能力で見せたの?」

「さあ、どうかな?」


肝心な所をはぐらかす彼女は、何事もなく再びお菓子を食べていく


今日は色々あったけれど、ここで一段落

皆が起きた後、私達は地井さん達が手配してくれたホテル・・・宿屋で一晩を過ごす

地井さん達は三人仲良く部屋を使うらしい

私達は二人一部屋らしく、くじ引きでそれぞれ部屋を分けた

ヴェルと一緒になった私は、彼女と明日何をしたいか相談しつつ過ごす

明日は帰りの船まで遊ぶことにしている

本土に来られる機会はほとんどないだろうし、近くのショッピングモールとやらで色々と見て回る予定だ


明日も、今日よりは穏やかで

今日よりも楽しいものになればいいなと願いながら眠りについた

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