11:何度でも、未来で待っている
一方、鳩波家
紫苑さんを連れてきた舞園と私は庭先で奇術という名の魔法を披露しておく
今は、幻影魔法と舞園の変化を悪用して入れ替わりの術を披露しているところだ・・・
「路上のとは全然違うねぇ」
「そうなのですか」
「うん。路上ではね、一咲さんがメインで奇術を披露して、ベリアさんがそれを手助けしていたの。今の奇術はベリアさんも奇術を披露してるよね。だから、全然違うなって!」
「へぇ・・・」
いやはや、こう言っちゃベリアに悪いけど・・・今回の相方が舞園になってよかった
おかげで案ができたわけだしね・・・舞園の変化様々だよ・・・
「私はこっちだよ」
『いいや、私はこっちだね』
「え?」
『え?』
『お前は誰だ?』
「私が一咲さ」
『いいや、私が一咲だ。偽者め!』
「どっちが偽物か!偽物って言った方が偽物なんですぅ〜!」
演技中の舞園は完全に私の鏡映し
素振りに口調、細かい歩き方まで真似てきているのは正直引く
改めて思うが、これこそ曾お婆ちゃんとやり合っていたライバル劇団の看板役者だったんだなと痛感させられる
並大抵の演技力じゃない。素人でもわかるほど凄みのある空気
彼の演技は本物と瓜二つ。正直、これ以上本気を出されたら本物が食われてしまうと錯覚してしまうほどだ
ナティアでその片鱗を垣間見ることはできたが、真っ正面から見たのは初めてだ
・・・ここまで凄かったとはな
でも、同時に考えることが一つ
こいつ、自分に戻れるのか?
前も師匠の掛け声で戻っていたし、自分の意志で演技状態から戻れないのでは無いか?
まあ、その時は通じるかわからないけれど私が師匠に変化してどうにかこうにかするか
最悪、一ノ瀬さんの時渡りで師匠が普通に生きている時に行き、舞園を戻して貰うしかないよな
まあ、これは終わってから考えよう
「最近の奇術は即興劇まで行うのですか・・・」
「本来は行わないんですけど、我々声だけは通るので!」
『音で楽しませようかなって!』
「なるほど。ところで偽物さん」
「どっち?」
『どっち?』
「後に返事をした方」
「『なんでわかるの!?』」
「わかりますよ。これでもこうなる前は舞台に生きていた人間です。耳がバカになっても、ある程度わかる物なんですよ。声の張りとか、台詞の言い方とか。そっくりに思えますが、不自然が少々混ざっている。演技は本物を超えられないんですよ、偽物さん」
『・・・驚いた』
「そんな演技をする知り合いに心当たりがありましてね。もう死んでしまいましたが、うちの朱音と真っ正面からやり合って、その名を帝都に刻んだ男」
『・・・』
「貴方がなぜここにいるのかわかりませんが、奇術師と組んで何をしているんですか、舞園弟。死にましたよね?」
『なぜわかる・・・』
変化を解いて、舞園として立った彼は紫苑さんにまっすぐと向き合う
私も表情には出さないが、なぜ紫苑さんが舞園だとわかったのか・・・その答えは非常に気になる
なぜ彼女はベリアでは無いと・・・それでいて、正面にいるのが舞園だとわかったのだろうか
「一つ。まずは最初に来たベリアさんと次に来たベリアさんの違い。どうやら私に触れるのをためらっている様子でした。最初はふらついた私を自分から支えに来た彼女が、どうして触れるのをためらうのか。ここが違和感を持った瞬間です」
「まいぞのぉ・・・」
『す、すまん・・・』
「次に、貴方たちの演目ですね。ベリアさんは路上で奇術を披露していなかったのでしょう?と、いうことは路上での貴方達は役割分担ができていた。けれど今は、両方が主役で食い合っているような印象を得ました」
「マジで・・・?」
『そこまでわかるものなのか・・・?』
「ええ。つまり、今のベリアさんは「助演」ではなく「主役」に慣れている演技が得意な人間。それでいてその演技。その演技は私が出会った役者の中でたった一人しか達成できなかった狂気の技法です。対象が憑依しているかのような演技・・・精神を壊しかねないそれを達成できたのは舞園桜哉。貴方ただ一人ですからね」
『・・・』
「何をしているんです、こんなところで」
『・・・色々あってな。今は、この奇術師の・・・いいや、魔法使いの師匠と共に行動を共にしている』
「奇術師じゃ無くて、魔法使い」
「ごめんね。騙すつもりは無かったんだけど・・・」
魔法使いと聞いて逆に目を輝かせている志郎君は私の周りをぐるぐると眺めるように回り始める
彼の興味が魔法使いである私の方に向けられているおかげで、舞園と紫苑さんは話に集中できているようだった
『一つ、聞きたいことがある』
「なんでしょう」
『お前は福音書の守り手をどこまで完成させた?』
「今の私に、完成させる暇があるとお思いですか?」
『・・・だろうな』
弱くなった体に一人息子の養育
とてもじゃないが一生未完であることが確定し、半分が回収できないとわかりきっている作品の続きを「自分の担当分だけでも」書くほど彼女に暇が存在するとは思えない
この時期であればエミリーが購入した移動工房の魔女見習いシリーズを執筆している頃だろうし・・・
「・・・一応、進捗を報告しておきますと、進めてはいます。私の部分だけでも完成させて、死んだら棺桶の中に入れて貰って・・・あの世で公演なんて夢ぐらい見てもいいでしょう?」
『・・・』
「桃李さんが作った大道具を背に貴方と朱音、劇団の皆がいて・・・春子さんとああだこうだいいながら、お兄様と一緒に舞台の行く末を、私達が描いた物語の終着を見届ける。戯作家として最上の誉れを味わいながらあの世を過ごす・・・どうですか。理想的でしょう?」
「お母さん」
「・・・私は夢に生きることはもうできない。けれど、夢を見る権利はまだ残っていると思うんです」
決して現実は悪くはない
けれど、もうあの頃のように夢を見ることはできない
今の曾お婆ちゃんのように、陽気でまっすぐに一人で、そして夢を掴むために皆で歩けるような人では無いのだから
「同時にまた、ほんの一欠片だけ残った夢を糧に・・・今、夢に生きている人達の指標となる権利だってあると思うんですよ」
『そうだな。君は今後その指標として名を残すことになる』
「話してもいいんですか?」
『いいさ。それぐらい。それを聞いて慢心し、手を抜くような存在ではないことは俺の腕が主に理解を示しているよ』
「油断させてから折ってやった事がありましたもんね」
『本当だよ。こんな可愛らしい娘がやることか?って何度も頭を捻ったさ』
「可愛らしいなんて、微塵も思っていなかったくせに」
『体裁だよ。少しは察しろ』
昔なじみが現れたことで、懐かしさを覚えているのか
紫苑さんの口が先程より軽くなる
志郎君はそれを見上げながらも、お母さんが元気そうに話すものだから嬉しそうに寄り添って、舞園との話に耳を静かに傾けていた
・・・本当に、お母さんが大好きらしい
「ところで舞園弟。なぜ福音書の守り手が必要なのですか?」
『事情があって』
「事情が何かと聞いているんです。書きませんよ」
『・・・お前の遺作と未完の福音書がお前のひ孫に大迷惑をかけている。俺たちはその問題を解消するために、まずは福音書の守り手から紐解いて「完結」をさせたいと願っている』
「なるほど。子孫に迷惑をかけては申し分がありませんね」
ふと、彼女は私の方に視線を向けてくる
志郎君もまた、私の方を見てにっこり笑っていた
もしかしなくても、わかるものだったりするのだろうか
「では、こうしましょう。舞園弟と友江さん」
「はい」
『なんだ』
「私は死ぬまでに必ず福音書の守り手・・・自分の分を書き残します。ただ、先程も言ったように、私が死んだら一緒に燃やすように遺言を残すので、私が生きている間に再度会いに来てください。貴方たちならできるのでしょう?」
本来なら無理だというところだが、今の私達にはできる
それを可能とする存在がいるのだから
多少、無理をさせてしまいそうだが・・・そこはまあ、何か今度お詫びをしようと思う
「わかりました」
『わかった』
「では、この話は終わりにしましょう。長いも無用です。今すぐ・・・ああ、少し待ってください。友江さん」
「なんです?」
「風呂場の雨漏り修繕を、貴方の相方に頼んでいたんです。帰ってこないようなので代わりにやっておいてください」
「・・・えっ?」
まったくも〜。ベリアさんってば!
自分が引き受けておいて逃げるとか酷いなぁ〜
それに逃げまいが私にさせる気満々だったじゃん!
ベリア修繕の知識はあるけど修繕できる程の腕力ないし!
「ぐぬぬぬぬ・・・」
「魔法凄いねぇ!」
その後、風呂場に案内された私は時間遡行魔法で天井の修復を行っていく
奇術から魔法という種あかしをした結果か、志郎君は最後まで私の魔法を見守り、愉しそうにはしゃいでいた
「あのぉ・・・ひいお・・・じゃなかった。紫苑さん」
「なんですか、ひ孫」
「やっぱりあんた私がひ孫だってわかってるんですね!?まあいいや・・・ここ、何年住む予定ですか?」
「引っ越し予定は一年後なので、一年持てば大丈夫ですよ」
「時間遡行一年やってやらぁ!」
気合いと根性の時間遡行を果たし、風呂場から雨漏りは無くなった・・・と、思う
それから、私達はベリアと一ノ瀬さんを捜しに鳩波家を後にするのだが・・・
「一咲さん」
「どうしたの志郎君」
「また会おうね」
「うん。またね、お爺ちゃん。長生きして待っててよ」
もうどうせバレていると思って、いつもの呼び方をすると・・・
志郎君・・・お爺ちゃんは最初こそ驚いていたが、すぐにどういうことかわかったみたいで
「・・・うん!待ってるね!」
『ああ、お爺ちゃんは何度でも待つからね。一咲』
記憶の中に重なるような幼い笑みを浮かべて、私達の背を送ってくれた




